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【時事評論2022】

世界ストレスの増加

2022-01-09
  世界にストレスが増加しているということは、多くの人が感じるところであろう。毎日のニュースは暗いものが多く、特に世界で頻発している紛争や中国・ロシアの不穏な動きは大規模な戦争の予感を与え始めている。そうしたストレスを科学的に計量化する試みはあるのだろうが、まだ公的に知られているものはない。かろうじて個人のストレスに関しては「ストレス指数」というものがあるが、その原因に上げられているものは全て個人の事情(離婚・転職、等々)によるものであり、ニュースをストレスの原因に挙げていないのは不思議である。つまり個々人としてニュースは潜在的なストレス要因になっているはずだが、本人はそれをストレスと意識していないため、具体的に自分の身に起こったことしかストレス原因として挙げられないのであろう。

  この問題に関しては以前から多くの項を設けて論じてきたが、改めて「世界ストレスの増加」という視点で考察してみたい(20.11.2「ストレスポテンシャル論」・20.11.30「ストレス論」・20.12.6「ストレス論の医学的側面」・21.7.19「環境ストレス論 」・21.9.1「ストレス崩壊論 」)。大きな世界ストレスには以下のような項目が挙げられる。
 1.コロナ禍による経済の変調
 2.中国・ロシアの不穏な動き
 3.各国に生じている国論分断
 4.技術革新の速さに追いつけないために生ずるストレス
 5.情報量の多さに追いつけないために生ずるストレス

  まず1.のコロナ禍による経済の変調について述べよう。これは自然界の人口調節機能であるにも拘らず、人間生命至上主義の蔓延する世界ではウイルス撲滅を目指して「ゼロコロナ」政策が最初採られた。だがそれがもたらす人間の日常生活の破壊や経済的行き詰まりを意識しだした国では、「ウイズコロナ」政策への転換を始めたところもある。確かにコロナ禍はグローバリズムを停止させた面もあり、世界経済にとって大変革を迫るものであるが、一方ではワクチン開発などでインドが進出してくるなど、医療ビジネスにも大きな変動をもたらした。さらに各国が財政出動をした結果、その余剰資金は先端技術を持つ国に集中し、一種のバブル状況が作り出されて株価は上昇している。これは必ず破綻するものであり、それがいつなのかということについては専門家の間でも意見が分かれる(21.9.22「中国経済に異変・恒大グループ危機から始まるか? )。

  2.中国・ロシアの不穏な動きについては、従前からは中国の脅威に世界は注目してきたが、最近になってロシアがそれに同調するような形で動き出し、ウクライナ奪還(ロシア側の視点)を目指して軍を国境に配備した。だが米欧の強い反発に遭って現在は流動的である。中国は毛沢東以来の中華至上主義を着々と実現すべく、習近平は2014年に「中国の夢」を掲げ、既にアメリカを消費者物価指数では上回り、技術面でもAIテクノロジーやミサイル・宇宙技術でも上回りつつあると言われる。問題は中国には世界との協調という理念はなく、飽くまでも中国を中心とした幕藩体制のようなものを創り出そうとしていることにある。そのための強硬な政策を矢継ぎ早に繰り出しているのは、習近平在位の間にそれを成し遂げようとしているからであり、2013年発表の「六場戦争論」はそのロードマップであった(20.10.16「中国の急激な先鋭化は何を意味する? 」)。中国をもはや止めることはできない(21.4.16「中国情勢 」)

  .各国に生じている国論分断の顕著なものはアメリカであろう。トランプとバイデンの争いはまだ続いており、トランプを支持する「Qアノン」を筆頭とする右派国民は、さらに過激さを要求しているという。もはやこの国は1つにまとまる可能性すら棄て去ったように見える。だが中国からICBMを打ち込まれてニューヨークが消滅すれば、時遅しであるが米国は国論が一致する可能性はあるのかもしれない。中国はオーストラリアの一言に対して過剰に反応して石炭輸入停止という経済制裁を行い、逆に自分の首を絞める結果をもたらした。今やエネルギー需要の復興はエネルギー価格を格段に引き上げ、各国を苦しめ始めた。そのためインドネシアは石炭輸出を一時停止し、トルコは政策の誤りで物価上昇に歯止めが効かず、カザフスタンではデモが発生し、ロシアが介入する事態になった。リトアニアでは中国による経済制裁に音を上げて国論が分断する状況になっている。韓国では政権が原因で米国・日本との間に分断が起きた。国論分断の多くは政府への不満やこうしたエネルギー価格高騰による経済難によるものだが、アメリカの場合は衰退に伴う国民のあがきと解釈した方がいいだろう(20.11.13「米国の衰退と中国の台頭・日本の役割は?」・21.1.12「アメリカ衰退の状況論」)

  4.技術革新の速さに追いつけないために生ずるストレスは人と国家の両方に押し寄せている。フェイクニュースやプロパガンダがこのストレスを増大させており、多くの世界の民はどうしたら良いのかという判断ができずにいる。特に老人にとっては世の変化が大きすぎることにより、取り残された感じを持つことで、そのストレスが増す。国家もまた、技術競争に熾烈な闘争を繰り広げており、過大な投資が国民にではなく、先端企業に向けられている。そのことによる先端を走る巨大企業はさらに利益を上げ、国民の間の経済格差は埋めようのないほど拡大している。中国は国家統制の意図からこれら民間大企業を狙って規制を始めたが、表向きの理由は「共同富裕」という社会主義本来の理念であった。だがその実態は、国家予算が世界に「一帯一路」政策などによってばら撒かれ、資金切れしたからではないかと観ている。それはともかく、国民に再投資する機運が若干出てきており、日本も岸田内閣が「新資本主義」を掲げて中国の再配分手法を真似した。それだけ経済格差が世界で進行していることを示しているのであろう。

  5.情報量の多さに追いつけないために生ずるストレスというものは、目に見える形では表れない。たとえば目の前に3つほどの品物を置かれて、瞬間的にそれを見て記憶することを想像してみよう。多くの人は認知症でないかぎりそれはできるであろう。だが3つの5桁の数字となると、それはほとんどの人にとって記憶は不可能になる。さらに10個に増えればもうとてもチャレンジする気にもなれない。情報量が過多になると人間はそれを受け付けることすら困難になる。まして情報が錯綜してどれが真実か分からない状況になると、人は情報を拒否するようになる。理解不能という現実は人の心に大きなストレスを生じさせるからである。

  ストレスは病の元であり、それは国家の病変をももたらす。そして国家の異常な振る舞いは他国に悪影響をもたらし、それは世界のストレス増大へと繋がる。人間でも病気の多くがストレスが原因であることが近年科学的に証明されるようになってきた。ある俳優は癌になった原因が、その数年前に激務に晒されたことにあることに気付いた。多くの場合ストレスは自覚されないことが多く、それが病気の原因であると気が付かない。同様に国家の場合も、現在という短い時間の中で政策判断をしようとしても、それ以前の経緯や歴史に縛られて選択肢が狭まるのが普通であり、他国からの挑発は国民感情的なものから短絡的に戦争に発展しかねない。現在の世界の状況はその意味で極めて憂慮すべきものであり、一刻も早くAIなどを駆使して、世界のストレス状況を定量化し、それを世界地図に投影して状況判断をしていくべきである(21.4.10「」)



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