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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

環境ストレス論

2021-07-19
  「環境ストレス」という言葉はよく使われる言葉であるが、それを実感するのが気候変動である。異常気象と呼ばれる現象が世界のあちこちでニュースになり、最近ではドイツとベルギーで豪雨により120人が亡くなったという。ヨーロッパで豪雨により死者が出るというのは近年のことで、以前は聞いたことがなかった。筆者自身、先日剪定作業をして脚立に乗っていたときに、20mも離れていない住宅地の新築現場で突如大粒の雨が降り出して滝のようになったのを見た。こちらはまだ降っていなかったので急いで避難した。こんな経験は初めてである。まさに局地的災害がいきなり起こるということが良く分かった。その経験から気象が環境ストレスでイライラして凶悪化しているのではないかということを感じた。そこで環境ストレスというものがどのようなところに地球病をもたらしているのか、ということについて考えてみることにした。

  環境ストレスという言葉自体には、温度・湿度・太陽光・大気成文の変化が基本事項としてある(20.11.30「ストレス論」)。これは動植物や物体に対してその変化がストレスとして作用する。これに対して動物では太陽光の遮蔽(物陰・穴倉に入る)・発汗で対応するが、人間に比べて発汗機能の少ない動物は暑さに弱い。植物の場合は乾燥による高浸透圧現象が起こる。高浸透圧ストレス応答は、細胞の一般的な環境ストレス応答の原型ともいえる。太陽光の変化に対する応答では、過剰な光の存在は強光ストレスとして光合成反応を阻害するという。人間は技術によって人工システムを作り出すことで対応する能力を持っている。

  このように環境ストレスというものは生物に対する作用という観点から考えられているが、それら物理的変化は事象の変化としての異常気象などをもたらすため、その異常気象が人間などの動植物にストレスとして働くという、段階的・重層的構造を持つ環境ストレス→異常気象→自然災害→動植物に影響、という段階的影響は、よく「風が吹けば桶屋が儲かる」論的な説明として使われることもある。実際に現在起きている環境ストレスのそもそもの原因を考えてみると、環境ストレス要因の中に段階的(階層的)なものが見られる。

  たとえば、もし人間が化石燃料を使っていなかったら、人間は現在のような大量の食糧生産に成功しておらず、人口もおそらく20億人程度で留まっていただろうから、二酸化炭素の増加は急激には起こらず、漸増的な二酸化炭素の増加は植物を繁茂させて二酸化炭素を減らす方向の変化(負のフィードバック)が誘発され、結果として自然の大気組成はバランスが保たれていたであろう。そのことは大気の安定につながり、気象の変化がどの程度であるかは分からないが、1万年に及ぶ気温の安定からみると、その安定は数万年に及んだに違いなく、もう少し長く人類は生きながらえることができたであろう。

  だが人間が知能を持ったことが、以後に起こる地球環境の劇的変化と環境ストレスの増大の最大の原因となった。人間はエネルギー源を人力・動物力から化石燃料を利用した内燃機関に移行させ、大規模産業を興した。それらから生ずる廃棄物としての二酸化炭素が大気組成の微妙な変化をもたらし、それが環境ストレスとしての最初の要因になったと思われる。太陽光の変化は太陽活動によって支配されているので、太陽活動の周期性やその大きさの幅から考えても、現在の知見では問題になるほどではないと思われる。

  人間の化石燃料使用→二酸化炭素濃度変化→温暖化→異常気象・海面上昇→動物の窒息死、までは流れが辿れるが、その後に植物に及ぼす影響には2つの考え方があると思われる。1つは植物を減らしてきた人間が居なくなることと二酸化炭素濃度の上昇で植物が大繁栄するという考え、もう1つは気温上昇がもたらす乾燥化で、地上植物が枯死・山火事により減少するという考えである。筆者は現在の状況から察するに後者の可能性が大きいと思っているが、実際に3000年を迎えてみないと分からないことである。既に人間が居なくなってしまったと考えると、それを考える意味もないことになる。

  だがもし人間が環境ストレスを乗り越えて、地底に生存領域を見出し、科学技術を駆使して対応できたとすれば、未来の自然環境の変化を考えなければならないことになる。また破綻途上にある現代の我々人類としては、そうした希望的観測を優先させるべきであろう。ノムが人間の最後の拠り所として地下生活を提案するのも、環境ストレスを回避する手段として最高な方法であると考えるからであり、それは地表の高温化・乾燥化から逃れる唯一の方法である。ノムはこれを「環境シェルター」と位置付けており、その実験的構造物を造って実験を重ねている(7.17「水害地に環境シェルターの設置を! 」)

  現代は科学技術だけでこれに対応しようとしており、たとえば高温化に対してはクーラーの増設・強化で対応しようとしており、そのエネルギーの増大を化石燃料に依存しているという有様であり、まさに正のフィードバック効果により温暖化を加速させている。そういうやり方ではなく、まず地下に住居を移動して冷暖房に必要なエネルギーを減らすべきなのである。だが国連の推奨するSDGsでは、そのような提案は全く皆無である。

  生物は環境の変化に対して、適応と進化によって対応し、生命の存続を続けてきた。それは今後も起こる事であり起こらなければならないことである。適応の一手段として地下という生息環境への移行がある。それを第一優先に考えなければならない。居住空間を地上に拘り続けるならば、さらなるエネルギーの必要の増大に悩まされることになり、結局は自縄自縛に陥るだろう。科学者も考えを一変させて、新たな居住領域に目を向けなければならない。


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