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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2020】

米国の衰退と中国の台頭・日本の役割は?(11.14追記)

2020-11-13
  アメリカの大統領選挙はさまざまな印象をもたらした。まず第一にアメリカの民主主義の欠陥が露呈したこと(6.3「米国の暴動が示した民主主義・個人主義の劣等性(10.23追記)」参照)、そしてトランプのその場しのぎの予測できない政策がアメリカの衰退を印象付けたこと(6.4「アメリカの自由主義が崩壊するか?」参照)、逆に中国が、自国が発生源となったコロナ禍により破竹の勢いで進めてきた世界制覇戦略に陰りが見えてきたにも拘らず、開き直りの姿勢で全体主義の優位性を強調し始めたこと(4.9「全体主義の優位性」参照)、世界が中国の経済力に未だに依存し続けており、袂を分かつ決断力に欠けていること(7.28「日本は立ち位置を鮮明にすべきである」参照)、などが誰の目にも明らかになってきた。
 
  中国の台頭はその原因が欧米や日本による優遇にあったことは前にも述べてきた。WTO加盟にその発端があり、天安門事件発生後の日本の先走った援助がこれを助長した。そして日本は日中戦争の賠償と言わんばかりに巨大化した中国という巨人に惜しげもなくODAという経済支援を与え続けてきた。それは欧米が中国市場というものに利益を求めようとしたからであり、日本は中国に贖罪意識を持ったためである。誰もが中国が本質的に世界制覇を狙う特性を持つ国であるということを見逃した(2.5「中国の恐怖体制あらわに」参照)。ある人は見て見ぬ振りをしたのかもしれない。声高に中国帝国論を唱え続けてきたのは筆者くらいなものかもしれない。だが筆者ですら中国の脅威を感じ始めたのはここ10年位のことであり、気が付いたときには既に遅かった。中国は既に自力でその力を推進できるほどに成長してしまっていた。
 
  アメリカの衰退は筆者には明らかであると見えていたが、経済指標や株価などはそれを必ずしも示していなかった。それは筆者には感じられなかった部分でアメリカの支配が根底にあったからである。特にそれは近年ではIT関係の基準となって明瞭に表れており、GAFAの世界支配の根拠ともなっている。つまりアメリカは先端技術と世界基準という知財によって世界を支配していると言えよう。だが筆者が生活から感じるのは、家にアメリカ製品はたった1つしかないということであり、食品を除く購入品の7割が中国製であることにより、アメリカの衰退と中国の台頭を実感してきたのであるが、誰もそれが恐ろしいことであるとは思わなかった。アメリカを日本製品が席巻した1960年代から1980年代には日米貿易摩擦が起こっており、貿易不均衡は必ず国家間の経済衝突に発展することを学んだはずなのに、生活状況から米中対立を推察することができなかったのは、経済専門家が先を見抜く力を持っていなかったせいなのか、未来学者がそうした視点を持っていなかったせいなのであろうか(6.9「未来学者はその役割を果たしているか?」・6.21「専門知の偏向による愚」参照)
 
  筆者はより本質的な国家の在り方という視点から中国の驚異的成長を恐怖の思いで見てきた(6.26「報復国家・中国への不安と恐怖」参照)。彼らが世界第二位の経済大国になる2010年以前から、彼らの野望というものを感じてきたからである。それは近年明らかになったことであるが、鄧小平時代には文化大革命で立ち遅れた技術を急速に取り戻し、西洋に追いつき追い越せを実現するために日本と同様、本意をひた隠しにして「白猫黒猫論」・「改革開放」・「先富論」を唱えて資本主義を導入し、表向きの対立を徹底的に避けたのである。これを韜光養晦(とうこうようかい)と称している。つまりじっと我慢して表に出ない姿勢を貫いた。一般には、爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術を意味する。だがそれは単なる便法ではなかった。恐らく鄧は将来中国が資本主義化により西欧と同じような体制に移行していくことも予測していたに違いない。だがそうはならなかった。この便法が思いがけず奇跡的な成長をもたらし、中国は自国の体制が優位性を持つと錯覚してしまったのである(4.9「全体主義の優位性」参照)。確かに中央の指令が的を得たものである限り、それは迅速な決断、果敢な実行をもたらすために優位性を発揮する。だが中国が奇跡的成長を遂げられたのは西欧と日本による特別な優遇措置があったからに他ならない。純粋に自国の力だけで競争をした場合、中国の成長速度はもっとはるかに遅かったに違いないからである。現在でも大多数の貧民の年間所得は最貧国並である。だが中国は賢明にソ連の崩壊の原因(アメリカや西欧列国との体制対立)を悟っていた。そして同じ道は辿るまいと心に決めたに違いない。そのため表立って西欧や日本と衝突する案件については妥協を繰り返した。それは彼らに屈辱の念を与えたに違いない。だがいつの日か、それを覆す日が来るに違いない、来た時には中国が世界を指導する立場になる、と彼らは信じてきた。そして習近平はその時が来たことを確信し、矢継ぎ早に革新的政策を打ち出したのである(10.16「中国の急激な先鋭化は何を意味する?」参照)
 
  予断であるが、かつて外務省の田島高志は、1978年8月の日中平和友好条約交渉において鄧小平がソ連を覇権主義と批判し、中国の反覇権を条約に明記するように主張していたと語る。その際に鄧小平が園田直外相に対し、「中国は、将来巨大になっても第三世界に属し、覇権は求めない。もし中国が覇権を求めるなら、世界の人民は中国人民とともに中国に反対すべきであり、近代化を実現したときには、社会主義を維持するか否かの問題が確実に出てこよう。他国を侵略、圧迫、搾取などすれば、中国は変質であり、社会主義ではない」と述べたという。それは鄧の本心だったかもしれないが、状況論はそのような希望的観測を許さない(7.25「国家の意思」参照)中国が社会主義を放棄したかのような資本主義導入を図ったのは鄧小平であり、彼は将来社会主義を放棄するときが来るかもしれないと予想していたようである。だがそれもまた状況論からすると甘い予想に過ぎないことが分かる。中国が社会主義という独裁を放棄したならば、広大な国家を維持できなくなることは明らかであるからである。それは選択不可能なものであった。もし中国がソ連と同様、体制を誇って西側諸国と対立していたならば、確実に中国は崩壊して現在のロシアと東欧諸国のように分裂していたであろう。だが中国が謙虚に振る舞い、西側が中国の市場を目当てに支援したために、双方の相乗効果が奇跡的経済発展を中国にもたらし、いつしか中国は「世界の工場」と称せられるようになり、世界のサプライチェーンを握ったのである。現在西側自由諸国が中国を放棄できないのは、そのサプライチェーンが西側にとっても無視できないほどがんじがらめに縛りになってしまっているからに他ならない。そして中国が経済的にも軍事的にもアメリカに伍す状況になれば、当然の結果として中国は覇権国家になる宿命を持っている
 
  日本の戦後の歩みは徹底した平和主義であった。アメリカに追従するかのような姿勢を取っていたことに対しては石原慎太郎・盛田昭夫が「NOと言える日本」を書いて怒りをぶつけている。中国に忖度する態度については誰も指摘してこなかった。最近になって中国脅威論が大手を振るようになったが、NHKが「シルクロード」を放送していた頃はまだ中国は近くて遠い国だったのである。つまり内情をほとんど知らなかった。それゆえ脅威と感じる人はここ10年以内に増えたとみていいだろう。現在もアメリカが中国包囲網を築こうとしているのに、日本は中国と面と向かって対決姿勢をとっていない(7.28「日本は立ち位置を鮮明にすべきである」参照)。日本は敗戦という心の痛手を被って以来、自信喪失状態にある。中国国民の最近の調査では8割が「満足している」と答えているのに比べると、同じ調査をしたならば4割に届くか心配なほどである。しかも中国と決定的に異なるのは、下心を持っていないことにある。中国は覇権国家、ないしは中華帝国を夢見ている(習近平の「中国の夢」)のに対して、日本は何を目指しているのかも定かではない。ひたすら平和ボケして目標を失った流民に等しい。安倍晋三元首相が「戦後レジームからの脱却」を唱えたが、その先に「美しい日本」という抽象的な概念を置いたにすぎない。むしろ「世界の仲介者を目指す」とでも言った方が明確に日本の進路を示せたであろう。つまり日本はどことも戦争をするつもりはないし、全ての国と八方美人的に付き合って信頼関係を築きたいと願っている。だがそのような中途半端な姿勢が今後も通用するかは疑問である。
 
  最後に日本の果たすべき役割を述べてみたい。日本が事実上仲介者としての役割を担い始めたのは明らかである。それはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)をアメリカから引き継いで主導している姿に表れている。さらに軍事的な半同盟である「クワッド」と呼ばれている日米豪印4ヵ国の結束を主導しているのも日本であると言っていいだろう。11月13日にはG20でコロナ禍に喘ぐ債務国の債務一部免除による支援が合意された。麻生財務相は「パリクラブ(主要債権国会議)以外の国も含めて合意できたのは、歴史的なことだ」と評価した。恐らく日本の主導があったに違いない。事実上戦争などできない法律に縛られた日本が、世界をまとめるのは不可能である。だが世界が米中という敵対関係に入った現代では、日本のような中途半場な国の存在は意外に貴重なのかもしれない。だがそれよりもっと重要なのは、日本が決して戦争を望んでいない、侵略もしない現代国家として世界に認識されていることである。それはある意味で仲介者として最適な条件を備えていると言えるだろう。経済的にも世界第3位を保っており、軍備はアジアでは有数なものであるが、他国を侵略したり攻撃したりする能力を持っていない。それは諸国に安心感を与えている。しかも歴代の首相は他国を尊重し、決して争わないように配慮してきた。友好国は数知れず存在し、しかも歴史的に信頼を勝ち得ているところも多い。太平洋戦争中に東南アジアに進出していながら、それらの国から信頼を得ているというのは奇跡的なことである。それも日本が各国を投じの西欧による植民地から解放するために戦ったということを知っているからであろう。委任統治をした台湾は最も友好的な国として今もその信頼は強い。そのような邪心のない国家は滅多にあるものではない。その信頼を糧にして日本は世界に仲介者としての役割、統率者としての役割を果たしていくべきであろう。日本はその役割を果たせる思想的な基盤(儒教・仏教・日本教)を持っている。それは武士道精神として世界に知られている。その無形遺産を生かしてより明確な思想を形成し、それを世界に発信していくべきだろう。ノム思想がその一つとして評価されれば、筆者としては望外の喜びである。
 
  追記となるが、この記事をアップした翌日、産経新聞のコラムの「産経抄」が、日本がアメリカの動きに合わせた対応を模索している現状について苦言を呈し、「日本はプレーヤーとして自ら動いていくしかない」と提言したのは時宜を得たものであった。筆者の方が一日先であったことは自慢してもいいだろう。このコラムで非常に有意義なことを知った。それはトランプが2016年の選挙で当選を確実にした11月9日、日米同盟の根本的見直しを迫られる可能性について周囲に問われた元安倍晋三首相は、「そうなれば、それを日本の対米自立の切っ掛けにすればいいんだ」と述べたという。安部がそこまで覚悟を決めていたとは意外であった。そして11月17日には非公式にトランプをトランプタワーの自宅に訪問して友好関係を築いた。その優れた政治感覚は後々語り草になるだろう。安倍の外交スピーチライターを務めていた谷口智彦は2016年11月11日、自身のフェイスブックに国内反応への不満を次のように書いた。「問題の立て方自体が間違っている。アメリカがかくなれば、日本もかくなると、いつも日本は受け身の側だ」。産経抄も「日本はどうなるかではなく、日本がどうするかを考えるべきだろう」と正論を述べている。
 
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