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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

ストレス崩壊論

2021-09-01
  「ストレス」については多くの項で触れてきた(20.11.30「ストレス論」・20.12.6「ストレス論の医学的側面」・7.19「環境ストレス論 」)。おなじ主張の繰り返しにならないように気を付けたいが、今回はその崩壊過程について述べたい。物性論に有名なフックの法則がある。古い知識であるが、ばねの伸びと弾性限度以下の荷重は正比例するという近似的な法則である。ここに「弾性限界」という言葉が登場する。応力を除いても元の形に戻らないということを表しているが、さらにこれを超えると応力破壊を起こす。すなわちユリ・ゲラーのマジックではないが、ポキっと折れてしまう。これは物理学の問題だけではなく、健康や免疫、そして病気や環境問題でも取り上げられるテーマである。ストレスがもたらす歪が様々な問題を惹き起こすことを考えてみたい。

  人間について言えば、人は毎日なんらかのストレスを受けながら、それを回避したり、懐柔しながら生きている。たとえば、①病原菌の侵襲ストレス・②疲労ストレス・③精神的ストレス、などである。昔の人は病気になると治療法が少なかったために、しばしば死に追いやられた。だが現代人よりは遥かに病気になりにくかったと思われる。それは多くの病原菌(ウイルスを含める)に対して、強い免疫力を持っていたからである。それは①によって鍛えられた免疫と言ってよいだろう。②の疲労ストレスに対しても強かった。ものすごい労働をしても、疲労感は少なく、熟睡で回復させる能力も驚異的であった。現代人は疲労感があっても熟睡できず、万年的に疲労ストレスに悩まされている。③の精神的ストレスというものは昔はほとんど皆無であったろう。どんなに苦労してもそれを共有してくれる仲間がおり、冗談などで吹き飛ばすことができたからである(7.18「喫煙の効用 」)。だが現代人はこのストレスが最も大きくなっていると思われる。そしてその解消の仕方は非常に受け身的でかつ刹那的であり、一時的な解決に終わっている(スポーツ観戦等)。

  現代医学や生理学の発達で、ストレスがもたらす身体的影響がかなり分かってきた。だが何がストレスの原因になっているのか、はたまたストレスとはどういうものなのかについて、現代人は意外と理解していないようである。以下にストレス症状を紹介したい。

 1.夜眠れない、又は朝起きれない
 2.楽しかったことへの興味が薄れた
 3.お酒の量が増えた
 4.怒ってばかりいる
 5.羞恥心や罪悪感が強い
 6.常に落ち込んでいる
 7.集中することができない
 8.食欲に目立った変化がある
 9.スケジュールを詰めすぎてしまう
 10.「人生に何の意味が?」と思ってしまう
 
というような症状があれば、かなり強いストレスが掛っていると思った方がよさそうだ。筆者の場合、このそれぞれの項目を10点満点で点数をつけてみた。点数が高いほどストレスが大きいとすると、1:5点、2:10点、3:0点、4:0点、5:0点、6:0点、7:0点、8:0点、9:10点、10:0点、であり、合計で25点であった。やはり多少なりともストレスを受けていることが判る。だがそれは問題になるようなレベルではないため、この採点法で60点以上にならなければ気にしない方がいいだろう。

  2016年6月に放映されたNHKスペシャル「シリーズ キラーストレス」(2夜連続)は大きな反響を呼んだという(筆者は再放送で見た)。ストレスが突然死・癌・脳卒中・心筋梗塞などを惹き起こすことが最近の研究で分かってきたのである。家族の不幸がこのキラーストレスをもたらすこともある。仕事上の大きな葛藤なども同じである。無呼吸症候群がこれを促進させることもあるようだ。特に独り暮らしの人は要注意である。うさを晴らす相手が身近にいないからである。昔はこうしたストレスは大家族制の中で解消されていた。だが現代の個人主義化によって晩婚化・少子化・少家族化を経て、生涯独身も多くなってきた。結婚に意味を見出せない女性も出てきていると言う。

  これらの個人ストレスは、組織ストレスに繋がっていく。同僚との協調ができなくなる適応障害が心療内科を流行させる結果となっている。さらにこれは国家間ストレスに繋がっていく。国家間の協調ができなくなり、すぐに対立構造にもっていこうとするようになる中国はその典型として戦狼外交をしているが、それが戦略であったとしても、決して良い結果をもたらさない。こうして世界全体のストレスが戦後から76年を経て、急激に高まっている。こうした社会ストレス変化を明示したグラフというものは無いようだが、もしあったとすれば、級数曲線的な上昇カーブを描いているだろう。そしてそれは恐ろしいことに、カタストロフィ現象を意味しており、ついにはある日突然勃発する第三次世界大戦によって崩壊過程に突入する

  カタストロフィ現象は自然界に多く見られ、人間界でもいたるところに見られる(7.1「カタストロフィの事例と前兆 」)。特にそれは戦争という人為的現象に表れるである。戦争前の国民の熱狂がそれをもたらすことが多い。たとえば太平洋戦争前では、アメリカ国民は厭戦気分であったという。元々孤立主義(モンロー主義)をとっていたこともあり、日本と戦争しようとなどルーズベルト大統領以外には考えていなかったに違いない。だが日本が真珠湾攻撃を仕掛けてアメリカをぎゃふんと言わせたことで、彼らアメリカ国民の愛国心に火が付いた。その後の経過は歴史が証明しており、戦争に突入するとともに米国は総力を挙げてヨーロッパ戦線と対日本戦争に邁進し、大勝利とともに戦地にならなかったことで世界の超大国になったのである。戦争のもたらす結果は安定である。第二次世界大戦は原爆投下という人類史上初めての大災厄をもたらしたこともあり、戦後体制は暫くの間安定していた。冷戦はあったものの、ソ連は自壊してしまった。ベルリンの壁も一気に打ち破られ、戦後50年ほどは奇跡的な平和な時代であったと言ってもいいだろう。途中朝鮮戦争・湾岸戦争などあったが、全体としては超大国となったアメリカの警察官に守られた平和が続いた。

  だがここに来て、その平和は中国の台頭で打ち破られつつある。ソ連崩壊後のロシアも独裁的傾向を強め、イランやアフガニスタンでは宗教国家が誕生して先鋭的な挑戦を続けている。北朝鮮は核兵器を得て馬鹿げた妄想に走ろうとしている。そうした状況は、誰が考えても極めて不安定なものと判断されるだろう。NHKの「時論公論」という番組の説明に、「混沌とした時代、次々と押し寄せるニュース・・」と書いているのはそれを象徴している。誰もが現代の状況をどう理解したら良いのか分からず、価値観の違いや意見の百家争鳴に呆然と立ち尽くしているというのが現実なのだろう。明らかに世界ストレスの上昇が起こっており、それはキラーストレスとなりつつある。そしてカタストロフィ理論の示す通り、ある日突然その上昇は崩壊し、その後に安定に向かう。その崩壊過程はほんの1日かもしれないし、数十年続くことになるのかもしれない。この場合、安定がやってくるのはかなり先になると観なければならないだろう。第三次世界大戦には勝者も敗者もないからである。この戦争の本当の勝利者は、戦いに参加しなかった小国なのかもしれない。

  本項のテーマからして、ここで論を終えるつもりであった。だがこれを読んだ人には絶望感しかないであろうと考えると、その先の希望についても触れておきたいと改めて考えた。それは本ブログのタイトルである「未来世界へのいざない」に沿うことにもなるだろう。

  ストレスが崩壊したあとに、何も残らないということはない。必ずある種の生物が生き残り、進化を遂げて再び新世界が生まれる。自然界の脅威などによる生物の絶滅と進化、そして繁栄は繰り返されてきており、決して生物が絶えることはなかった(5.7「動物と人間の絶滅の危機 」)。それは地球が存在する限り続くことである。第三次世界大戦後には生き残った人類の間で戦国時代が始まるかもしれないサバイバル時代(1.21「衰退期のサバイバル術」)。アインシュタインはそれを「こん棒を持って戦う戦争」と皮肉を込めて予言した。すなわち現代文明はその根底が消失し、後に残された人間は原始的にならざるを得ないと皮肉っているのである。だが、現実には世界の全ての都市が破壊されるわけではないことから、文明の復活は意外に早いと思われる。だが世界の指導者がほとんど失われた状態で安定がもたらされる訳もないことから、戦後は戦国時代にならざるを得ないのではないかと思われる。だがそうした中にあっても一部の人類の英知はより進み、進化を短期間に遂げる可能性がある(3.12「人類の挑戦と進化 」)。それは生命工学によるものかもしれないし、環境変化がもたらすのかもしれない。そうして知的に進化した新人類(筆者は「ネオサピエンス」と仮称している)が、戦争のない世界を創り出すであろう(4.8「ホモサピエンスからネオサピエンスへの進化 」)。それには世界が単一の権威の下にひれ伏す必要があり、なおかつ再び争いをおこさないための智恵が必要である(20.7.29「事象の進化と統合化・統一化 」)。そうした叡智を持つ賢人が世界を導くことで、人間の持つ自己矛盾が克服されるに違いない(5.1「賢人政治は成り立つか? 」)。そのためには統一された思想が必要であり、筆者の説く「ノム思想」がその出発点となるであろう(20.9.7「ノム思想(ノアイズム)とは何か? 」)。読者が生きているうちには絶望しかないが、未来には大きな人類の飛躍があると筆者は確信を持って言うことができる。


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