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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2020】

中国の急激な先鋭化は何を意味する?

2020-10-16
  このところ中国の対外的挙動が先鋭化している。以下にオーストラリアを事例に【時事通信】の記事を拾って流れを整理してみる。オーストラリアはすくなくとも2015年辺りまでは親中国であった。中国はオーストラリアにとって最大の資源(石炭)輸出相手であり、貿易上の利益が大きかったからである。それが急転直下のように急激に険悪になってきたのは、中国がオーストラリアの発言に過剰反応(2016.7.12・2020.4.23記事参照)したためであったが、その素地は以下のように2016年ころから醸成されていた。
 
1.2016年7月12日?:豪外相のビショップ外相が国際仲裁裁判所の判決を支持。中国が強く反発。
2.2016年9月17日:豪労働党上院議員スティーブン・コンロイが中国による汚職疑惑の最中に突然辞職
3.2017年11月13日:サム・ダスティアリ上院議員も同容疑で労働党の上院副議長・委員会主席を辞任。ダスティアリ議員と中国政府の関係は2014年ごろから取沙汰されていた。
4.2017年6月:豪テレビが中国批判番組を放送。
5.2017年10月:中国大使館が最大野党・労働党の議員十数人を夕食に招き、政治工作疑惑の払拭を図る。
6.2017年12月:環球時報が「2017年の最も中国に非友好的な国」調査を発表。1位が6割のオーストラリア。2位のインド、3位の米国、4位の日本をはるかに引き離した。
7.2017年12月:親中リベラル派のターンブル首相「2017 年外国影響透明化計画法案」提出
8.2018年初頭:中国が在豪中国人留学生に警戒を警告。
9.2018年1月18日:豪のターンブル首相が来日。日本を「特別な戦略的パートナー」として支援を求める。
10.2018年5月:中国が豪産ワインの通関を遅らせる。
11.2018年6月28日:豪議会が外国のスパイ活動や内政干渉の阻止を目的とした複数の法案を可決。
12.2018年8月:中国が同国国営テレビ局に勤めるオーストラリア国籍のニュースキャスターを拘束。
13.2018年8月:豪が自国の次世代高速通信「5G」のインフラ整備から中国を排除。両国関係は最悪に。
14.2020年3月25日:豪が中国にスパイ容疑で逮捕されている中国系オーストラリア人作家、楊恒均(ヤン・ヘンジュン)の起訴に抗議。
15.2020年4月中旬:豪外相・内相・首相(23日)が中国にコロナ禍の厳格調査を求める。中国はその都度反発したが、23日にも猛反発。
16.2020年4月下旬:中国が豪に報復開始。
17.2020年4月27日:4月17日から始まった豪の調査要求に対し、中国は経済制裁(ワイン・観光)で恫喝
18.2020年4月28日:「環球時報」の胡錫進編集長が「微博」上でオーストラリアを取り上げ、「中国の靴の裏にくっついたチューインガムのようだ。時には、それを取り除くための石を探さねばならない」と侮辱。
19.2020年5月12日:中国がオーストラリア産牛肉の輸入を一部停止
20.2020年5月19日:中国がオーストラリア産大麦に対して、80.5%という高い追加関税を適用
21.2020年6月19日:中国がオーストラリアに大規模サイバー攻撃
22.2020年8月18日頃:中国が中国出身の豪人女性ジャーナリスト、チェン・レイを中国国内で拘束
23.2020年9月1日:中国はチェン・レイ拘束問題で、「把握していない」と豪に回答。
24.2020年9月1日:中国が豪州産大麦の輸入一時停止を発表。理由は大麦に害虫が混入していたとしている。
25.2020年9月1日:日豪印3ヵ国がテレビ会議で経済担当相会合。サプライチェーンからの中国排除の連携
26.2020年9月8日:豪政府が豪ジャーナリスト2人を救出して帰国させたと発表。
27.2020年9月14日:中国が豪・日本・欧米の政治家・軍事関係者・外交官・経営者の人物情報収集発覚。
28.2020年10月6日:日・米・豪・印の4ヵ国外相会議に中国が孤立感。
29.2020年10月7日:米の国際世論調査で中国に否定的な見方が9カ国過去最高点に達し、日(86%)・スウェーデン・オーストラリア(81%)・デンマーク・韓国・英国・米国・カナダ・オランダ・ドイツ・ベルギー・フランス・スペイン・イタリア(62%)の順であった(下記10.7記事参照)。
30.2020年10月12日:中国が中国出身の豪人作家楊・恒均をスパイ容疑で起訴(7日)したと発表。
31.2020年10月14日:中国当局が国営の鉄鋼会社や電力会社などに豪州産石炭輸入停止を口頭で通告
 
  オーストラリアが中国に対してかなり強硬にも見える反発を示している理由の1つに、かつてあった白豪主義の意識があるのかもしれない。オーストラリアは18世紀ころにヨーロッパ人の移住が始まり、植民地としての歴史を歩んだ。連邦国家成立後は、旧宗主国イギリスと新興国アメリカとの狭間で揺れながらも独自性の模索を続けた。その過程で中国人などのアジア系の移民を排斥・制限し、白人主体のオーストラリアを建設しようとする政策「白豪主義」があった。現在は主にアジア地域との関係強化を図っているとは言え、かつてのその意識はまだ残存しているだろう。上記4月28日の中国による侮辱的発言は逆にかつて虐げられていた中国人が世界第二位の経済大国・軍事大国になったことで優越感を得たことを示しており、この記事はオーストラリア人のプライドを相当傷つけたと思われる。だが時系列からみると、オーストラリアはその少し前から強硬な態度を示しており、それは白豪主義というものだけでなく、民主国家としての誇りからかもしれない。
 
  オーストラリア以外の国に対しても、中国は強圧的な脅しを掛けている。2020年9月以降10月16日までの記事に限って、その悪質な事例を以下に示す。
 
1.2020年9月1日:中国王毅外相が再度チェコを恫喝。王毅外相はドイツのマース外相との共同記者会見で、チェコのビストルチル上院議長の台湾での演説に触れ、「これは公然とした挑戦だ。一線を越えた・・必要な措置をとらざるを得ない」と恫喝。
2.9月3日:習近平が愛読するフランスの経済学者トマ・ピケティの著書『資本とイデオロギー』の出版に当たって、中国にとって都合の悪い部分を削除するよう要求した。
3.9月4日:インドと中国が国境紛争で国防相対話し、インド側はインド側支配地域の原状回復を求めたが、中国側はインド側に責任があると取り合わなかった。侵略の意図は明らか。
4.9月9日:台湾防空識別圏に中国軍機多数侵入
5.9月11日:中国が「ムーラン」報道を国内で規制し、映画界にも規制の網を掛ける
6.9月14日:中国が世界の人物情報収集。豪・日本・欧米の政治家や軍事関係者・外交官・企業経営者ら約240万人の個人情報を収集。世界制覇に向けた準備と見られる。
7.9月14日:中国が長征11号ロケットを意図的にロケットを台湾上空へ飛ばし、台湾を縦断
8.9月14日:インドネシア領海に中国海警局公船が領海侵犯。インドネシアはこれに抗議
9.9月15日:中国がモンゴル共和国に内政不干渉を押し付け。内モンゴルでの弾圧に干渉させないため。
10.9月29日:ラオスが中国の債務の罠にはまり、送電事業を支配される
11.9月29日:スリランカも同様に日本支援の鉄道計画を中止し、中国に傾斜
12.10月1日:香港で警察が6000人を動員してデモを規制し、60人拘束
13.10月3日:中国が「中国釣魚島デジタル博物館」をネットに開設して尖閣の悪質なプロパガンダ展開
14.10月7日:米で世界の嫌中意識調査を行い、中国に否定的な見方が9ヵ国(西・独・加・蘭・米・英・韓・豪・スウェーデン)でこの12年で過去最高点に達し、国別で中国に否定的な見方をする回答者の割合が最も高かったのは日本(86%)。以下、スウェーデン・オーストラリア(81%)・デンマーク・韓国・英国・米国・カナダ・オランダ・ドイツ・ベルギー・フランス・スペイン・イタリア(62%)であった。過去1年間で、中国に対する否定的な見方が最も上昇したのはオーストラリア(24ポイント)。
15.10月7日:中国軍機の台湾の領空侵犯が今年に入って2972回に達している
16.10月8日:中国の北極海戦略「氷上のシルクロード」が日本の脅威に
17.10月11日:中国がワクチンでASEAN取り込み策謀
18.10月12日:スウェーデンで反中意識増大
19.10月12日:中国がフランスにおけるモンゴルの歴史展示に圧力を掛け、歴史を隠蔽・修正しようとした。
20.10月14日:中国が豪州産石炭輸入停止を口頭で企業に指示証拠を残さないためか?
21.10月16日:駐カナダ中国大使がカナダ政府が香港の民主派デモ参加者を難民として受け入れるなら、香港在住のカナダ人の「健康と安全」は危険にさらされかねないと警告ロシアを真似て毒殺でもするつもりか?
 
  以上、対象とされた国々は、チェコ・フランス・インド・オーストラリア・台湾・インドネシア・モンゴル・ラオス・スリランカ・香港・日本・スウェーデン・カナダの13ヵ国に上る。なぜ中国はそれほどまでに外国に対して挑戦をしているのであろうか。筆者の考えでは、習近平がその永久皇帝在位のうちにある程度の成果を残して、中華帝国の英雄としてその名を刻みたいからであろうと思われる。またそのためには、まず具体的な成果を上げて、共産党の長老たちを黙らせる必要がある。「六場戦争論」においては、台湾をまず2020年までに奪取する計画がある。また米国のみならず、日本や西欧列強が油断している間にそれを成し遂げようという焦りがあると思われる。だが米国がトランプ登場によって中国に思いがけない反動をしてきたために、その計画が思い通りにいかなくなって焦っているとも見える。上記10月14日の口頭指示などはそれを物語っており、正規のルートでの指令では間に合わなくなっているのかもしれない。また10月16日のカナダに対する恫喝はまさに「気が狂った」かのような発言であり、世界は恐怖を覚えたことだろう。だがこれも全て歴史の必然であり、避けることのできない流れである。中国は、たとえ自暴自棄になってもやり遂げようとするだろう。もし一時的にこれらの動きが止まるとしても、それは中国共産党内部の闘争が新たな段階に入った場合のみであろう。長老らが習近平の暴走を止められればそれに越したことはないのかもしれないが、着実に地歩を固めてきている中国の勢いと脅威がこれ以上大きくなる前に、アメリカが中心となって世界が中国を潰さなければ、世界の大災厄はもっと大きくなる可能性がある(本論文「002「第三次世界大戦の可能性」」参照)。
 
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