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【科学評論】

テストステロン

2023-11-29
  以前からテストステロンの働きについては興味があった。これを制御することで、世の中から争いや競争、そして暴力や戦争を無くすことができるかもしれないと思っていたからである。それは未来世界の制御技術に掛かってくることである。2021年6月にNHKで、再放送ではあったが、「BS世界のドキュメンタリー」の中で「テストステロンの真実 ~なぞ多き男性ホルモン」があった。これを録画して記録していたので、その内容も交えて、ウィキペディアなどの記事からテストステロンについて分かっていることをまとめてみた。素人故に医学的表現に間違いがあるかもしれず、厳密さを欠く場合もあるかもしれないが、過ちを恐れず、ノムなりの解釈を施してみたい。最初に知識的なことを羅列し、その後で見解を披露したい。なおこの記事は2023年10月6日に【時事評論】に掲載したものを、11月29日に転載したものである。

 《 テストステロンについての医学的知見 》:順不同

1.テストステロンはコレステロールから作られる。17β-ヒドロキシアンドロスト-4-エン-3-オン(C19H28O2)という、17番目の炭素原子に水酸基を持つ固体の多環式アルコールである。
2.テストステロンはアンドロゲンに属するステロイドホルモンで、男性ホルモンの代表である。テストステロンは分子が小さく、油に溶けやすい。脳関門を通過でき、全ての体液に含まれる。
3.テストステロンはほとんどの脊椎動物にある。昆虫ではこれに相当するエクジソンがある。これらは全てステロイドである。性ホルモンが古い進化の歴史を持っていることを示唆している。
4.男性の場合、テストステロンは精巣で90%、副腎で10%が作られる。女性の場合、主として卵巣で作られるが、その場で女性ホルモンに変換される。また、女性では副腎や脂肪組織や筋肉でも前駆体(男性ホルモン)から女性ホルモンが作られる。
5.男性は女性に比べて、20倍多い。男性は20~39歳で最も高く、加齢で徐々に下がるが、個人差は大きい。女性は新生児で最大ピークがあり、閉経前に若干高い。女性の陰毛・腋毛の発毛に関与している。
6.女性の方がテストステロンに対する感受性が高い。
*テストステロン濃度は毎朝にピークとなる概日リズムを持つ
7.男性と女性の生物学的な違いの多くは、出生前・思春期・生涯を通じてのテストステロンの量が大きく異なることによる。
8.テストステロンと暴力性・攻撃性・支配欲・社会性との関連は明らかであるが、俗説には間違いも多い。

9.テストステロンの生成は胎生期に1度、出生後に1度、思春期に1度のピークがある。男性は加齢に伴い徐々に低下するが個人差が大きい
10.胎児期には2つのピークがあり、第1期(4~6週)ではジヒドロテストステロン(DHT)の作用の方が大きい。第2期(6~24週)にアンドロゲンシャワー」と呼ばれる大量のテストステロン暴露がある。これにより男性の脳は女性的特徴(ホルモン分泌の周期性)を失う
11.体内でのテストステロン暴露が多いほど、出生後1年での子どもの大人との目を合わせる行動が減る。つまり男の子の方が目を反らし易い。2年での語彙数は暴露と逆相関であり、男の子の方が語彙が少ない。8歳児では暴露が多かった子は人の表情の判断が劣る。
12.両性具有などの性同一性障碍は胎児期の第1期に発生すると思われる(ノムの見解)。
13.先天性副腎過形成症(CAH)の女性は副腎からのテストステロンの過剰生成により、幼少期に男型の遊びを好み、成人してからは男性への関心が低下する。性同一性障碍(性自認障碍)をもたらす。
14.胎児期のアンドロゲンは、明らかに出生後のジェンダー的な活動への興味や関与に影を与え、空間的な能力にも中程度の影響を与える。
15.新生児期・乳児期に、男女共に生後数週間でテストステロンレベルが上昇し、4~7ヵ月で収束する。この上昇の機能は不明だとされる。脳の男性化に関連しているとする説がある。

16.テストステロンの合成量は、視床下部→下垂体→生殖巣(精巣・卵巣)によって調節されている。
17.血中テストステロンの大部分は血漿タンパクと結合しており、1.5~2.0%が遊離型である。
18.男性と女性の生物学的な違いの多くは、出生前・思春期・生涯を通じてのテストステロンの量が大きく異なることによる
19.テストステロンがエストラジオール(女性ホルモン)に芳香族化することで、骨と脳への影響が強化される。
20.エストラジオールが軟骨から骨への骨化を促進し、骨端の閉鎖と成長の終了をもたらす。男性の方が背が高くなるのは、男性のテストステロン分泌が長く続くことによるのであり、女性は思春期に一時的のテストステロンの増加があるが、その後低下するためである。

21.思春期直前に男女ともにテストステロン濃度が上昇し、男女特有の体臭、陰毛・腋毛が発生し、皮脂腺の肥大によりニキビができやすくなる。骨の成熟が始まり、男子には髭が生える。
22.思春期に入り、男性では精巣が増大してテストステロンレベルが上がり、男性的な身体の特徴が形成される。
23.テストステロンは、精巣や前立腺などの男性生殖組織の発達に重要な役割を果たすと共に、筋肉や骨量の増加、体毛の成長などの二次性徴を促進する。

24.テストステロンは女性のポジティブなオーガズム体験と正の相関があるとされる。
25.男性の自慰行為後にテストステロン濃度が上昇する。女性ではそれはわずかである。
26.低性欲障碍にテストステロン投与が有効であることを示唆する動物実験の結果があるという。
27.すべての哺乳類で、新しいメスに出会ったオスのテストステロン濃度が著しく上昇した。霊長類でテストステロンがオスの性的興奮をもたらし、性的嗜好が生まれる可能性が指摘されている。
28.男性の場合、テストステロンのレベルが高くなると性的活動が活発化する。
29.男性の場合、性的に露骨な映画を見たときにテストステロンが平均35%上昇し、映画終了後60~90分でピークに達する。さらに意欲や競争心が高まり、疲労感が軽減されるという。
30.男性は排卵期の女性の体臭を嗅いだときに、テストステロン濃度が上昇する。
31.女性も性交前から性交後まで、特に抱擁時にテストステロン濃度が上昇する。だが天井効果があると考えられている。性的思考は、女性の体内でテストステロン濃度を上昇させるという。テストステロンが女性の性的興奮障碍に対する有効な治療法となる可能性があるとされ、高齢女性の性欲低下や性機能障害の治療に適応外で使用されている。
32.恋愛をすると、男性のテストステロン値は減少し、女性のテストステロン値は増加する。これは男性の攻撃性(性的なものを含む)が減少していることを示唆しており、女性では性的積極性が出てくることに関連していると思われる。非常に重要な意味を持っていると考えられる。だがハネムーン期が終わると、男女ともにテストステロン濃度は平常に戻るという。
33.テストステロンの分泌量が少ない男性は、交際中や結婚している可能性が高く、テストステロンの分泌量が多い男性は、離婚している可能性が高いとされる。結婚や婚約は、テストステロン濃度の低下を引き起こす可能性がある。このことから、テストステロン値の変化には、絆維持のための活動ではなく、競争のための活動の有無がより重要であることが示唆されるという。
34.テストステロンの分泌量が多い男性は、婚外セックスをする可能性が高い。また父親になると男性のテストステロン濃度が低下し、オキシトシン(「愛情ホルモン」とも呼ばれる)濃度が高まる。これは競争から解放されているからであろう。
35.金融などに関してリスクを負うような判断を下す際にテストステロン濃度が上昇する。
36.成人の犯罪性とテストステロンには大きな相関がみられる。だが少年の非行との相関はないとされる。特に刑務所内で最も暴力的な犯罪者はテストステロン値が高いことが研究で明らかになっている。
37.ヒトの攻撃性・支配欲・競争にはテストステロンが大きく関わっている。動物についても同様だと考えられる。テストステロンを投与すると、一部の被験者で言葉による攻撃性や怒りが増すという研究結果もある。
38.テストステロンの誘導体であるエストラジオール(エストロゲンの一種。アロマターゼによりテストステロンから誘導される女性ホルモン)が、男性の攻撃性に重要な役割を果たしている可能性を示す研究がいくつかある。(ノム)にはこの意味は分からない)
39.化学的または物理的に去勢することで攻撃性のレベルは下がるがなくなるわけではない。
40.多くの哺乳類では、テストステロンから派生したエストラジオールによって脳が「男性化」される。特異的な脳の構造的特徴は、個人の攻撃的行動を予測することができるという。
41.43人の健康な男性を対象に、生理学的に過剰な量のテストステロンを10週間投与しても、気分や行動に対する直接的な短期的影響は認められなかった。
42.ヒトにおいて、注意力、記憶力、空間能力は、テストステロンの影響を受ける重要な認知機能である。
43.テストステロンを増加させたチンパンジーは、社会的階層で自分より下位のチンパンジーに対してより攻撃的になるが、自分より上位のチンパンジーに対しては従順なままである。これは社会的地位を温存しようとする本能であると思われる。
44.テストステロンの低下は、認知機能の低下やアルツハイマー型認知症の危険因子である可能性を示す予備的な証拠があるという。
45.内臓脂肪はテストステロンをエストロゲンに変える働きがある。つまり女性化を促し、性欲を減退させる。
46.ヒトの場合、テストステロンは、単に身体的攻撃性を高めるというよりも、地位を求めたり、社会的優位性を高めたりする働きがあるように思われる。
47.人差し指と薬指の長さの比(指比)が小さいほど、出生前アンドロゲン暴露量が高い。これは攻撃性に関係してくるという。
48.男性更年期障害のほとんどがテストステロン減少によるが、個人差が大きいため、70代になっても30代の平均値を保っている男性も多い。テストステロン減少は糖尿病・メタボリック症候群のリスクが増大するとされる。この場合テストステロン投与が治療として行われることがある。
49.肥満度とテストステロン値との明確な関連性は認められていない。
50.REM睡眠は夜間のテストステロン値を上昇させる。
51.テストステロンは還元酵素によりジヒドロテストステロンへ(ⅮHT)と代謝される。還元酵素の分泌量は遺伝が関係。DHTが薄毛(禿げ)や体毛増加を促す。禿げは遺伝すると言われる。
52.男性のテストステロンが不足すると、虚弱体質や骨量減少などの異常が生じる可能性がある。
53.テストステロンに沈痛効果があることが、スズメの実験で示されている。
54.テストステロン投与により、心理的に闘争本能・競争本能・孤独願望を高めるとされる。
55.テストステロン投与により、心理的に社会的地位を重視する(気前が良くなる・見栄を張る)という研究もある。
56.スペアミントティーはテストステロンレベルを低下させる。
57.テストステロンは肝臓で分解され代謝される。
58.更年期うつ病の治療にテストステロン投与が行われることがある。
59.テストステロンが前立腺癌のリスクに関係しているという報告がある。
60.1898年にブラウン・セカール(1817ー1894)がイヌとモルモットの睾丸から抽出した「若返りの薬」を自己注射したことで、テストステロンへの関心が高まった。
61.テストステロンという名称は、オランダのオルガノン社が1935年5月に発表した論文で初めて使われた。
62.近年、スポーツ選手やボディービルダーの間で違法に使用されることが多くなっているが、世界アンチ・ドーピング機構は、テストステロンをS1アナボリックエージェント物質として「いかなる場合も禁止」している。
63.筋肉増強剤は、同じ状態を保つために増量しなければならなくなり、悪循環に陥る。副作用もあり、炎症性の皮膚炎・肝臓障害・心臓肥大がある。またテストステロン注射によって女性化が起こるという。乳房が大きくなることで分かる。男性不妊の原因にもなる。脳がテストステロンと性ホルモンの生成を止めてしまうからである。
64.番組では筋肉モリモリの男性ボディービルダーのテストステロン濃度がほとんどゼロで、無精子症だった事例が報告されている。筋肉増強剤を用いるとこうしたことも起こる。
65.副腎皮質ホルモンのコルチゾールがテストステロンによる行動を抑制しているという。テストステロン受容体をコルチゾールがブロックするからだという。外部環境がホルモンの分泌に影響を与えているともいう。
66.筋力トレーニングや不安定な興奮(闘争・浮気・銃器使用)によってテストステロンの分泌が促進される。

 《 ノムの科学的予想と妄想に基づく見解 》

[1] テストステロンの制御の必要性:犯罪者(特に暴力的・性的犯罪)は全てテストステロン検査を行い、異常が見られる場合は治療を強制する必要があるだろう(36・37・39参照)(21.11.28「性科学の追求」)。治療が功を奏しない場合、最終的に去勢する必要も出てくるかもしれない。但しこの場合は凶悪犯罪に限り、死刑に相当する追放刑もあり得る。そうすれば、この世からかなり暴力的・攻撃的・出世欲的・支配欲的犯罪が少なくなると思われる。但し、高潔な賢人であっても値が高いことが予想されることから、この値の扱いには注意しなければならない(21.121.20「賢人とは?」)。本来なら無欲であれば、テストステロン値は低いと思われる(46参照)。

[2] 指導者のテストステロン検査:人間界での闘争・競争を避けるために、指導者にはテストステロン検査を強制する必要があるだろう。独裁者は極めて高いテストステロン値である可能性があり、それを科学的に調査すべきである(47参照)。 

[3] 性欲制御に結婚制度は有効:未来世界では、生殖に重点が置かれなくなり、生きている間の社会貢献に価値が置かれる。性欲を制御するために、結婚をするということに科学的根拠が与えられた。

[4] 女性の性欲・悦びの改善:女性の性欲障碍の治療の一環として、女性媚薬としてテストステロンは有効である(24・31参照)。そしてオーガズムを得る機会が増えるだろう。ただし男性化を招かないよう、連続投与は避けるべきであろう。

[5] 未来世界では男性の女性化の方が好ましい:未来世界の人口を抑えるために、男性の攻撃的・競争的性行動をより少なくするために、男性が女性化することは好ましいことであり、事実現代ですでにそのことは起こり始めている(28・35参照)。これは生態系安定化のための進化と見ることもできるだろう(21.6.8「新・進化論」)

[6] 未来世界では恋愛(浮気を含む)は自由化される:恋愛がテストステロンを好ましい方向に向かわせるということから、未来世界では禁欲的ではなく、性的に解放に向かうであろう(32・34参照)(22.8.3「未来世界の性欲処理施設」)。だが結婚制度は法的な関係に重点が移るが今と変わらず尊重され、結婚でも同棲でも自由な恋愛は尊重される(23.8.18「結婚制度」)

[7] 未来世界では、制御の観点からホルモン・麻薬の一部は許容される可能性が高い:人類がアルカロイド類を好んできたように、軽度の麻薬は人々に快感をもたらすために、頽廃や依存に結びつかない限り許容に向かう可能性がある(26・33参照)。すでに機能食品として出回っているものもある。ただし、濃縮などの不正行為は、販売を含めて極刑とされる。テストステロンなどのホルモンは、政府の管轄下に置かれるだろう(37・41・43・66参照)。一方、オキシトシン(「愛情ホルモン・絆ホルモン」と呼ばれる・セロトニンという神経伝達物質が関係)などは低用量で自由化される可能性がある。

[8] 未来世界では、暴力および暴力的表現は好ましからざるものとして排除される:人間界から争いや暴力を無くしていくためには、まずそうしたものを排除していくことが求められる。すなわち犯罪に対する刑罰だけでなく、予防的観点から、そうしたものを予想させたり、誘起させたりする事象を排除していくべきであろう(21.1.10「未来世界の良いニュースと悪いニュース」・21.7.7「ニュースで証明された状況理論」)。表現の自由は制限され、表現の適切化に向かうであろう(29・66参照)。

(10.2起案・10.5起筆・10.6終筆・【時事評論】掲載・11.29【科学評論】掲載)


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