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【時事評論2021】

新・進化論

2021-06-08
  進化に関連したことはこれまでにいくつか書いてきたが、それらを統合した論としてはまだ書いていないことに気付いた(20.7.29「事象の進化と統合化・統一化  」・2.21「脳の進化と人間社会の脳の乱立  」・3.12「 人類の挑戦と進化 」・4.7「珊瑚の人工進化は生態系崩壊に間に合うか?  」・4.8「ホモサピエンスからネオサピエンスへの進化 」・5.2「病原体の進化と人類への影響   」・6.6「生命進化は巨大な犠牲の上に成り立つ 」参照)。だが個人的にはすでに2013年5月-2020年1月に14726文字の同名の論文を書いており、その後に生命進化について画期的な科学的知見が発見されているため、多少付け加えたいと考えているところである。今回はブログのこの項でそのことをしたいと思った。

  進化という現象については生物に限ったことではなく、全ての事象に共通な属性である。‘進化’ という言葉を ‘革新的変化’ とでも解釈しておくとすると、この変化は宇宙・地球・生物・ヒト・社会・経済・政治・技術・音楽・芸術、等々の全ての事象に見られることがわかる。なぜ全ての事象は進化するのか、なぜ安定な状態に留まらないのかを本項では考察し、特に人間に関係する事象の進化の先にはどういう未来があるのかというところまで推論してみたい。そしてその前に、「進歩・革新・進化」という類似語の違いについてはっきりさせておきたい。事象が拡大し、高度なレベルになることを「進歩」という。さらにそれが、技術的なものなどにより段階的に飛躍した場合を「革新」という。進化」とは原理的に全く新しいフェーズ(相) に入ることを指し、跳躍的革新と観ても良いかもしれない。微生物が人間に進化したという事例を考えれば、当然そこには飛躍があることが分かるであろう。微生物システムと人間生体システムとは比較にならない原理的違いがあることも分かるであろう。

  コンピューターにいくつかのルールを与えて単純な図形(例えば球)を運動させると、それは時間の経過とともに複雑な構造に発展することがシミュレーション実験でわかる(6.9 「自己組織化と自己崩壊化」参照)。この実験でのルールというものについての詳細は筆者にはわからないが、おそらく①衝突の速度による反発と結合、②系の運動量保存則、の2つだけでも十分であろうと思われる。すなわち物質間に相互作用というものを想定するだけで、物質は自己組織化をしていくという原理が得られ、それは実際に自然界で起こっている。宇宙は無から有を生じ、エネルギーから物質を生じ、物質は量子→原子→分子→高分子→生命へと進化してきた。

  物理学には熱力学第二法則に「エントロピーの法則」というものがあり、2つ以上の物質(気体分子)は放置すると相互に混じり合い、均一になると説明する。これは相互作用が無い場合であり、相互作用が働くとこの法則は成り立たない。だがこの法則では、エントロピー(「無秩序さ」とも表現される)は必然的に増大すると説明されており、これは現実の自然現象に当てはまらない。長い事学者はこの矛盾について明確な解答を示さなかった。だがそれは素人のノムにも明らかなことであり、物質の相互作用を入れることで簡単に解決し、先に述べたシミュレーションや自然現象を何の疑問もなく説明できる。自然界では少なくとも生命系という部分系ではエントロピー減少が起こっているのである。

  進化という過程もこの自己組織化で説明できる組織化がある程度進むとそこに相転換が起こり、全く異質なものに変わるという現象が自然界には見られる。進化が生物的なものではない現象において起こるのは、主としてこの相転換によると思われる。たとえば組織が大きくなると分裂をするというのがその一つの例である。それは1つの組織で処理できることには限界があるからである。人間の組織も、集落→部落→豪族→王族→国家→帝国と進化したが、その組織形態の限界から分裂をもたらした。だがEUの例に見るように、再び新しいルール・形態の下に再統合されることが可能であることも明らかになった。だがEUのルール・形態には主権という問題が残っており、その限界から英国がまず離脱した。将来的にも離脱国は増え、結果的に崩壊するであろう。未来世界の連邦はこの主権問題を持たないため、各国別に永続することが可能であり、しかも連邦という1つの組織体になることは自己組織化の原理に適っている

  ここで「自己組織化」について補足説明しておこう。この用語が誰によって最初に造られたのかはわからないが、この概念に最も重要な貢献をしたのがイリヤ・プリゴジン(1917-2003)であることには誰も異論はないであろう。彼はロシアで生まれ、ブリュッセル自由大学の教授として活躍し、日本にも来日して思想的に、かつ未来予測という点で大きな影響を与えた。日本の物理学界の人材を育成した業績に対して、日本政府から勲二等旭日瑞宝章が贈られている。彼はピアニストとして大学就学前にピアノ国際コンクールで優勝し、考古学の名誉博士号も贈られている。まさに現代のレオナルド・ダヴィンチと言っても過言ではないほどの天才であろう。彼の最大の業績は非平衡系における秩序の仕組みとして「(エントロピー)散逸構造」という概念を提唱したことにある。彼は平衡系が狭い範囲で維持されるという発見をした。彼はそれをセルと呼び、部分平衡が成り立っているその領域で秩序化と進化が起こると考えた。セル同士の相互作用ということもそこでは起こる。そしてこの現象は不可逆であり、一度生じたものは逆戻りすることはないということも発見した。進化はこのような不可逆性に基づいていると考えられる。彼の友人であるエリッヒ・ヤンツ(1929年-)はこの考え方を宇宙論にも敷衍し、『自己組織化する宇宙』という本にまとめた。そして彼は自己組織化の特徴として、無秩序生産および排出性非線形的特性(フィードバックが含まれる)や触媒的特性を有することを認め、それは世界的に公害や汚染、人口爆発や人間社会の成長をもたらしたと類推する。プリゴジンが理論的な著作が多いのに対し、ヤンツはこれを進化論的に物質・エネルギー・宇宙・生命の起源に結び付けて解釈しようとしており、その取り扱う対象は社会や文化・言語や脳・倫理や道徳・経済やテクノロジーにまで及んでいる。

  筆者はプリゴジンやヤンツの主張に大いに共鳴しており、その思想に影響されたのではなく、自らの思想(ノム思想)がこれらの先駆者達によってとうに裏付けられていたことに驚いた(20.9.7「ノム思想(ノアイズム)とは何か? 」参照)。だがヤンツは確かに学問的にあらゆる現象を対象にしてそこに自己組織化を見出して論述しているが、人間そのものについての言及は意外に少ないことに違和感もあるのである。

  脳の進化については既に考察したが、人間は大脳が発達して巨大になったことで思考・記憶・推理・抽象概念の創出という新たな能力を獲得した。これは相転換に相当する革新的変化である。だが脳の進化にもウイルスが寄与しているらしいことが近年分かってきたことから、人間は単独で進化してきたのではないことがはっきりしてきた。これも人間の細胞・細菌・ウイルスの相互作用によって起こったのである。

  事象についても同様な解釈が可能であり、それは統合化・統一化に向かう自然界の事象は最初から定められた法則の下で進化しているためその理解は容易であり、既存の法則や原理を当てはめれば良い。だが生命現象についてだけは絶えざる進化過程にあって、次から次へと新たな相変化や相転換が起こっており、既存の知識や考え方がひっくり返されることもしばしばある。そもそもまだ人間は生命現象についての理解は不充分であり、これからもっとその奥深さを知ることになるであろう。もう一つの人間界での事象については最も複雑であり、それには法則や原理はあってもそれに従わない例外が多数存在する。人間界自体が進化過程の途上にあり、新たな状況が生まれる度に新たな事象が発生する。現代のIT時代はかつて存在しなかった状況を創り出した。そこには新たな原理や法則が生まれつつある。だがその多くはこれまでの原理や法則に則ったものも多いだろう。つまり新しい事象に古い法則を当てはめる作業が当分続くことになるだろう。

  進化を大雑把に把握するには、以下の原則を理解しておくことが役立つ。
 1.進化は相互作用によって起こる(生命進化における細胞融合・遺伝子相互獲得・エネルギーや物質との
   相互作用・技術と社会)。
 2.進化はまた自己組織化によって起こるため、巨大化と統合化の方向に向かう
 3.巨大化には限界があり、相転換を起こして異質なものが生まれれたり、機能分化する(生命進化・
   組織進化)。
 4.進化には膨大な損失、または犠牲が伴う(戦争・生命進化に於いては大絶滅後の進化)(6.7「生命進化は巨大な犠牲の上に成り立つ 」参照)
 
  この原則から考えると、いろいろなことが予想可能になるが、その1つの予想として人間の場合、二酸化炭素濃度の高まりに応じて、皮膚呼吸がより高度化して、二酸化炭素を取り込まず酸素だけを取り込むような機能を備えるかもしれない(幸いCO2はO2よりも大きい)。あるいは皮膚細胞が植物の炭酸同化作用の機能を持ち、新しい第4の生命体に進化するかもしれない(「緑の人間」)。そして重要なのは、その進化に時間が掛る難点があったが、今日のゲノム編集技術はそれをごく短期間に人間の技術で成し遂げるかもしれないのである。

  現代のゲノム編集技術は次世代シーケンサーによる遺伝子配列解読技術の飛躍的進歩と低価格化、そしてクリスパー・キャス9による編集技術の革命に依るところが大きい。このまま技術が進めば、全く新しい生物を人工的に創り出すことは今すぐにでもできる。だがその生物学的リスクおよび生命倫理の問題から、まだ世界的にゲノム編集された人の受精卵を出産まで進ませることは許されていない。中国の一研究者がこれを試みて国際学会で発表したが、中国政府により犯罪者とされたのか、その行方すらわからない状態である。この問題は当然未来世界でも最大の問題となるであろう。

  ノム思想では自然主義の立場に立つため、人工的作為をできるだけ制御しなければならないと考えている(1.7「制御思想」参照)。生命技術の応用は厳に慎むべきだと考えるが、人類の存続そのものが危機に立たされるその時になったら、人為的技術の応用を試みるべきかもしれない。なぜならば、人類の進化も、そこから生まれた知能や技術も、全て自然が生み出した産物だからである。それに対して善悪を問うことはできない。だが人間界として善悪を問うならば、危急の時に人工進化を試みることは必ずしも悪とはならないはずである。もう一度確認するために同じ事を繰り返すが、未来世界の平時に於いては生命技術は禁止されることになるだろう。そしてそれは連邦の監視の下で可能である。だが環境変化などで人類存亡の危機に立たされたその時には、最後の切り札としての生命技術の応用による人工進化は許されると考える


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