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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2023】

作用・反作用の法則

2023-03-20
  このところの世界政治が極めて不安定な方向に向かっていることを皆さんも感じられていると思われる。それを一言で言い表すとすれば「エスカレーション」の増大である。世界のストレスは政治・食糧・エネルギーの分野で急速にエスカレートしており、外交の分野では地殻変動に近いことが起こっている。武力衝突は米中・米露の間でも起こり始め、まさに一触即発の事態が迫りつつある。前項でも述べたように、人間組織にも大きな変革が起こりつつある(3.19「国際刑事裁判所がプーチンに逮捕状」)。さらに世界はブロック化に進んでおり、それは米ソ冷戦時代を彷彿させるものとなっている。冷戦をもたらした主たる要因はイデオロギーの違いであったが、現在の世界を突き動かしているのは経済と武力の合従連衡(がっしょうれんこう)であり、ノムは「西側先進国群」対「ならず者国家群」の2つのブロック化と考えているが、簡略に西側対東側と、冷戦時代の分け方を適用しても、それほど大きな間違いだとは言えないだろう。ロシア(ユーラシア大陸)とヨーロッパの対立は東西対立の典型になっている。だがそれは南北対立にも拡大しており、南のアフリカや貧困アジア諸国や中東諸国と、北の先進諸国との対立にも発展してきている。

  こうした地政学的な地殻変動は今に始まったことではなく、20世紀頃から世界がグローバル化を始めて以来ずっと続いてきた。そして今顕著なのは、中国の昇龍的台頭と、米国の衰退、そして分断であろう。中国は武力と経済をテコに世界に浸透し、支持国を集めてきたが、そのやり方が強圧的で傲慢であったため、感情的にはほとんどの国から嫌悪されつつある。米国は腐っても鯛と言われてはいるが、その衰退振りはこれまた顕著になりつつある。その原因は、人権外交と国内の国論分断にあるだろう。まだまだ米国は自由主義経済の恩恵を受けて成長のチャンスを保持しているものの、特に悪辣な「ならず者国家群」にとっては鼻つまみ者となっている。事あるごとに人権という西側の価値基準を押し付けてくるからである。サウジのムハンマド皇太子がカショギを殺害したことで、米とサウジの蜜月関係は破綻し、サウジは中国の仲介でイランと国交正常化に踏み切った。つまりならず者国家群の仲間入りをしたのである。これは主として経済絡みの戦略の故であろうと思われるが、ムハンマドがバイデンによりメンツを潰されたことによる怒りの方が大きいのではないかと思う。

  科学を学んだノムは、物理法則として「作用・反作用」の法則を学び、化学原理として化学平衡を学び、さらにエントロピーの法則や自己組織化を学んだ。これらを総じて言えば、物質の相互作用の原理・法則であると云えよう。これを人間界に当てはめると、実によく適用できることが分かる。国家を1つの独立システムと考えると、多くの異なる原理で動いているシステムが国境という膜を接して隣同士だけでなく、グローバリズムによって遠隔のシステムとも連動している状況が見えてくる。それはとても不安定で危険な状況であり、いつ膜が破れて片方の液(国家の場合兵士)がもう片方に流れ込んでもおかしくない(22.3.21「プーチン戦争に学ぶ教訓」)

  これらの相互作用の原理・法則を、ノムは「作用・反作用の法則」という一語にまとめて説明に使いたい。どれもみな条件や状況に違いはあるが、相互作用という点では共通しているからである。そして人間界の政治・経済においても、作用・反作用の法則は働いている。国家という存在が主権を主張していることから、各国は他国に対してイデオロギーに基づく主張を繰り返し、それによって敵対国の反作用が必ず起こる。作用・反作用の法則によって事態は悪化するばかりであり、エスカレーションが起こっている。もしどこかの国が譲歩を公にすれば、事態は改善の方向に向かうかもしれない。少なくともその可能性が生まれる。日韓関係がその一例となることを願っている。また今日の20日、イスラエルとパレスチナが暴力の連鎖を断つための話し合いが始まった。だがほとんど全ての国が自国の利益を最優先させているため、譲歩という姿勢は生まれない。もし自国の利益を損ねることを覚悟で譲歩したならば、国民がそれを許さない。政権の基盤が危うくなってしまうのである。

  もし各国が、自国の主張という「作用」を他国に働かせれば、必ず「反作用」という他国の主張を招くということを認識しているならば、米国のような人権による他国批判という愚かなことは慎むであろう。米国はサウジという王政に基づく誇り高い国家を怒らせてしまった。別に米国が被害を受けたわけでもないのに、人権というものがまるで普遍的原理であるかのように錯覚し、サウジを批判してしまった。その反作用がサウジをならず者国家に寄らせてしまったことになる。つまりアメリカは、傲慢にも他国の価値観を無視して、外交上の無礼を働いた結果、自国にとっても世界にとっても不利な状況を作り出してしまったのである。

  自然界ではまだ分かっていないことが多く、現代科学は宇宙にダークエネルギーやダークマターというものが存在するとしないと、観測と理論が矛盾してしまう事態になっている。20日のニュースの中に、ビッグバンとは別の第2のビッグバンがあったという仮説が出された、というものがあった。そうした仮説によってダークエネルギーやダークマターの存在が理論的にも観測的にも矛盾なく説明できるならば、その仮説は有効だということになる。このニュースはたまたま本日のタイトルと本質的に近いものであったため、ここに紹介させてもらったが、この仮説も物質の相互作用という視点から導きだされたものであるという。もし人間界における法則として、人間もしくは国家の相互作用と言う視点から新たな法則が導き出されれば、それは画期的なものとなるだろう。だがノムは、取り立てて新たに仮説を持ち出す必要はないと考える。自然界の法則である「作用・反作用の法則」をそのまま人間界に当てはめれば、それは有効であると思うからである。

  人間界に於いても「作用・反作用の法則」というものが有効な理論として認められれば、各国は無益な論争・無益な敵対を避け、もっと安定的な状況を作り出すように努力するようになるであろう。イデオロギーの違いに角を立てることをせず、相互に認め合う姿勢が必要なのであり、そういう政府の姿勢を国民が支持するようにならなければ、敵対関係という人間界の問題は解決しない。そのためには国家から主権を奪い、1つの権威と主権の下に各国が連帯しなければならないのである。それが実現されれば、国家間の関係は敵対的なものではなくなり、協調的な関係に移行できる。その1つの主権を持つ主体は世界連邦しかない(21.3.28「世界連邦の可能性 」・006「世界連邦形成の可能性」)。その実現を世界の諸国民が望むようになって、初めて人は賢くなったと云えるのである。だが現代の人々は自らの欲望の実現をのみ考えており、ノムの言うところの「愚衆」になり果てている(21.9.26「愚民論」)結局、民が自らの存在を脅かすほどの危難に遭遇しなければ、そのことを悟ることはないのであろう(22.6.30「人類史から観た第三次世界大戦の必然性」・005「大災厄後の世界」)


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