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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2023】

中国の政治体制

2023-05-29
  中国は5000年の歴史を誇っているが、その大部分は闘争の歴史でもあった。中国の戦国時代(前5世紀ー前221年)と呼ばれる時期は日本の弥生時代(前4世紀ー後3世紀)と重なる。そして同じ弥生時代に、中国では絶対権力者の皇帝である始皇帝が支配する独裁体制が前221年に生まれ、それから数えると2200年余に過ぎない。日本の神話に基づく皇紀では天皇誕生が前660年とされ、今年は皇紀2683年に当たる。文字を持たなかったやまと民族は、先史時代を入れると縄文期の文化を誕生させており、それは1万2000年ほど平和裏に続いたとされる。そうしたことから考えると、歴史の長さを誇ることは意味がない。それよりも平和が維持されていたかどうかが最も重要である(5.22「縄文時代の奇跡」)

  中国で皇帝制が爛熟して衰退し英国とのアヘン戦争(1840-42)を経て日本との日清戦争(1894-1895)に敗れ、1924年の北京政変で皇帝の地位を追われ、愛新覚羅溥儀(ふぎ)は清国最後の皇帝となった。1934年に日本の傀儡政権である満州国皇帝の地位に就いたが、日本の大東亜戦争敗北で退位を余儀なくされた。これは映画『ラストエンペラー』に最後の皇帝の物語として描かれている。中国では日中戦争で蒋介石率いる国民党軍と毛沢東率いる中共政権軍が三つ巴で戦ったが、日本の敗戦後に中共軍が優勢になり、蒋介石を台湾に追いやった以降の中国は共産主義による一党独裁が長く続き、そして現在は習近平による個人独裁が完成した。

  以下では現代の習近平体制を基に、中国の政治体制を論じたい。その最大の特徴は、共産主義から疑似資本主義への転換である。これは鄧小平の「改革開放」によって為されたものであるが、習はこれを上手く使い、国外からの経済的支援を受けながら、国内の統制体制を強化してきた。日本は何と2018年まで中国にODAで経済支援を続けてきた(20.9.21「中国の日本への内政干渉を許すな!」・20.9.22「中国が日本に対する先制攻撃を示唆」・20.10.21「日本政府は中国に正当に対峙せよ!」・20.11.13「米国の衰退と中国の台頭・日本の役割は?」・21.4.16「中国情勢」・21.6.30「日本の親中国亡国政治家」)。中国はこうして得た高い技術力と安い労賃によって年率10%を超える高度成長を遂げ、2000年以来の近代化と軍国化は凄まじく、2001年のWTO加盟がそれを後押ししたことは間違いない。2010年には実質的に世界第二位のGDPを誇り、2014年に習が首席となって事実上のトップに就任したが、「偉大な中国の復興」を唱えて未だに途上国との立場を取っているのは巧妙な戦略である。

《中国の政治体制》

  中国は建国者の毛沢東以後、ソ連を倣って集団指導体制を採ってきた。全人代と呼ばれる全国的国家方針決定会議に向けて権力争いは静かに潜航しながら行われ、全人代は形式的にそれを承認する儀式の場と化した。トップの陣容が固まると、それに右に倣えするが如く、全国津々浦々まで忖度による政策決定が浸透する。党を通じて組織的に官僚・末端に至るまで「学習」が行われ、一糸乱れない政治体制が確立していく。当然の結果として、異論は排され、反論は弾圧される。粛清や腐敗事案による拘束が主たる手法である。愛国教育は国民を洗脳するために行われ、その目的は党への忠誠・命令の絶対死守にある(11.24「中国の紅い教育の是非」)。すなわち中国の政治体制を一言で表せば、一党独裁による命令垂直下行体制である。指導者の決定は無謬とされ、これを批判することは国家反逆罪となる。

《中国の経済体制》

  中国経済はいびつな構造となっている。まず国家の目標が設定され、それに準じた各種政策が作成され、企業にはある程度の目標が与えられる。企業内に党組織がお目付け役として配置され、それは海外企業にも及んでいる。目標達成のためならば、企業内指導者の専横は黙認され、海外企業との取引における不正行為(国際基準から見た不正)は容認される。つまり成果主義となっている。だが企業が国家を脅かすほどに力を持つようになると、習近平時代になって「汚職追放」・「共同富裕」の名目の下、企業トップを指導するようになり、反発する企業トップを事実上の追放処分にしたりするようになった。従順な企業は習に忖度して巨額の寄付をすることで、矛先をかわす手に出た。そのため2022年には経済的な力に翳りが見られるようになっており、コロナ禍がそれに追い打ちを掛けた。

《中国の司法体制》

  中国にはまともな司法というものはない。全て中共政権の意向に従うためのものとなっており、特に外交的問題が生じた場合の相手国への恫喝として使われることが多い。日本・オーストラリア・カナダはその犠牲国である。突然の拘束に対して理由を述べる必要もない。諸外国(特に日本)の駐在員がこうした手法で数多く拘束された(ニュースで知られている限りの範囲)。特にひどいのは拘束先すら分からないことが多いことである。中国国内の裁判所で有罪にされることもある。2021年2月、欧州連合を含む約60ヵ国の世界諸国が「国家間の関係における恣意的な拘束に反対する宣言」に署名した。チベット・モンゴル・ウイグル自治区などではこうした拘束は日常茶飯事であり、ウイグルでは100万人以上が拘束されて強制収容所に送られたとされる。安い労働力として使うために、半奴隷状態におかれて職業訓練を施されているらしい。

《中国の技術力》

  中国は鄧小平の「改革開放」以来、外国、特に米国と日本から資本を受け入れるだけでなく、安い労賃を生かして合弁企業により工場を設置し、技術力の吸収に努めてきた。海外企業はOEM生産で高品質の製品を安く生産できたが、同時にその技術が全て盗まれていることに気付いていたはずである。その結果、偽ブランド製品が世界に溢れた。だが西側諸国はそれを放置し、強い規制は行わなかった。軍事技術に関しても、中国は留学生・共同研究者を多数諸外国に送り込み、技術を盗ませた。さらに2008年には積極的に諸先進国から研究者を招いて直接技術を盗むという、千人計画」という特待制度を作って、トップクラスの研究者を籠絡した。諸外国は中国の特許違反には目をつぶっていると見られる。こうして知財が欧米から中国に移り、いまや2022年には中国が研究部門で世界一を誇るまでになった。

《中国の軍力》

  中国は1989年の天安門事件後に、鄧小平は「改革開放」と同時に「軍の近代化」に着手した。これはその前の胡錦濤時代の1986年の「百花斉放・百家争鳴」が下敷きにあったと思われる。民の反乱に備えて軍を強化し、近代化することが必須と鄧は考えた。ソ連戦闘機をコピーした旧式戦闘機4000機を減らし、新型を取り入れて2000機の精鋭に替えた。新型のSu-27/Su-30MKKシリーズは300機以上あるとされる。中国はミサイル技術・核兵器・人工知能(AI)・宇宙技術といったあらゆる分野で急進歩している。軍事費が国際基準に則った形で公表されておらず、現役兵は200万を超えるとされる。しかも習思想による愛国教育を徹底的に仕込まれた軍兵の士気は高く、「自国第一・世界第二」の思考によって「超限戦」(手段を選ばない戦争) を目指している。ロシアは常備軍の整備にカネが掛けられなかったため弱体化して士気もひどく落ち込んでいるが、中国はそれと正反対の最強の軍になりつつある。核兵器制限条約を結んでいないため、その実態は不明だが、2021年時点で約370発の核弾頭を保有しているという。恐らく米露の保有数を超えるのに4年とは掛からないであろう。

《国家動員体制》

  中国はトップダウンの政治体制を持つため、コロナ禍対策を行うのも戦争を始めるのも命令と実行が同時にできる。1921年施行の「国防法」・2010年の「国家動員法」・2015年の「国安法」・2017年の「国情法」などを整備しており、「法治国家」を大義名分としてあらゆる法律が戦時体制を意図して作られている。ロシアではプーチン戦争による緊急動員で国内が不安定になったが、中国ではそうしたことは有り得ないであろう。国外で活動する個人・企業も全て監視下にあり、50以上の諸外国に監視のための「交番」と称される秘密警察を作っている。また戦時になれば動員法により、諸外国の留学生・個人・企業は全て中共政権の指示に従わなければならず、また平時においても留学生にはスパイ行為が使命として与えられている

  以上、中国の体制のあらましについて述べてきたが、中国が最近になって、「中国第一・世界第二」という標語を掲げるようになったことで、中国が世界と協調する気がないことが鮮明になった。米国でもトランプが「アメリカ・ファースト」を掲げたことから、中国だけを非難するわけにはいかない。自国を第一に考えるのは世界的にごく当たり前のことだからである。だがその手法があからさまな暴力・武力によるものになった場合、中国は世界から非難されることになるだろう。習近平は台湾侵攻を明確な国家目標に掲げていることから、それが間もなく行われようとしている。ロシアのプーチン戦争を横目に見ながら、中国はその戦争から学ぼうとしており、エネルギー・食糧戦略でロシアと共同戦線を張ろうとしていることが明白になった。どちらも恐るべき存在であるが、本質的な意味では中国の政治体制の盤石なことの方が恐ろしいと考えるべきであろう。

(22.12.7起案・起筆・終筆・23.5.29掲載)


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