本文へ移動
【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【科学評論】

オーガズムの多様性

2023-08-23
  一連の「誕生シリーズ」および「生命」シリーズを手掛けてきたが、本来これらの記事は【時事評論】には相応しくないと思われる。そこで前項から【科学評論】の中で取り上げることにした(【科学評論】8.21「生殖の絶妙な仕組み」)

  前項で調べものをしているうちに、これまでの性に関する知識に新たに加えられたものが多かった。本ブログの読者の中にはノムよりもはるかに知識の多い人も多いだろうとは思ったが、このテーマも人間の本質に関わってくることでもあり、項としてまとめておく意味はあるだろうと思った。気が付いたことを箇条書きでまとめ、それに対する説明を加えるという形にしたい。最初にオーガズムが多様であることについて述べておきたい。男のオーガズムは単純なものだとこれまで思っていたが、調べていく中でドライオーガズムというものがあり、それが女のオーガズムに非常に近いのではないかと思った。そもそも女のオーガズム自体が非常に多様性に富んでいるのに、男までもが多様性に富んでいることに驚いたのである。それがこの項をまとめる切っ掛けとなった次第である(8.20「オーガズムと法悦の違い」)

 《 男のオーガズムの多様性 》

1.男のオーガズムは生殖のために必須である:男は生殖において精子を女に提供する役割を持つ。そのため生物界はオス(男)に必ずオーガズムが起こるようにした。実際にはオーガズムを感じない男もいるかもしれないが、ここでは例外は扱わない。

2.男のオーガズムの概要:男のオーガズムは、陰茎勃起から始まり、陰茎刺激の継続によって、およそ早ければ1分から3分、長くても10分から20分で起こる。それは精嚢の収縮なりで、貯められていた精液が前立腺に押し出されることから始まるようだ。この段階に来ると、男は股間に非常に強い切迫感を感じ、オーガズムを予感する。それより少し前かどうかは分からないが、性的刺激を受けるとオキシトシンが作られ、それが脳に作用してオーガズムを誘導するらしい。それは乳首の勃起によっても起こるという。そしてその信号はもはや脳まで届く前に、脊髄の射精中枢(第 3~5 腰椎)で反射され、脳の制御ができなくなる。切迫感を感じた時がそれに当たる。つまり止めようと思っても止められなくなる。オーガズムは性的興奮の最高場面で起こる。特に前立腺の収縮が起こり、精液は尿道括約筋の働きもあって、尿道口から噴出する。そのあと弛緩があるが、およそ1秒前後の間隔で収縮と弛緩の律動が数回起こる。射精が終わっても収縮が数度続くのが普通である。最初の1回目が最も多い射出となり、以後減衰する。射精が終わると急激に性的刺激への拒否感が生じる。これを医学的には「無反応期」と呼ぶが、むしろ「拒否期」と呼ぶ方がふさわしいだろう。そのため男は射精後に女に対して素っ気なく振る舞うのが普通である。

3.男のドライオーガズム:通常の性交などではあり得ないことだが、男の前立腺は女のGスポットと対比されることがあり、ここへの肛門を通じての刺激は、ドライオーガズムと呼ばれている、射精を伴わないオーガズムをもたらす。通常はそれ専用に開発された用具が用いられるが、ホモの肛門性交(アナルセックス)ではパートナーが肛門に挿し込んだ陰茎で刺激することになる。つまり、ホモセクシュアルでは双方にオーガズムが起こる可能性があるようだ。これは前立腺が単独で律動するために起こるとされ、一説では通常の射精オーガズム(ウエットオーガズム)より強烈だそうだ。しかも連続オーガズムが可能であるというから、男にとっては夢のような話であるが、ノムは試したいとは思わない。前立腺に弱い電流を流して、電気的に刺激する方法もあるという。但し、未経験者はある程度この感覚を習得する訓練が必要だそうだ。

 《 女のオーガズムの多様性 》

4.女のオーガズムは複雑を極める:女の少なくとも10~30%程度はオーガズムを経験していない、という調査が多い。それは生殖において、女のオーガズムは必須要件ではないことが理由として挙げられる。また女がオーガズムを感じたいと思っても、性的抑制をもたらす教養・厳しい躾・自分のプライド・幼児期の性的トラウマなどが邪魔をすることがあり、これらが排除されていないとオーガズムは感じにくいとされる。あくまでも動物に成りきる方が感じやすいと云えるだろう。その意味で、「昼間は貞女、夜は娼婦」が最も望ましいと思われる。基本的には女のオーガズムも男と同じ間隔で起こる骨盤内筋肉の律動と云う点で男と同じともいえるが、射精という感覚を味わうことはできない。だがオーガズム時の放尿など「潮吹き」をする女はひょっとすると、射精と似たような感覚を味わっているのかもしれない。

5.女はオーガズムを自覚する:女は男のように、オーガズム時に肉体的反応を見せないこともあるという。ほとんどの場合は、膣口と肛門を結ぶ8の字状の括約筋が収縮するということでオーガズムに達したことが分かるが、そうしたものが無くても、自分ではオーガズムに達したと感じる人もいるようである。心理的オーガズムとでも名付けたい。共通するのは「頭の中が真っ白になる・空中に放り出されたような感覚・解放感」であり、その全てを感じるわけではないが、解放感は全員が感じているようだ。ポルノなどではしばしば女が「イク、イク!」と叫ぶシーンが多いが、恐らく男と同じように、女にもオーガズム中枢とでも言うような、脊髄反射があるのではないかと思われる。つまり興奮の急上昇を自分で感じて、オーガズムを予感しているのだろう。その段階に入ったら自分ではもう止められないと思われる。

6.女のオーガズムの分類:女がオーガズムに達するには、通常は3つのパターンがあるという。1つ目はクリトリス(陰核全体もしくは陰核亀頭)への刺激であり、これだけで十分女はオーガズムに達する(C-O)。2つ目は膣内壁の腹側にあるとされるGスポットと呼ばれる部位への刺激によるオーガズムである。性交時にはこの部位を擦ることが比較的少ないため、性交によるオーガズムは達成が難しい。だが基本的は性交オーガズムはこのGスポットを間接的に刺激して起こるものだと考えられる(G-O)。なぜならば、膣壁や子宮膣部には感覚器官がほとんどないからである(出産時の痛みの軽減のためと思われる)。Gスポットというのは膣の裏側にある陰核脚(クリトリスの体内部分)が強い感受性を持っているため、間接的なC-Oが起こると考えられる。その意味ではC-OとG-Oは基本的に同じだと考えられる。3つ目は子宮へのペニスの衝突により起こるポルティオオーガズムである(P-O)。ポルティオとは子宮頚部の膣内に飛び出した部分、子宮膣部のことを指すが、ここに性交時に長いペニスが衝突すると、子宮全体が揺り動かされ、C-Oとは違った深い部位の律動が起こるとされる。すなわち子宮も強く収縮・弛緩するという。C-Oよりも強く深く、全身的なオーガズムになりやすいと言われる。だがこれらの分類は明確なものではなく、全身的に相互関連していると考えられる。たとえば性交においてクリトリスは引っ張られることで、直接ペニスと接触していなくても刺激を受けているからである。

7.女の他のオーガズム体験:男では報告例がない女の独特なオーガズムが時に報告されている。その多くが予感はあっても性的興奮が基で起こるものではなく、付随的かつ唐突に起こると言われている。たとえば女では、他者の性行為を見ているだけでオーガズムに達する場合があるという。これは女のオーガズムが脳による想像・心的なものに影響されやすいからであり、性的興奮が骨盤内筋肉の収縮(ヒクヒク感)を生み、それがオーガズムを誘導すると思われる。授乳中の性的興奮については語ることさえタブーとされており、極めて報告例は少ないが、ノムとしては当然あり得ることだと思う。授乳時にはオキシトシンとプロラクチンが分泌され、そのオキシトシンが子宮収縮をもたらすともいわれる。これは不快感を伴うらしく、後陣痛とも言われるこの現象は子宮を産前の大きさに戻すために必要だとされる。だがノムとしては、当然の結果として性器を刺激するかどうかは別として、オーガズムを感じているだろうと思う。これは授乳後期に多いと思われる。

8.骨盤底筋運動によるオーガズム:同様のことが、体操やジムでの筋肉鍛錬にも見られ、運動中に骨盤底筋を強く収縮させると、付随意的に突然オーガズムが起こるという体験を告白する事例が女性から多く出ている。女のサイクリングやマラソンでも起こるという記事も見られる。また意識的に繰り返し股間(特に膣口や肛門)を引き締める運動(ケーゲル体操:骨盤底筋体操)を性欲がある状態で行うと、オーガズムが誘発されるという事例もあるようだ。股間筋を鍛えるための運動具(半円形レール上で両脚を閉じたり開いたりする運動機器)でも起こる。こうした事例では性器への直接的刺激はないことが多いため、純粋な筋肉によるオーガズム反応と観ることができるだろう。

 《 男と女のオーガズムの共通性と違い 》

9.男のドライオーガズムと女のオーガズムの類似:男のドライオーガズムには、何回も可能だという特徴があり、しかもその感じ方が、女のオーガズムと似ていて局所的ではなく全身に及ぶことがあるという。特に女のG-O・P-Oと似ていると思われる。

10.男と女のオーガズムの違い男のオーガズムは基本的に生殖に基づいているので、射精が終わると拒否期に入る。しばらくの間(20分~60分程度)は性行為ができないし、多くは1回で満足する。だが女のオーガズムは生殖に基づいているとは考えられず(一部には生殖を有利にするという説もある)、むしろコミュニケーション向上のためと思われる。そのため体の疲れが感じられるまで、何度もオーガズムに達することができる(通常は前戯を含めて2~3回)。男の突発的な性欲により早漏した場合、女は置き去りにされたような感覚を持つが、そのこと自体に生理的な障害はないようだ(23.4.30「人には興奮が必要」)。本来は男が続けてクンニ(クンニリングス:舌によるクリトリス刺激)などにより女をオーガズムにまで誘導すればよいのだが、男の拒否期があるため、そこまでサービスする男は少ない。女の性的興奮が収まるのには10~60分ほどを要する。こうしたすれ違いが女に性的不満をもたらす場合も多く、また逆に、必ずしも不満を残さず、それはそれで満足する場合も多いようだ。

  以上に見てきたように、オーガズムの態様は実に多様性に富んでおり、中には生殖とは全く関係のない、生体反応であることも多い。これは人間が性活動を、生殖のためだけではなく、高揚感やオーガズムを味わうために行っていることにより、対人関係に於けるコミュニケーションの一部としても使うようになったからであろうと推察される。その意味でLGBTQの人が交友の一環として、同性愛(ホモセクシュアリティ)を好むのも道理であって、不自然なことではない。動物界にも自慰や同性愛は見られるものである。クジラ・サル・昆虫などの例があるという。同性愛的行動が確認された動物は1500種以上であり、そのうち500種の同性愛が立証されている。人間界では、近年の多くの英米の調査では人口の2-13%(50人に1人から8人に1人)の割合で同性愛者が存在していると言われている。日本でも電通の調査では8.9%であったという。過去の歴史でも、日本史では武士の男色(少年対象)が記録されており、欧米でも同様であった。ただ、ノムとしては生物的・人間的にオーガズムの多様性や交友関係の多様性を認めているが、それが必ずしも制度化を必要とするかどうかについては慎重論を持っている。2001年4月1日に世界初の同性結婚(異性同士の結婚と全く同一の婚姻制度)が、オランダで認められたが、これは伝統的価値観や政治が関係する問題なので、別項で取り上げたい。

(8.20起案・起筆・8.21終筆・8.23掲載)


TOPへ戻る