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【科学評論】

生殖の絶妙な仕組み

2023-08-21
  生殖とは、生物が増殖することを指す。生物は増殖の際に遺伝子というものによって形質などを子孫に伝える仕組みを編み出したとともに、その形質が環境に適応しやすいように、変化と多様性をもたらすためにオスとメスによる有性生殖という仕組みを編み出した。その絶妙な仕掛けにはなるほどと納得できるものがほとんどだが、未だに「なぜか?」という疑問が残るものもある。どのような仕組みがあるのか、本項では具体的事例を挙げて、現在までに分かっている範囲で説明を試みたい。なお、本項で取り上げるものは、研究の進んでいるものに限るので、人間に関するものが中心となる。但し、ノムは専門家ではないので、浅学による間違い、厳密な表現に欠ける部分があることはご容赦願いたい。明らかな間違いは【読者感想】でご指摘いただければと思う。

1.生物は寿命を持つ:生物は真核生物に進化したことにより、寿命を持たせることにした(テロメア仮説):生物が不老不死であると、地球上に生物があふれかえってしまうことになり、環境が激変して多くの生物が全滅してしまう。そのため生物は「死」を前提に増殖するという選択をした。アポトーシス(細胞自死)もその仕組みに沿ったものだと思われる。

2.オスはメスの犠牲になる:生殖を最大限に有効にするために、オスは犠牲になることが多い。カマキリは交尾のあと、メスがオスを食べてしまうことが多いと言われる。オスを食べたメスはより多くの卵を産むらしい。つまりオスはメスの栄養になったわけである。人間の生殖では、1個の卵子に対して1億の精子が出されるが、使われるのはたった1個の精子であり、他は犠牲になる。膣内に排出された精子のうち99%は卵に到達すらできずに死滅するという。

3.受精は原則1つの精子しか使われない:人間の卵子には精子を受け入れるラッパの形をした入口が1つだけある(今回NHK講座の記事でノムも初めて知った)。卵子は原則1つの精子を卵内に受け入れるとすぐさま、受精膜と呼ばれる膜を形成し、他の精子の侵入を防ぐ。最も精力の強い精子が侵入することになり、ここでも選択が行われていることになる。メスは強そうなオスを選ぶという最初の選択をするが、さらに生殖でも選択を行っているわけである。またこれは、異常な精子を排除することに繋がっている(正常な形態をしている精子は4%しかないそうだ)。通常、遺伝子に異常がある精子は運動も不活発になりやすいと考えられる。

4.性交時の愛液は生殖のために必要:人間が性交する際に、男はカウパー腺から少量の粘液を尿道口から出すが、これは単に陰茎を膣に挿入しやすくするためではない。腺液のアルカリ性が男の尿道の酸性状態・女の膣の酸性状態を中和して、精子の活動を活発化するのに役立っている。女が膣口付近に出すスキーン腺液・膣内に出すバルトリン腺液は、普段は「酸性」だが、快感がクライマックスに達しようとするときに「アルカリ性」へと変化する性質があるという。これによってカウパー腺液と同様、精子を活発化させる。尿道・膣などが普段酸性なのは、除菌のためと云われている。

5.人間の性液は受精のために変化する:人間の性液は精嚢や前立腺からの分泌液が混じっているため、白濁部分や透明部分を含む。精嚢からの分泌液には果糖が多く含まれていて、細胞内部に栄養源をもたない精子の鞭毛運動を起こすエネルギー源に用いられる。精嚢の分泌液と合わさることで精子は初めてその鞭毛を動かして泳ぎ続けることが出来る。前立腺液にはクエン酸が多く含まれ、pHを弱アルカリ性に維持し、精子の生存を助ける。精液は射精直後は粘りがあるが、10分後にサラサラになる。粘りがあるのは多くのタンパク質を含むためであり、射精直後の膣からの遺漏を防ぐためであるとされる。その後サラサラになるのは、前立腺液に含まれている多くの種類のタンパク質分解酵素(セリンプロテアーゼ)により、タンパク質が分解されるためである。精子の移動を助けるためとされており、精液が2種の腺液から成る混合物であるということの理由には、こうした機能を作るためであるとも考えられる。

6.前立腺の不思議:人間の臓器は加齢によって縮小していくが、前立腺だけが肥大する。前立腺肥大は正常な性欲を減退させる。前立腺は生殖機能に関係する器官で、思春期以降から機能が活発化し20歳代をピークに30歳代らいまで機能する。そもそも前立腺の働きがまだよく分かっていないようだが、動物性タンパク質・脂質の摂りすぎによるアンドロゲンという男性ホルモンの増加により、肥大が起こるとされている。なぜアンドロゲンが増加するのかについてはよく分かっていないようだ。なお前立腺を肛門から挿し込んだ器具などで刺激すると、ドライオーガズムと呼ばれる射精を伴わない前立腺だけの律動的な収縮が起こり、通常のウエットオーガズムより強烈で、かつ複数回可能だという。前立腺にそのような機能があることについてはまだ理由が不明である。前立腺はウエットオーガズムでも精嚢・射精管とともに収縮する。

7.年中発情期になった人間は精液をいつも貯めている:動物の中で発情期を持たない人間は、性交などを生殖のためでなく、コミュニケーションの手段として用いるようになった。そのため男はいつもそれに備えて精液を一定量精嚢に貯めている。その量はおおよそ1.5~4mlであるが、これには前立腺からの精子の栄養補給成分も入っている。精子の寿命は平均して3~4日であるが、射精されない場合は精嚢内で死滅・分解されて吸収される。男が1回目の射精後1日経って射精した場合は精液量が少ないが、精子の正常度や活動度が高い。つまり男は多数の女を懐胎させる能力を持っている。精液量はほぼ3日で満タンとなる。ノムは精液圧の上昇にともなって性欲が高まると考えている。

8.射精の仕組み:射精は男にしか分からないオーガズム感覚をもたらすが、基本的には女の膣口周囲筋の収縮と同じであり、女のオーガズムの方がより複雑な態様を見せる。おおざっぱに言えば、股間の緊張感とともに勃起があり、性器などへの刺激の継続があると、オーガズムに近くなって切迫感が生じる。急激な股間の緊張感を覚えるが、このときに脊髄の射精中枢が働いて精嚢・前立腺・尿道括約筋などが連動して律動し、オーガズムに達する。このとき、精液が膀胱の方に逆流しないように、膀胱出口の尿道内括約筋は収縮しており、律動はしない。この点で女のオーガズムとの違いが見られ、女はオーガズムで括約筋が緩むことがあり、律動的な放尿が見られる(いわゆる’潮吹き’)ことがある。また性腺に貯まっていた性腺液が同時に出ることもある。通常は意識的に放尿するのを抑えていると思われる。男にはこの現象は見られない。女に’潮吹き’が見られるという場合、ほとんどがこの放尿現象を指すようだ。

9.人間は長期の養育期間を必要とし、可能にした:動物は寿命の最後まで生殖可能であるが、人間は寿命を延ばしたにも関わらず、女の生殖可能期間を40歳頃までに限定している。それは人間が多産戦略を採ったことで、養育が難しくなり、トータルの子の数を制限する必要があったからであろう。男は基本的に加齢しても80代まで生殖可能と云われるが、多くは60代頃までに勃起不全に陥る。女は40代で閉経を迎えて生殖を終わっても、基本的には性交は可能であるし、オーガズムも可能であろう。それは人間の場合、性行為は主としてコミュニケーションに用いられるようになったからであろうと考えられる。仮に男が65歳まで性活動したとすると、射精回数は生涯50年間で2600回に及ぶ。そのうち生殖に有効に使われるのは数回に過ぎない。

  以上の他にも生体生理(特にホルモン・神経関係)に関しては、多くの絶妙な仕組みがあるのだが、その全てを本項で述べることはできないし、そこまでの知識・情報もノムには無い。だが何か重要な仕組みが見つかった時には、追記したいと考えている。

(8.20起案・起筆・終筆・8.21掲載)


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