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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2023】

オーガズムと法悦の違い

2023-08-20
  「オーガズム」と呼ばれている人間(恐らく動物も)の性行為における快楽の極致と、「法悦」と呼ばれている人間だけにある宗教的な精神的快楽の極致とは、非常によく似たものであると思う。性的なオーガズムも時に「悦び」と表現されることがある。この2つを比較して科学的に証明した論文は無いと思われるが、中世の芸術家はこの2つは同じだと考えていたらしい。こうした比較をした人が他にいるかどうかは知らないが、以下ではノムが調べた限りの範囲でその類似部分と相違部分を比較してみたい。

  最初に「法悦」の方を取り上げてみたい。既に最近の別項でも取り上げているが、宗教画ではカラヴァッジョの『法悦のマグダラのマリア』(1606)が有名だ(6.19「脳エクスタシー論」)。他にもベルニーニの彫刻に『聖テレジアの法悦』(1652)がある。実にリアルに描かれており、まさにエロチックそのものだ。ベルニーニは他にも『福者ルドヴィカ・アルベルトーニ』(1674)という作品があるが、これも臨終を描いたとされているにしては「臨終の最後に於ける恍惚」のようであり、少なくとも死んだ後を描いたものではない。臨終に際してエンドルフィンが大量に放出された結果なのかもしれない。ルーベンスも『法悦のマグダラのマリア』(1620)という絵を残している。宗教画や彫刻にこうした恍惚表現が多いのは、宗教的快感の極致は誰にも経験できるものではないが、誰にも経験がある性的快感と同じだと、観る人に分からせるようにしたからかもしれないし、作者が自身の経験からエクスタシー(宗教的恍惚) = オーガズム(性的快感の極致)だと思ったからかもしれない。バロックではこういう表現が好まれたようだ。

  ノムの経験したものも、ある意味ではこれらに近いかもしれないが、宗教的なものでも性的なものでもなかった。上記参照項でも書いたことだが、高校三年の受験期に、勉強に行き詰ったのか非常に悩んだことがある。いろいろな思いが交錯する中で、突然頭の中が真っ白になり、光明が差したような感覚に襲われた。この不思議な体験をしたため、大学に入ったら宗教を求めてみようという気になった。それは高校三年からすでに始めたが、創価学会から始まって、真光文明教団やらキリスト教会やらと、いろいろな宗教を見学した。振り返ってみると、この時の体験は法悦やオーガズムに似たものであったのではないか、と思う。すなわち、葛藤や苦悶の後に訪れる精神の解放である。そしてそれは恐らくホルモンの作用によるものと思われる。肉体的なものではなく、頭脳的なものであり、そこには各種ホルモン作用があったのだろうと考える。法悦やオーガズムも同様であり、極致に達する前に精神的葛藤や肉体的苦痛(=快感)がある。そして人間は、そうした葛藤・苦痛を解消する方法を生理的に持っているのであろう。死の間際にエンドルフィンが放出され、苦痛を和らげるとともに精神的平安が訪れるというのもその1つであろう。そしてそれは報酬系に作用し、再び同じ経験をしたいという欲望に繋がっていくが、宗教的法悦は滅多に経験できるものではないと思われる。

  オーガズムの場合はどうであろうか。人間の場合しか分かっていないようだが、人間は最初からオーガズムを知っているわけではない。それはある意味で学習の積み重ねによって得られる肉体的体験であり、最初の性的刺激で会得する人もいれば、性器をいじくりまわす経験を何回かしてから会得する人もいる。かつての女性は自慰を自由にできる環境が無かったため、結婚して夫と性交を繰り返すうちに会得する人も多かったに違いない。現代においても2018年の全国の17歳~19歳男女800人を対象にした日本財団の調査では、男性でも自慰の経験者は90%に留まっている。女性は42%とかなり低い。切っ掛けはスマホのポルノサイトが圧倒的に多く、自慰経験者の74.8%が自慰の際にスマホを使っている。性交経験は男で25.36%、女も21.2%とかなり低い。だが回答拒否者を除いて計算しているのでそのまま受け取ることはできない。性交経験者ではそのうち2.5%が10歳以下のときが初体験だったという衝撃的な数字もあった。12歳・13歳では1.9%もあり、これは兄妹間の関係を疑わざるを得ない数字である。残念ながらこの統計にはオーガズムを得ている割合は出ていなかった。男は基本的に自慰経験者は射精というオーガズムを得ていると思われるが、女の場合は別の統計(2019年に発表された研究:対象は20~64歳のオーストラリア人女性)では79%に留まっている。

  女性のオーガズムの研究では、オキシトシンがその瞬間に最大に放出されているそうだ。またドーパミンはその受容体がある脳の領域が両性で活性化するが、女性の場合はさらに感情や感覚情報、高次の思考などをつかさどる領域も活性化する。2009年の研究(詳細不明)では、性交渉の経験がある男性の28%と女性の67%が「オーガズムに達したフリ」をしたことがあるという。別の研究によると、女性の80%は膣の刺激だけではオーガズムに達しないそうだ。これは当然のこととも言え、膣壁はほとんど無感覚である。性感帯はクリトリスに集中しており、他に膣口・小陰唇や周辺部に散らばっているからであろう。2020年に発表された学術的研究によると、複数回オーガズムを感じる女性は14%前後しかいないそうだが、ノムはこの数字を信じることはできない。女性にオーガズムが必要なのか、という愚問に対し、進化論学者は「繁殖の成功率向上のため必要」という見解を持っているらしい。結論として、男のオーガズムが必然的で単純なのに対し、女のオーガズムは心理的要素が加わるために複雑なものになっているということだろう。

  最後に箇条書きにしてまとめてみたい。

1.法悦は人間にだけにある高度な精神的・宗教的快楽である。
2.オーガズムは基本的にオスに必須の生理的現象であり、メスにもあると考えられるが分かっていない。
3.オーガズムは人間の多くの男女が経験するが、法悦を経験する人はほんのわずかであろう。
4.オーガズムを経験できなくても問題は少ないが、健康・長寿のためには経験した方がいいらしい。
5.どちらも脳の特定な場所へのホルモンの作用が関係している。特にオキシトシンとドーパミンが重要。
6.これらのホルモンが報酬系に「快感」を与える。そのため、人は再びこれを経験したいと願う。

(7.27起案・8.19起筆・終筆・8.20掲載)


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