本文へ移動
【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2023】

競争から共生へ

2023-08-22
  植物の世界で近年、驚くべき発見があった。植物はそれぞれの地域で生存競争しているとおもわれていたが、実はその根が菌糸を通じて巨大なネットワークを築いており、隣同士の植物が助け合っていることが分かってきた。これは共生の端的な事例であり、それが生物全体にとって最適な生存戦略であることが理由である。おそらく弱肉強食の原理に基づく動物界でも、部分的にはそうした共生が観られる。ペットではそれが端的に表れ、飼われている犬とサルの間にも友情関係が生まれる。人間全体の世界を見た場合、全人類が共生関係を持つことは、決して原理的に不可能ではないことが、垣間見えたといえるだろう。以下では競争原理」に支配された人間界が「共生原理」に支配される時代が来るかどうか、その可能性を論じたい(22.8.10「競争原理」)

  生物は生まれついた時から生存競争に晒される(20.9.16「競争はいつ芽生え、何をもたらしたか?」)。人間もまた同じである。人間は社会に守られているからいいようなものの、戦時などではその保護も及ばないことがある。生まれてくると、まず兄弟がいれば、兄弟に嫉妬の感情が芽生えることがあり、それが兄弟同士の競争の始まりになることもある。親の兄弟への接し方でそれが仲良し兄弟になるか、喧嘩腰兄弟になるかが決まることも多い。ノムは上記参照項で、「人間の競争心が脳を進化させた一要因」という仮説を唱えた。そして脳の進化が知能を生み出し、それがさらに競争を激しいものにしたと考えている。個人の競争から始まり、それは国家の競争に発展している。それは国家が主権を持つ存在だと考えられているからだ。

  一方、人間は世界と繋がったことにより、世界的規模での助け合いも行うようになってきた。「国境なき医師団」という組織もその一つであろう。それはまるで植物の世界の、根と根が菌類という媒介物で助け合っている姿と似ている。人間界での ’菌類という媒介物' に相当するものは何だろうと考えてみたが、それは人間の知能の中の '友愛' という情なのかもしれない。顔の見えない遠くの人々のことを思いやる '人間愛' と云ってもよいだろう。もしそれが実現すれば、人間は競争心を克服し、共生へと向かうことができるかもしれない(20.9.7「人間は「競争」、および「競争心」を克服できるか?」)

  競争を無くすには、現代の自由主義経済を廃さなければならないだろう。また論争で決着しようとする民主主義も是正しなければならないだろう。ノムの夢見る未来世界では、人間はもはやホモサピエンスではなく、競争を克服することのできるより高次の精神性を持ったネオサピエンスに進化していると考えている(21.47「ホモサピエンスからネオサピエンスへの進化」)。脳が進化すれば、現代という状況も一変する。もはや権力・武力が支配する世界ではなくなり、本当の意味での「知力」が支配する世界となるだろう。そのためには人の存在を人格という価値観で評価し、序列化することが必要である。悪心を持つ人間を、価値の無いものとして社会の低い地位に貶めることが必要である。高潔で利他精神に富む人間を最高位に置く必要がある。そうすれば、自ずと社会全体が、競争から共生へと向かうとノムは確信する(20.8.30「未来世界における人格点制度」)

  ここで「共生原理」というものを定義してみたい(22.11.15「アリとコオロギから共生の在り方を学ぶ」・21.2.18「人間はウイルスとの共生を考えなければならない」)

 《 共生原理 》(20.10.4「人間本能の階層構造」)

1.生存本能から出る共生欲:食欲が最大の生存本能から出る欲望であるが、未来世界ではそれは満たされるとともに、自己抑制される。そして高度に進化した知的本能から、克己精神や友愛・情愛などの利他精神が生まれるだろう。それは他者と共生したいという共生欲として表れるだろう。

 2.生殖本能が交友本能に転換:現代で既に若者の間で生殖というものに興味が失われつつあることは、人類が単に増殖すればよいという動物的本能から解放され、隣人同士の交友本能に転換しつつあることを証左している。性欲は残るが、それは交友のための手段として使われるようになるだろう(20.11.5「人間本能の制御は可能か?」)。そしてその結果として自然に人口は抑制され、人間による環境破壊も抑制されることになる。これまで知的本能として価値が認められていた自己顕示欲の価値は低められ、社会への貢献が最大の価値となるだろう。

 3.知的本能の成熟による共生本能:知的に高度に進化したネオサピエンスは、これまで知的本能から出ていた欲望と競争を価値のないものと見做すようになり、他者との共生に最大の価値を見出すようになる。たとえばオキシトシンというホルモンの働きが最大になることで、人間自体が変わる。名誉欲や達性欲はもはや個人の生存率の向上という生存本能に由来するものではなくなり、生存本能を超えた共生本能に置き換わるだろう。知的ゲームによる競争やスポーツゲームによる競争は、良き競争として残ると思われるが、それも個人の名誉として誇るのではなくなり、他者を褒め称える心に置き換わるだろう。近年の日本人のアスリートや知的ゲーマーにはそうした言辞がほとんどとなっており、もはや現代で実現していると言ってもいいだろう。克己心による達成感が知的本能を満足させるという形に変化するだろう。

 4.人間の共生行動の源泉:人間の共生行動は、生存本能+生殖本能+知的本能+共生本能から生じるようになるだろう。それを個々に完全に区分することはできない。そのため人間の共生行動は、動物よりもはるかに高度なものとなり、複雑に多岐化するだろう。

(7.26起案・7.30起筆・8.21終筆・8.22掲載・追記)


TOPへ戻る