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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2022】

科学的議論を阻害している現代イデオロギー

2022-11-10
  ニュースを後追いしていた11月8日、ポーランドで保守党党首の発言がひんしゅくを買っているという記事があった(国際11.5「ポーランド与党党首が出生率低下の原因は女性の飲酒と発言・女性蔑視との批判多数」)。そのあらましを述べると、公式統計によると、ポーランドの出生率は1.3強と、欧州連合(EU)の平均や、人口維持に必要な水準を下回っている(日本の2021年統計もほぼ同じ)。これに危機感を覚えたポーランドの与党「法と正義」のヤロスワフ・カチンスキ党首(73)が、「若い女性がお酒を飲み過ぎるせいで出生率が低下している/女性が25歳まで同年代の男性と同じくらい酒を飲むという状況が続けば、子どもはいなくなるだろう/男性の場合、平均20年にわたる過度な飲酒によりアルコール依存症になるが、女性の場合はたった2年だ/アルコール依存症の男性の3分の1は治療できたが、女性は1人も治せなかった」と発言した。これに対し政治家や女性著名人らは、カチンスキが現実を把握しておらず、家父長的で、発言自体もばかげていると非難している。ポーランド女性が子どもを持つことをためらうのは経済的な理由に加え、与党「法と正義」が中絶を厳格化したためだとの指摘もある。このニュースに対してノムは、「批判している人は現代イデオロギーに基づいており、必ずしも正しいとは言えない。カチンスキの発言が正しいか科学的根拠を以て反論すべきだ」と注釈を入れた。本項ではその本意を示したい。

  記事だけではポーランドの実情を読み解くことはできないが、問題は、政治家や女性活動家らがカチンスキの発言を「家父長的」・「現実を把握していない」として批判していることにある。つまり科学的な論争を回避して、現代の女権に基づく権利主義的な発想から、議論を拒否したことにある。ノムは実情を知らないからカチンスキの言うことにも一理あると考えるが、それは科学的統計を以て証明されるべきことであろう。だが現代イデオロギーは、こうした常識論的発言をすら否定し、自由主義・平等主義に基づいた偏見から、議論を停止して相手を批判するのが常である(21.2.6「メディアによる「言葉狩り」に怒り」)

  省みて日本ではどうであるかを考えてみよう。上記したように日本もポーランドと同じ状況にあり、人口的にみれば衰退の一途を辿っていると見られている(ノムの考えによれば、人口減少は大いに結構なことである)。その日本でなぜ出生率が下がっているのかと言えば、統計から明らかなように2015年頃から急激に出生率が落ち始めた。この頃問題にされたのが、共働き夫婦に対する保育所の不足であった。2015年以降では特に若夫婦の出産が減っており、35~39歳の高齢出産は横這いであり、40歳以上の超高齢出産は逆に増えている。これは近年の生殖医療技術の向上によると思われる。問題は若夫婦が都会暮らしをしている場合、その多くが実家と距離があるため老夫婦の実家に子を預けることができず、保育所不足が出産を諦める最大原因であった。ポーランドのような女性の飲酒が原因という分析はほとんど見たことがない。日本には夫婦連れだって夜遊びをする習慣もないし、女性が外で酒を飲む機会は極めて少ないからである。また日本では生活上の利便性が向上し、女性が女性らしさを喪失した結果、男性が結婚を前提とした人生を考えなくなったということも大きく原因していると思われる。男性は自分の趣味を第一に考えるようになっている。問題は性的不満が容易に解消されていないことにあると思われる(8.3「未来世界の性欲処理施設」)。そのため日本では時々、異常な事件が発生して世界を驚かせている。

  では飲酒は妊娠を妨げる要因の1つなのだろうか? 一般的に、女性は男性に比べて、アルコールの代謝が遅いとされており、さらに、女性ホルモンがアルコールの代謝を抑制することもあり、男性よりも少量のアルコールで、また短期間で、アルコール依存症や肝障害が進展しやすい危険性があるという。例えば、男性の場合、3合以上のお酒を15年飲み続けるとアルコール性肝硬変になるといわれているが、女性はその半分の年数といわれている。日本でも最近は女性の飲酒量が増え、重症のアルコール性肝炎患者が増加傾向にあるとの報告もある。産婦人科では妊娠中・授乳期の飲酒を止めるよう勧めており、それはまた常識ともなっている。だがノムの調査では、飲酒が妊娠を妨げているのかどうかについては分からなかった。こうしたことから、上記のカチンスキの発言は当たらずと言えども遠からずである。だがポーランドで飲酒だけが出生率低下の原因だと断定することはできないだろう。指摘にもあるように、経済的理由・法的理由も確かにあるのだと思われる。

  日本では「中絶」は合法であり、年間16万件ほど行われている。日本の16~49歳の女性のうち約6人に1人は中絶の経験があると推計されているそうだ。米国やポーランドなど、キリスト教系国家では賛否両論であり、ポーランドで与党が中絶を厳格化したとするならば、その与党の党首の発言は「言い訳」的なものである可能性が高い。そうした状況を考えると、カチンスキの発言に反発があるのは当然とも言えるが、だからと言って科学的議論を放棄してしまう理由にはならない。他国の政治に注文を付ける気はないが、あくまでも科学的議論を進めてほしいものである。現在進行形の米国での「中絶の是非」を巡る中間選挙の結果が注目されているが、与党民主党は中絶の権利を主張し、野党共和党は人工中絶反対の立ち場を取っている。しかも上院と下院で正反対の採決をしており、保守派判事が多数を占める最高裁判所が近く、人工中絶を規制する州法を違憲とした1973年の「ロー対ウェイド判決」を破棄すると報道されたことが選挙の争点になっている。もし共和党が中間選挙で上下両院で多数派となれば、確実に人工中絶は禁止の方向に向かうであろう(州ごとに異なる)。たとえ女性が強姦されて身ごもったとしても、中絶できない暗黒の時代が到来することになる。

  米国民がその選択をするのであるから、外から意見を差し挟みたくはない。だが人工中絶を禁止するという思想自体がキリスト教というイデオロギーから来ており、日本とは事情が違うアメリカ独自の現代イデオロギーの問題がそこにはある。米国はトランプの時代から狂気の時代に入ったとノムは考えており、トランプ以前では大統領選が終わって次期大統領が決まった時点で敗者は負けを認めるのが慣例であった。だがトランプは前回の大統領選での敗北を認めず、選挙に不正があったと主張し続けている。それ以来、というかトランプの時代に入って以来、米国は国論に深刻な分断が生じるようになった(20.11.4「米国大統領選挙に見る民主主義の破綻」・21.9.19「米国の自由主義に見る危うさ」・21.12.24「分断と分裂」)

  日本の場合は左翼による平和主義や反原発、反核武装、反軍備増強、等がある。これらは固定観念から生じた妄信に近いものであり、議論の余地がないことが米国と同様な分断を生んでいると言っていいだろう。それがどこから由来したのかについては、簡単にまとめれば戦後左翼運動が反アメリカではなく、反政府に向いたことが端緒となっているとノムは考えている。政府のやること為すこと全てに反対するという姿勢(旧「社会党」)がそれを象徴しており、現代アメリカと同様な分断がそこに生じているとノムは認識している。それは万年野党の「言葉狩り」や「モリカケサクラキョウカイ」という些末な問題への執拗な追及に表れている(9.21「社会にとって有害なメディア報道」)。こうして肝心な重要問題は脇に置かれてしまい、日本はずるずると世界の主要国からの地位から脱落し始めている。安倍・菅・岸田と、歴代自民党首相が奮闘しているが、自民党自体が選挙を恐れて自由な発言を封じており、日本を刷新してきた安倍が暗殺されるに及んで、日本の先行きは極めて暗いものになりつつある。だが、それでもまだ日本は世界の中では安定した国家であり、安心・安全・信頼に値する国家であることには自信を持って良いだろう。問題は野党であり、現在のような質の劣る状況であるならば、野党不要論が出て来てもおかしくないと思われる(20.9.9「野党不要論」)


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