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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2024】

文明の同時崩壊

2024-02-27
  NHKが2月21日に放送した「古代文明・同時崩壊のミステリー」を観て、ノムの考え方と多くの点で一致していることを感じた。そして現代の状況が、多くの点で古代に起きた文明の同時崩壊と近い状況に置かれているのではないか、とも感じた。それは正にNHKの番組が言わんとしていることであるが、NHKに乗せられたとはノムは思っていない。むしろ、ノムが主張していたことの裏付けが得られたと思った。以下では、番組を基に、古代文明が如何にして50年という短い間に同時崩壊したか、そしてそれを乗り越えたエジプト文明の知恵がどういうものだったかを学び、ノムの予想する現代の文明の同時崩壊がどうやって起こるかを説明したい。

  ジョージ・ワシントン大学のエリック・クラインは、後期青銅器時代の終わり頃に起きた文明の同時崩壊と同様な危機に、現代文明も直面していると指摘している。彼は「殆どの社会は崩壊してきた。私たちがそうならないと考えるのは思い上がりだ」と語っている。

  地中海に面した3つの地域に古代文明が花開いたエジプト・ミケーネ・ヒッタイトである。他の国々も交えて、地中海では海上交易が行われ、繁栄の極みに達していた。だが紀元前1200年の頃、一連の天災が地中海を襲った。最初は干ばつであった。2017年に行われた古代イスラエルのアタロット洞窟の調査では、青銅器文明後期と初期鉄器時代にかけて、石筍が成長していないことが分かった。すなわち洞窟内に浸みこむ雨水が無かったことを示している。ガリラヤ湖の近くの土壌の調査では、花粉の量と種類が調べられたが、紀元前1300年から1250年頃に樹木が減っていることが確認された。研究者は紀元前1250年から150年間もの長きにわたって、干ばつが続いたと考えている。

  最初に干ばつに見舞われたのはヒッタイトであったようである。エジプトはヒッタイトのウガリトに対して食料援助を行っていたことが、メルエンプタハ王の記録として残されている。だがそのエジプトにも、地震という災厄が訪れた。ルクソールにはアメンホテプ3世の葬祭殿があるが、それは地震によって破壊された。その石のブロックの倒れ方に特徴があることから、地震が起こったことが想定された。地層には液状化が起こっていた痕跡があることも分かった。そしてこの地震の100年後、エジプトは「海の民」に襲撃を受けていたミケーネにも地震の痕跡が残されている。16体の骸骨に、地震によるものと推定される傷が残っている。紀元前1200年頃には、地中海一帯の文明国を一連の「地震の嵐」が襲っていたようである。アナトリア周辺には大きな活断層がいくつもあるという。特にギリシャやイスラエル付近に多い。

  「海の民」については記録が残っていないことから、長いこと謎の存在であった。だがエジプトの葬祭殿のレリーフに描かれている海の民の姿から、それは出身地の様々な混成集団であることが推定される。武具も頭飾りも多様であるからである。中には子どもを連れた家族が牛車で移動する様子も描かれている。こうしたことから、海の民というのは統一された国家を持たない、難民であったという仮説が出されている。干ばつや地震、そして疫病などによって住む所を失った難民が、他国に侵攻して略奪・強姦・侵略・移住、したと考えられるというのだ。

  疫病があったということは、エジプトのラメセス5世のミイラにも残されている。彼は天然痘によって亡くなり、本来は死後70日で埋葬されるところを、16ヶ月後に埋葬されている。同時に他の親族も埋葬されており、全員が突然亡くなったことを示唆している。また墓堀り作業員には1ヵ月の休暇が与えられている。

  以上の研究結果から、海の民が必ずしも文明を滅ぼしたのではないと考えられている。この地中海一帯を襲った干ばつ・地震・疫病が直接的な原因であり、それぞれの文明内に内乱の可能性をもたらしていたからである。エジプトではピラミッド労働者への食料配給が止まり、パピルス文書には世界初のストライキがあったことが記録されている。食料が無くなり飢餓に晒されたことで、人々には王の権威などどうでもよいという感情が起こったようである。彼らは仕事を放棄し、神殿で座り込みをした。これは内乱に繋がった可能性もある。たった7槽の船で襲来した海の民に対して、エジプト軍は為す術もなかったと記されている。同時に内乱が起きた可能性は否定できないだろう。

  冒頭で述べたエリックは、現代のグローバリゼーションを懸念している。各国が他国に物流などで相互依存関係にあることは、極めて危険であると指摘する。そして資源が重要な位置を占めることも指摘した。トルコ沖で発見されたウルブルン沈没船には希少品や贅沢品と並んで、兵器や農具の材料としての青銅が大量に積まれていた。一艘で都市全体、あるいは軍隊1つの需要を満たすほどの11トンもの材料である。鉱石の産地は限られていたが、交易によって手に入れることができた。そのためには経済的に繁栄しなければならず、経済競争は必然的に武力闘争を生み出す。だが交易網が崩れると、人々は対応できなくなるとエリックは指摘する。現代の食糧・エネルギー問題でも同じことが起こっている。ロシアのウクライナ侵攻で、これらの物流の流れが変わった。対応できない国々では食料・エネルギー価格が高騰しており、それは内乱に繋がりかねなくなっている。

  近い将来、世界は人間の欲望をもはや制御できなくなり、各国の主権の下で戦争を始める。いや既に始まっている。それでも人々は強欲を捨てることができずにおり、自国第一主義によって合従連衡して最終兵器を使って第三次世界大戦世界大戦を戦うことになる。これは主要国の主要都市を壊滅させるだろう。それによって国家の機能は停止し、物流も無くなるだろう。人々は飢餓に襲われ、それまで好調に動いていた世界システムが、無力であることを知るであろう。そして現代文明はその痕跡を残しながらも、少なくとも一時的には同時崩壊することになる。それは古代に起こった文明崩壊が50年という短い期間であったよりもはるかに短い、一瞬で起こることになる。

  エリックは文明崩壊を何とか免れて、新鉄器時代にまで文明を残したエジプトに注目している。エジプトは前1200年以後も王朝が継続され、前30年のプトレマイオス朝まで続いている。それは農業の改革を行ったからだとエリックは考える。この頃からエジプトは小麦や大麦などの穀物栽培に転じた。これらは乾燥に強い作物だったからである。エリックは文明が崩壊するかしないかということが問題なのではない」という。むしろ「崩壊の前に何を準備するのか、どうしたら崩壊を止めることができるのか、崩壊後に何をすべきか」が大切だと説く。ノムは現代文明の崩壊は避けられないと考えてきた(22.6.30「人類史からみた第三次世界大戦の必然性」・23.8.17「生物学的人類史」)。そしてその後に来る未来世界を安定化させるために、今から準備が必要だと主張してきた。それはもはや食糧や技術ではなく、思想である。世界を一つにまとめて戦争を無くすことができる思想である。ノムはそれを提唱し、「ノム思想」と名付けた(20.9.7「ノム思想とは?」・21.8.28「ノム思想の特徴」)。  

(2.26起案・起筆・終筆・2.27掲載・修正)


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