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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2023】

【時事短評】イタリアが間違った生命尊重主義を政治に持ち込む

2023-11-07
  おどろいたことに、たった一人の英国の難病の子を救うために、イタリア首相が閣議を開き、この子にイタリア国籍を与えてバチカンの病院で治療を受けることが出来るようにした(国際23.11.7)。これを世界の人々はどうおもうのだろうか? 世界で戦争があちこちで起こっており、何千人もの人が毎日死んだり、負傷したりしているのに、たった一人の子のために、イタリアが閣議までして法律をねじまげ、強引に子どもに二重国籍を与えた偽りの人命尊重主義を自分の名誉栄達のために利用したとしか思えない(6.24「人間生命尊重主義の蹉跌」)。イタリアのメローニ首相の行為を称賛する人もいるかもしれないが、そうした人は余程お人よしとしか言えない。

  そもそもこの子は細胞内でエネルギーを生成できない難病「ミトコンドリア病」を患っている。英国国営の国民保健サービス(NHS)は治療法がないとし、医師らは生命維持管理装置を外すべきだとしている。それを外国の首相がどうこういうのはどう見ても適切ではないし、人道的とも言えない(22.6.26「人道を考える」)下手をすると外交問題に発展しかねないメローニはイタリアで初の女性首相であるが、明らかに、中絶・安楽死・同性婚やシビル・ユニオンを認める法律などに反対している保守主義者であり、野党からは極右とも呼ばれている。だが保守主義にこうした暴挙はこれまでになかった。また保守主義と相反するかのようにフェミニストでもあり、女性の権利擁護に余念がない。今回も女の子であったから助けようとしたのかもしれない。男の子であったらこうした行動には出なかっただろう。

  メローニが国民に支持されているのか、はたまたこの件に関して国民が支持しているのか、等については報道が少ないため分からない。だがノムはこうした偽善的生命尊重主義を、最も卑劣な人心操作だとして糾弾する。一種の人気取り政策であり、自国を英国よりも人道的だと宣伝するための手段とした。他国の法律・立場・名誉を汚したという点でも罪は重い。女性が政治のトップに立った場合に出てくる問題点の1つなのかもしれない。感情に左右され、常識や周りへの配慮を欠いた政治を行うという問題点である。

  ノムはこのところのメディアの記事にも生命尊重主義の乱用を懸念している。ガザでのパレスチナ人の死者数を毎日のように強調して報道しているからである。そのため、米国では若者の間にパレスチナ支持の傾向が出ているという。日本でもそうかもしれないが、幸いなことに日本では国論が分だされるような事態は起きていない。だが初期のイスラエルへの同情が、パレスチナへの同情に切り替わっていると思われる。メディアがそのような意図的操作をしているからである(10.14「イスラエルとハマスのどちらに大義があるか?」)。戦争では死傷者が出るのは当たり前のことであり、その大小を問題にしても何の益にもならない。問題は先に事をおこしたのはどちらなのか、どちらに大義があるのか、ということであり、論点をそこに向けなければならないはずであるが、メディアは死者数だけを問題にしているように思える。たかだか1万の死者は、第一次世界大戦や第二次世界大戦での数千万の死者と比較しても、問題にするレベルではない。メディアは論点を誤っている

  今回のメローニの行動は、人間が生命尊重主義を如何に誤って適用しているかを端的に示した。たった一人の死ぬ運命にある子に対し、国家が総力を挙げて人道主義を宣伝するためのプロパガンダにするために、道具として、あるいは手段として利用した。ノムの運命論や生命論によれば、先天的に生きることが叶わない状態で生まれた子は、自然に任せて死なせるべきであり、無理矢理高度医療などを施して生きながらえさせるのは、子どもに苦痛と苦難の運命を強制しようとする非人道的措置である。自然界では自然淘汰の原理が働くが、人間界では医療があるため、必ずしも自然淘汰の原理は働かず、むしろ人為淘汰の中にある。国家が一人の命の永続に関わったとすれば、それは正に政治的人為淘汰である。だが、病気の性質からして、それは無駄な徒労に終わるだろう。

(11.7起案・起筆・終筆・掲載)



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