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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2023】

報復の連鎖

2023-12-24
  最近の国際的状況を見ていると、「報復の連鎖」が続いているようだ。愛を説き、「汝の敵を愛せよ」と言う不可能に思える言葉を遺したイエス・キリストから発祥したキリスト教のクリスマス・イヴの日に、こうした話題を取り上げるのは相応しくないかもしれないが、現実の世界はそうなっている。多くの人が平和を願い、今日も平和の祈りが各地で行われていると思われるが、残念ながら世界では国家や組織の利害が衝突し、それは拡大の一途を辿っている。国連は空しく和平を説いているが、それを多くの国が支持したとしても、わずかなならず者国家がそれを台無しにしている。それが人間の持つ競争心から出ていることは、これまでの項で説明してきたが、なぜ拡大するのか、なぜ連鎖するのかについて、もう一度考えてみたい(22.11.13「エスカレーション原理」)

  少し前のことになるが、最近のニュースからこうした報復の連鎖と思われる事例を取り上げてみる。

2023年12月27日:イランのハメネイがイスラエルへの報復許可を与える
2023年12月25日:トルコ軍がイラク北部・シリア北東部に集中的空爆・クルド人勢力への報復
2023年12月25日:中東でイランに戦闘拡大の懸念
2022年10月10日:クリミア大橋爆発で高まるロシア国内の報復論
2023年8月3日:ロシアが非友好国にノルウェーを追加
2023年8月1日:中国によるガリウムなど半導体材料の輸出規制開始
2023年7月30日:フランスがニジェールクーデターに反発
2023年7月24日:ウクライナがモスクワのドローン攻撃は特殊作戦と認める
2023年7月23日:日本が軍事関連先端半導体製造装置の輸出規制開始
2023年7月20日:ロシアがソ連時代の慣行に逆行・外交官遠出に届け出制復活
2023年7月7日:ロシアがフィンランド外交関係者9人追放・領事館も1つ閉鎖
2023年5月18日:エルサレムで多数の右派系ユダヤ人らがイスラエル国旗を掲げて行進
2023年7月19日:クリミア橋の攻撃を受け、ロシア国内で強硬論拡大
2023年7月19日:中国が日本産水産物に対する輸入時の放射性物質検査を全面的に始める

  これらのニュースの記事の中に「報復」という字句が含まれていた。どのニュースを見ても、敵側の攻撃的行動に対して、自国の人々が怒りを募らせている様が読み取れる。こうした人間の持つ報復心は、「敵から攻撃を受けた」という心理から生じており、自分の国なりが、最初に攻撃をしたという事実を忘れていることが多い(12.9「ハマスが第一原因者」)。こうしたことが重なって、報復が連鎖していくのだと思われる。イエスはこうした人間の心理、あるいは本能を見据えた上で、「汝の敵を愛せよ」という実行不可能なことを説いたのだろうか?

  ノムはこうした争いを無くすためにはどうしたらいいかを考えてきた。そしてその方法は以下に示す2つしかないと思っている。

1.絶対的力の存在が必要:世界は今、多少の力の差はあっても、主権を持つ150ヵ国以上の国家から成り立っている。それぞれの国が主権の下に自国の利益優先の対外政策を取れば衝突は必須であり、それを仲介する絶対者がいなければ紛争は拡大の一途を辿るしかない。世界には絶対的力が必要とされている(20.4.9「全体主義の優位性」・12.19「増殖・拡大の原理から縮小・統合の原理へ」・12.21「国連による軍事制裁を構築せよ!」)

2.究極的には、世界は1つの組織に統合されなければならない。それは未来世界の「世界連邦」しかないと考えられるが、それは現状のままでは成立し得ない(21.3.28「世界連邦の可能性」)。諸々の条件が整えば、人類はその方向に行くであろう。

  現状では上記2つのどちらも不可能であることは分かりきっている。それ故、ノムは現状の中での妥協や調停・仲裁があったとしても、それらに希望を見出すことはできない。それは一時的で姑息な手法であり、問題をより複雑にするしかないからである。その端的な事例がパレスチナに於けるユダヤ国家の成立であった。アメリカやヨーロッパのユダヤ人勢力の力に配慮した米欧は、イギリスなどが画策してユダヤ人国家とパレスチナ国家の樹立を約束した。だが後者は果たされないまま、イスラエル国家だけが先に成立した。その結果、パレスチナの先住民は追い出されてイスラエルの領土となった。誰が悪いかという問題ではなく、そうした経緯によって現在のパレスチナ問題が起こっている。そしてこれは明確な報復の連鎖の原因でもある。

  この「報復の連鎖」という問題については、以上に述べたように、絶対的力としても連邦が成立するまでは解決の目戸は全く立たない。それ故、ノムはこれらの問題については、運命論に従って、成り行きを見ていくしかないと思っている(20.11.7「運命論」)。ただ、そのこれから作られる歴史において、日本は大義を持ち続ける必要があると考える。日本は紛争に巻き込まれないように、注意深く仲介者としての役割を果たしていくべきであろう。それは紛争当事者双方の利害を折半するという方法ではなく、世界平和のためには世界が統合されなければならない、という大義を掲げて説得に当たるべきである。現在の日本にはそうした思想はないが、かつては日本にはそうした「和」の精神があった。日本には「人類皆兄弟」という思想がある。「大和(やまと)」という文字には、大きな和という意味がある。日本は「和」を説く資格もあるし、その力もある程度備えている。そして何より、世界の多くの国が日本を信頼しているという事実もある。また日本には、「痛み分け」という格言もある。日本は報復の連鎖を断つために、こうした日本精神を以て、今こそ立ち上がるべきだと考える(20.9.1「武士道精神とは何か?」・20.11.13「米国の衰退と中国の台頭・日本の役割は?」・3.29「日本の推進する国際秩序」)

  追記になるが、大谷翔平の行動振りが今回のテーマに参考になると思ったので書いてみる。テレビで見ていて感じたのだが、彼の眼には嘘がない。真摯に問題に対して真剣に考え、いいプレーをすることだけに集中している。彼がグラウンドに入るときには一礼する。これは日本選手に共通した良い習慣である。また意地悪な判定をする審判に対しても一礼を怠らない。こうした日本人らしい律義さは、世界の多くの人をも魅了しているに違いない。彼は問題を抱えた時、それを他の人のせいにしたり、球団のせいにしたりはしない。飽くまでも自分の問題として解決しようとしている国際関係もそうあってほしい。問題が生じたときに、その原因が自国の法律や制度、そして政権に原因があるのではないか、と一歩退いて考えることは重要である。日本人の一挙手一投足から学んだ教訓である。

(4.26起案・4.27起筆・12.24継筆・終筆・掲載・12.26・27追記)


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