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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2022】

権力の取り巻き

2022-12-11
  歴史上には市民の末端から伸し上がって権力の取り巻きになったという事例がたくさんある。いずれも正邪は別にして能力のあるものであり、その成り上がり者が権力者に対してクーデターを起こして政権トップに就くという事例も珍しくない。そうしたことは原始社会に近い体制ほど可能であり、現代で言えばマフィア国家と云われるロシア・中国で顕著である(7.17「中国の黒社会(マフィア)化」)要は如何にして権力者とのコネを作るかに全てが掛かっている。あるいは権力者の間接的な部下となって顕著な忠誠を示せば成功する。そうした事例をいくつか検証してみた上で、権力の取り巻きの持つ条件・資質を考察してみたい。

  最初に現代で最もなりあがった人物の代表としてロシアのエフゲニー・プリゴジンを上げたい。プリゴジンは1961年6月1日にレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)で生まれた。幼少の頃のデータはないが母親は教師で医師であるとされる。決して貧しい生い立ちではなかったようだ。10歳まで全寮制学校で過ごし、クロスカントリーに打ち込んだという。18歳で最初の犯罪に手を染め、窃盗罪で執行猶予付き判決を受けた。20歳では強盗・詐欺・未成年者を犯罪に巻き込んだ罪で12年の懲役刑に服し、9年間を刑務所で過ごした。いわゆる悪ガキ坊ちゃんから悪人に育ったのかもしれない。

  1990年(39歳)、プリゴジンと継父ホットドッグを露店販売するネットワークを立ち上げ、これが大成功する。続いてサンクトペテルブルグで創業した最初の食料品チェーン「コントラスト」の15%の利益共有者となり、責任者となった。カジノ経営にも乗り出し、ヴァイキング店も設立。1997年には40万ドルをかけてヴャトカ川の水上レストランを開始。これを2001年にプーチンがフランスのシラク大統領接待に用い、2002年にはJ.W.ブッシュ大統領との会席にも使われ、プーチンと懇意を持つようになった。2003年までに個人のレストランを持ち、違法行為は黙認された。学食提供を政府と結び、またロシア軍への給食事業を独占して莫大な利益を上げた。いわゆる新興財閥(オリガルヒ)の一員となったのである。

  大富豪になった2011年には母親をコンコルド・マネジメントという企業の所有者としている(その後3社以上を所有しているようである)。2014年にプーチンはプリゴジンに民間軍事会社設立をするよう指示したもようだ。プリゴジンはその命に従い、2014年5月1日に愛国者集団を創立した。これが後に「ワグナー社」となった国内ではクリミア侵略に加担し、それが落ち着くと中南米やアフリカ諸国の独裁傾向の強い政権にワグナーを傭兵として送り込んだ。これもプーチンの後押しなしにはできなかったことだ。だが米財務省は早々に、プリゴジンを制裁対象に加えている。2018年1月には米財務省はエブロ・ポリス社がプリゴジンの所有であることを認定した。2018年2月にシリアのクルド人勢力を攻撃したが、その際ロシアとシリアの軍当局者と緊密に接触していた。2018年7月、中央アフリカ共和国において、ロシア政府に批判的な報道を行っていた3人のロシア人ジャーナリストが、ワグナーの活動を調査中に殺害された。ワグナーを率いるのはプリゴジンの治安責任者であったドミトリー・ウトキンである。プリゴジンは2021年にバスケットボールとヘリコプター発着所付きのサンクトペテルブルクの邸宅を建てた。彼はプライベートジェットと約35メートルのヨットを所有している。超リッチの証しであるものを全て持った。反汚職財団はプリゴジンを腐敗した商習慣があると非難した。違法に築いた10億ルーブル以上の資産があると推測される。それをプーチンは容認し、後押しすらしてきた。2022年4月のウクライナ侵攻では、プリゴジンはドンバスに出向いて、軍服姿で兵士を鼓舞した2022年8月から看板を使って兵士募集を始め、存在を隠さないようになった9月には囚人を兵士として募集を始めた。これもプーチンの承認がなければできるはずもないことである。プリコジンはもはや、独裁者プーチンの共犯者かつ組織犯罪グループのメンバーであり、ワグナー・グループはロシア連邦保安庁(FSB)とロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の偽装組織となった。政権においても影の実力者である。だがそれが明らかになったのは2022年9月26日であった。

  ロシアには国営企業である「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」という企業もあり、2013年7月ごろに設立された。これは情報部門で対外諜報活動を行っている。300~400人が24時間体制で活動しており、ロシア語・英語・ウクライナ語などが使用されている。米国などへの対外戦略予算は2016年9月で月額7300万ルーブルに上っていた。IRAは米国社会に浸透し、米国の諜報員を使って政治集会を開いたり、フェイクニュースなどを流している。当時の攻撃対象はヒラリー・クリントンであり、オバマなど民主党議員であった。2016年頃からプリゴジンは訴訟対策として自ら訴訟を繰り返すようになり、ロシア国内ではプーチンに支配されていることから勝訴を重ね、裁判所は独立系メディアの「メドゥーザ」に200万ルーブルもの賠償を命じている。2018年には米国で、ロシア国籍を持つ13人とIRAを含む3団体が起訴されているコンコルド・マネジメント・アンド・コンサルティング・カンパニーと他の1つの関連会社もプリゴジンの支配下にある。これら3社は2016年の米大統領選挙、その他の国の選挙に介入してきたアレクセイ・ソスコヴェツというオリガルヒは、オルジーノインターネット・リサーチの事務所と直接の関係があると報じられている。ソスコヴェツの会社、ノースウェスタン・サービス・エージェンシーは、サンクトペテルブルク当局のために祝賀会、フォーラム、スポーツ大会を組織するための17または18の契約を獲得している。2019年9月には、さらに3つのプリゴジンの企業(Autolex Transport、Beratex Group、Linburg Industries)が、2016年のアメリカ大統領選挙におけるロシアの干渉に関与して米国から制裁を受けた。2018年2月26日、米連邦大陪審はプリゴジンのインターネット・リサーチ・エージェンシー、コンコルド・マネジメント、別の関連会社、その他のロシア人個人を起訴した。それでも懲りずに、プリゴジンは、リビアでカダフィの息子のサイフ・カダフィを2019年の大統領にしようと画策したことが、2020年3月になって明るみに出た。2021年1月には米連邦捜査局がプリゴジンを指名手配リストに入れ、情報提供者に最大1000万ドルの報酬を出すとした。2022年2月には欧州連合が動き、インターネット・リサーチ・エージェンシーは偽情報で世論操作を実施したとして、欧州連合の制裁リストに追加された。これらの動きに対し、プリゴリン自身が2022年11月にフコンタクテへの投稿でアメリカの選挙に干渉したこと自体を認めた。開き直った感じである。

  いまやワグネルはマダガスカル・中央アフリカ・コンゴ・アンゴラ・セネガル・ルワンダ・スーダン・リビア・ギニア・ギニアビサウ・ザンビア・ジンバブエ・ケニア・カメルーン・コートジボワール・モザンビーク・ナイジェリア・チャド・南スーダン・南アフリカ、などに傭兵を送っている。これらの世界展開はピョートル・ビシュコフという人物が調整を担当しており、ヤロスノフ・イグナトフスキーという人物もアフリカで事業展開に関わったとされている。だが根本的には外交問題に直結しており、プーチンの承認無しにはできないことである。

  プーチンがワグネルの国家組織としての存在を否定し続けていることは、プリゴジンと結託した上での内密の構図になっていることを示唆している。このようなことが可能であるのは、ロシアが典型的マフィア国家であることを示している。なぜ露店販売から始まった商売が国家と結びついて米国の大統領選挙への介入にまで手を染めるようになったのか、そして最近ではプリゴジンがプーチンの方針に異を唱えるまでに傲慢になったのか、そしてなぜプーチンはプリゴジンを粛清しようとしないのか、等々についての疑問は全て説明できるものである。だが本項はそれが主題ではないため、割愛しておくことにする。またロシアの事例が長くなってしまったため、他の例については別項で取り上げることにする。

  権力がプーチン独裁のような形で形成された場合、プーチン自身が人脈で伸し上がってきたように、プーチンもまた、経歴に捉われずに目的を成就できる人間を登用する(4.17「プーチンは如何にして皇帝に成り得たか? 」)。それは特に非合法・冷酷さを売り物にしている人物が重用されることになる。こうしてマフィア国家化していくのである。中国も今回の人事で分かったように、習近平の言う事を忠実に聞く人物で周囲を固めた。習にたいして意見は述べても反対する者はいない。そうした意味ではやはりマフィア国家である。完全垂直指令体制であり、部門ごとの独立性はなく、調整すら行われない。それがコロナ政策緩和でもろに表れた。現場はさぞ混乱したと思われるが、最も混乱させられたのは国民であったようだ。

  権力」というものをノムは決して否定的には考えない。良い指導者にも権力は必要だからである。特に未来世界では、最終的に連邦政府の「総統」(仮の呼称)である賢人が下した命令は絶対であり、これに反対を唱えることはできない。だが意思決定までの各層での議論では発言は自由であり、その意見が妥当であれば発言者の人格点が上がり、非常識で的を外れたものであれば人格点が下がるだけの話である。こうして上層にまで上ってきた議案は議会で賢人議員によってさらに議論され、最終採決されるその結果を首相なり大統領というトップが最終判断し、それを国民が評価するという手順になる。つぎに国家の意思決定が連邦規定に沿っているかどうかが連邦議会で審議され、問題がなければ国家の意思が尊重され、問題があれば再戻して再度国家内での議論が再開される。時間が掛かることであるが、未来世界では事態の急変ということがほとんどないため、決定を急がないということもあり、また事務処理がAI化されて迅速に処理されること、議論はネット上での公開議論になるため、やはり迅速化されることで、これまでの審議時間は圧倒的に短縮化されるであろう。

  こうした未来世界での意思決定過程は、これまでの「権力」というものとは異質なものとなっている。現在の権力は個人の決定権が余りにも強すぎ、その命令は取り巻きの閣僚などの意見が反映されていたとしても、それを押しのける力がある。権力の取り巻きはそれぞれの役割に応じた立場を持ち、しかも個人的プライドも高く、妥協することをためらう風潮がある。野党が存在すると審議自体に支障が生じてくることで、国政が不安定になる。だが政権の取り巻き連中は結局は忖度によってトップの意向に沿うのが必然であり、それをしたくなければ辞任するしかない。ロシアでは反対すれば粛清される。現代でもそうした勇気ある義人はいるが、ごくわずかである。未来世界では頻繁に辞任ということが行われると思われる。議員は皆プライドを持つ賢人であり、それぞれに確信というものを持つからである。また議員は報酬が少ないうえに責任が重いため、賢人と言えどもその地位にしがみつくことはない。上司と妥協できるかどうかで器の大きさが量られることもあるが、筋を通すことの方が人格点が上がる可能性が高い(20.8.30「未来世界における人格点制度」)


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