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【時事評論2022】

【時事短評】中国の黒社会(マフィア)化

2022-07-17
  16日のニュースの中に、中国で銀行の取り付け騒動が起こっているとの報があった。事は7月10日に起きたことであるが、中国河南省鄭州市で、銀行が市民の預金引き出しを停止したことに対して、約3000人の市民が中国人民銀行鄭州支店の前で「習近平の『中国の夢』は破れた」、「李克強総理は金を返せ」などとの横断幕を掲げて、デモ行進や集会を実施したというのである。日本だけでなく、諸外国でこうしたことが起きたら「経済恐慌」の始まりとされるところだろう。だが中国では全体主義のためそこまでの騒ぎにはなっておらず、なんとは警察を動員して衝突が起こることを避けようとしたのか、暴力団を雇って私服でかつ覆面をした集団がデモ隊を襲ったという。この顛末をどう理解したら良いのか戸惑うが、敢えてノムの見解を述べてみたい。

  なぜ銀行が預金引き出しを停止したのかという原因から解明してみたい。報道にもあるように、地方銀行は土地バブルに乗って不動産業者に多額の投資をし、それによって銀行だけでなく市も潤ってきた。だがもう何年もの間、その机上の計画は破綻し、中国全土に「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンが生じた。それは見込み違いから生じたとも言えるが、市の強引な貧民街再生計画が、予想していた産業の振興や人口増に結び付かず、不動産会社(中国では「公司」)が倒産したためである。2021年9月、中国最大大手の不動産会社「恒大」が経営危機に陥った。折しも今月7月5日、中国の不動産大手の世茂集団が、ドル建て債の元利金について期限までの支払いができず、債務不履行(デフォルト)に陥った。当然の結果として会社に融資した銀行は手持ちの現金が枯渇し、市民の蓄財をも食いつくしてしまった。こうした銀行の不始末は市の責任追及にも及ぶのが全体主義の特徴であり、市としては暴力団を雇って貧民を貧民街から追い出し、無理矢理開発区域を設定して不動産業者と結託していたこともあり、この騒ぎを何としてでも収めなければならない羽目に陥った。

  本来なら全体主義の中国なのであるから、国家がこうした事態に対して急遽人民元を供給して銀行を救い、結果として民をも救うのが当然であるが、恐らく国家自体が近年の投資外交(「一帯一路」や、中国が投資してきた貧困国や紛争国への緊急投資)がアダとなって、国庫が空っぽになっているのではないかと想像する。国家が支援していないために今回のような騒動が起こったのであることは明白である。

  問題は、そうした騒動の解決策として、公共の組織である市が暴力団を雇ったことにある。これは都市再開発事業を行う際に、従前から市が採ってきた常套手段であり、貧民街を立派な高層ビル街に生まれ変わらせるために、住民にろくな立ち退き金も支払わずに追い出すため、暴力団を雇ったことが最初の始まりであった。そうすれば効率よく短期間に収用が可能になり、浮いた経費とともに不動産会社からの贈賄金によって市のトップは肥え太ることになる。これはもはや慣例となり、今回は市民のデモに対してこの私設暴力団(中国では「黒社会」と呼んでいるようだ)を利用した。ということは、中国という国家は勿論民主国家ではなく、権力を持つ一団が支配する黒社会であるということになる。

  習近平が如何に言葉で巧みに「民主・法治・自由」を説こうとも、その実態が無いことを知った国民は、もはや愛国教育のプロパガンダや虚言を信用しなくなり、いつかは大暴動となって地方都市だけでなく、中央都市をも襲うことになるだろう。中国が自ら引き起こしたコロナ禍を、中共政権は強権でゼロコロナを成功させようとした。一旦は収束させたことで、習近平は高らかに「全体主義の優越性」を世界に吹聴した(20.4.9「全体主義の優位性」)。だがその直後に襲った再感染拡大に、同様な手法を用いることで経済が疲弊し、ついにマイナス成長という前代未聞の記録を作った。浮き沈みが激しいため、前年に高度成長を続ければ、次の年にマイナスになることは当然あり得ることで驚くことではない。だが中共政権にとってはそれはあってはならないことである。「前進あるのみ!」を掲げる共産党にとって、停滞や退潮はあり得ないことなのである。事実習近平は10年前に「もっと大きく、もっと強く」なれ、と不動産会社にハッパをかけた。それに操られた不動産会社は販路拡大・異業種への侵入を図った。それがアダとなり、同じ習近平が発した「共同富裕」思想によって破綻した。習は企業を焚きつけておきながら、力を得るとそれを潰しに懸かるのである。

  今後の中国の危うい経済状況や台湾侵攻を考えると、中国はもはやまともな法治国家の道を歩むことは不可能になり、それこそ特権階級が支配するマフィア社会、あるいは「黒社会」となっていくであろう。そのうち「人民を解放」するという存在であるはずの人民解放軍が、国民弾圧の最前線で活躍することになるであろう。だがその場合でも、もしかしたら人民解放軍兵士が私服の覆面姿で現れるかもしれない。これはロシアがウクライナ東部攻略に用いた戦略を思い起こさせる。ロシアは覆面部隊を東部に送り込んだが、その兵士らはロシアの正規軍であった。だが世界は「不明の部隊」と報道し、ロシアの魂胆を読み切れなかった。クリミアが易々とロシアに併合されてしまったのも、メディアの誤った報道に責任がある。今回の中国での市による弾圧が、警察ではなく黒社会の暴力団によって行われたことが明らかにされたというのは、その意味でまだマシだったと言えよう。だが中国は、これからも同様な手法を多用してくることは間違いなく、既に我々日本人も2005年・2012年に中国国内で意図的に引き起こされた反日活動を経験している。中国当局は表には出ず、裏で操作して民を操った。その時に金銭で加担した黒社会集団も多かったと思われる。実際にそうしたデモ隊が日当をもらって公費でバスを使って地方からも送り込まれたという報道があった。

  中国は全てが秘密のベールで被われており、全てが組織のトップによる上意下達によって行われる。そうしたことを公にせず、黒社会の存在が曖昧にしている。そこには秘密資金の存在や、裏金による収賄があり、当然の結果として社会全体が黒社会化していく。つまりマフィア国家化していくということである。それもまた秩序と言えば体裁はいいが、その陰で被害を受ける国民もどんどん増えていくことになる。そうした不満が秩序の有難さを超えたとき、中国には新たな革命が生まれるであろう。


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