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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2022】

「異常気象」報道の欺瞞

2022-07-26
  このところ日本でも猛暑が6月25日頃から始まったが、昔は30度を超えれば猛暑とされた。今では35度を超えると猛暑と考えるようになった。ノムの気温計も昨日25日は35度を示した。だがそれが、本来そうした猛暑を経験してこなかったヨーロッパでパニックを起こしている。フランス西部では18日にこれまでの記録を4度上回る40.3度を記録した。イギリスでは19日に40.2度という最高気温を記録し、クーラーを備えていない住宅が多い英国民を恐怖が襲った。世界保健機関(WHO)欧州地域事務局のハンス・クルーゲ(Hans Kluge)事務局長は22日、欧州で猛威を振るっている熱波で、スペインとポルトガルだけで1700人以上の死者が出ているとし、各国に気候変動対策への協力を呼び掛けた。その原因は偏西風の蛇行にあるそうだが、もはや気象現象に理由を求めている暇はないはずである。7月23日のNHKの天気予報を注意深く聞いたが、「地球温暖化の影響」という言葉は出てこなかった。メディアがこうした高温現象を「異常気象」と捉えていること自体に今や違和感を感じるようになっている。もはや異常ではなく、異常が定常になりつつあるのであり、それが地球温暖化が原因であることは明白である。こうしたメディアの欺瞞について書きたくなった。

  地球全体に温暖化の兆しが現れてからかなりの年月が経つ。20世紀の100年間は、温暖化が急激に進んだ。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年に発表した特別報告書によると、産業革命以降、世界の平均気温は約1℃上昇しているとされる(地球平均気温は正確には判っていないので相対比)。極地方や標高の高い地域ほど、気温の上昇率は高くなるため、まず北極・南極の氷が溶け始め、大陸の氷河が縮小し始めた(《温暖化》20.10.12「数十年後、夏の北極海から氷が消える」)。また海洋の温度も上昇しており、そのため大気循環が狂い、台風やハリケーンが大型化している。江戸時代の記録からも分かることだが、偏西風の影響が大きいようだ。さらに北極圏の温度上昇が海水の沈み込みを阻止し、深層海流と呼ばれる。海流大循環が停止しつつある。これらが異常気象を引き起こす原因となっているが、エルニーニョ現象やラニーニャ現象もこれに加わり、世界の気候は非常に複雑な変化を見せている。大雑把にいえば、これまで寒冷であった北極圏やシベリア地方が温暖化が著しく、これまで温暖であった北半球の中緯度では気候変動が著しく、熱帯地域は逆に寒冷化するところも出ている。そうした意味で10年ほど前までは定常的であった季節的気候変動が、完全に不規則的変動に移行していると言えるだろう。

  日本のことを考えるとついつい憂鬱になってしまう。というのは、ノムは米欧を中心に何度も海外旅行をしてきたが、ヨーロッパでは日差しは強かったものの、日陰に入れば楽であった。それは乾燥しているため、汗が噴き出すというようなことがなく、肌は乾燥気味だったからである。アメリカの親戚を訪ねたときは、腕が白っぽくなったことに驚いた。つまり汗を掻いてそれが乾燥し、塩になったのである。だが日本の高湿度の気候ではそうはいかない。日本で40度の気温が到来したら、現在はクーラーがあるから良いようなものの、もし核戦争で文明が破壊して電気が来なくなり、さらに猛暑が襲ったとしたらとても耐えられるものではないだろう。それこそヨーロッパと同様、日本でも多くの熱中症による死者が出るだろう。汗を掻いても蒸発しにくく、体温を下げることができなくなるからである。その意味で、ノムは従前からシェルターの必要性を説いてきた(21.7.17「水害地に環境シェルターの設置を!」)。地下は地温が安定しており、おおよそ20度を期待できる。未来世界では、寝室を季節によって地下1階から地下2階に移動できるようになっているかもしれない(2.22「環境シェルター住宅の設計指針」)

  問題は、「異常」という概念をいつまで吹聴し続けるのか、という点にある。確かに長期的に見れば上記したように温暖化が進んで異常気象の頻度が上がっているという観方もできるため、産業革命以前に比べて異常という意味でメディアは「異常気象」という言葉を使っているのかと思いたくなるが、実は産業革命前後でも異常気象は度々起きている。それは産業革命(1760年代から1830年代)の頃に地球が寒冷期であったからである。「小氷河期」(1300-1917)は寒く、異常気象も多かった。その意味では現在の気候は温暖期への戻りではないかと見る人も多い。では産業革命以前にも現在見られるような台風の大型化や豪雨災害、そして高温気象ということがあったのであろうか。古文書などを調べるとある程度そうしたことがあったことが綴られている。日本書記には6世紀半ばに飢饉があり、人肉食が行われたと書かれている。昭和時代までに大小およそ500回もの飢饉の記録がある。これは少雨高温であったことを示唆しており、それこそ異常気象であった。

  ノムは、メディアは「異常気象」という何となく地球温暖化を示唆する言葉遣いを止めて、「変動気象」という言葉を使うべきだと考える。すなわち、「異常」という言葉の裏には、また元に戻るという期待感が込められているからである。だが現在起きている地球温暖化という現象は、再び元に戻るには恐らく数千年掛ると思われるほど大規模なものであり、ノムの考えるところではその臨界点を既に超えてしまったと思われることから、より激烈にはなっても来年には元に戻るというようなものではない。地球温暖化の原因とされるCO2濃度の増加もここ数十年では減少させることは不可能とされ、世界では2030年までに改善をしなければ、2050年に悲惨な結果を見るだろうと警告している。

  ならばなおさらのこと、元に戻るという期待を込めた「異常気象」という言い方は止めるべきであり、敢えて言うならば「温暖化変動気象」とでも表現すべきであるとノムは考える。すなわち一方向への変動であり、それは来年はもっとひどくなることを予感させる。この言葉をメディアが連日使うことで、より世界の人々は温暖化への危機感を実感するに違いない。その意識が、地球温暖化問題への関心を高め、引いては贅沢や過剰なエネルギー使用に対しての批判を高めるであろう。そこまで民への意識転換を迫らないかぎり、この問題は「カエルの釜茹で」と同じことになりかねない(20.11.23「地球温暖化と動物窒息死の問題」)。メディアが率先して天気予報などを通じて地球温暖化問題への意識を高めるように工夫し、「地球温暖化による影響により、今年の夏は例年よりもっと猛暑化すると思われます」というような表現をしていくべきである。そして気象予報士はぜひとも、単なる説明や報知だけでなく、国民に対して警告を発する役割を担ってもらいたいものである。


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