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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

SDGsプロパガンダ

2021-12-21
  SDGsについては既に2つのテーマを設けて解説してきた(8.25「国連のSDGs政策の欺瞞 」・11.2「カーボンニュートラルとSDGsは可能か? 」)。だがその後も日本を含め、世界的にSDGsキャンペーンが繰り広げられている。ノムにはこれらのメディアキャンペーンは国家によるプロパガンダに聞こえる。国連が世界から結集した科学者らが編み出したものであるといえば聞こえはいいが、その中身には議論が全く無く、世界政治を凝縮したかのような欺瞞性に満ちたものになっている。日本でもNHKが盛んにこれを取り上げ、また2030年を転換点だと主張する番組もシリーズで取り上げられた。さらにそれだけでは飽き足らず、外国の番組まで引用して格付けを行っている。今回は12月11日に放送された、2020年にアメリカが制作した『CAN WE COOL THE PLANET』を観たが、番組としては「地球ドラマチック」というシリーズの中で「地球”冷却化”作戦」というタイトルで放送された。

  まず最初に視聴後のノムの感想から述べたい。NHKの海外ドキュメンタリー番組はいつもそうであるが、番組の終わりになって出典元である制作者がテロップのように紹介される。詐欺に遭ったような気分になるのである。なぜ借り物ならば、最初にそれを紹介しないのだろうか? 今回は「WGBH Education」が制作したものであった。著者の分からない本を読んで、最後になって著者を知ることができる、という具合である。そして外国の番組にありがちな、センセーショナルな表現や誇張がふんだんに盛り込まれ、如何にも「心配することはありません」と安心させるような内容である。そこには人間の技術に対する傲慢さが見られた。また海外番組は、日本の番組のように考えさせる時間的余裕を与えない。完全に制作者の意図するストーリーを納得させるために作られている科学的な内容であるはずなのに、科学の基本原理さえ無視したような内容になっている。番組の最後は、「きっと解決できる問題だと思える」というナレーションで終わっている。ではその内容をかいつまんで紹介しよう。

  1.番組の冒頭、「地球は単なる棲家ではなく、守っていかなければならない存在になりました」と言うナレーションが入る。その通りであり、ノムの制御思想に通じると感心した。「産業革命以降、人類は二酸化炭素を排出し続け、地球温暖化を引き起こし、深刻な気候変動を招いてきました」という説明もその通りである。「被害を目の当たりにして、人々の意識は急速に変わりました」というのもその通りであり、警告としては適切である。
  2.「なぜこんなことになったのでしょうか」という問い掛けがあり、大気中に放出された二酸化炭素が原因だと説明される。だがこれは本当ではない。他の温暖化効果ガスのことが省略されている。事実地球史上に起こったペルム紀の大絶滅はメタンハイドレートの崩壊によるものと考えられている。
  3.原因が人間活動に伴う化石燃料の使用にあると説明しておきながら、人間活動を制限しようという論は全く触れない。如何に処理するかという技術的問題だけに終始している。
  4.今後30年のうちに、二酸化炭素を排出しないエネルギーシステムに転換しなければならない、と学者は言うが、それでは遅い。また「幸いにも手段はあります」と安心させるが、その手段は科学的合理性を持っていない。技術革新のスピードが上がっていることを誇っているが、技術を適用させる規模についての問題を後回しにしている。
  5.ここから本題に入る。まず二酸化炭素の排出量を減らし、つぎに排出されたものを取り除く必要が説かれる。これは正しい順序である。だが番組では排出を減らす技術については触れず、取り除く技術についてのみ紹介している。
  6.100億トンの石炭を燃やしている、という現実が説明される。だがなぜ石油については説明がないのだろう。石炭だけで3700億トンの二酸化炭素が排出されているという。
  7.排出された二酸化炭素が何千年にも亘って大気中に留まる、と気象科学者が説明する。だがこれは間違っている。海水や淡水、そして植物によって吸収されるからである。だが量的な関係についてはノムは分からないので、説明の仕方が間違っているとだけ指摘しておこう。
  8.産業革命以降の累積二酸化炭素量は1兆トンだと説明される。これを取り除く必要が強調される。だがアポロ13号で起きた、クルーの呼吸による船内二酸化炭素の増加を科学者が予測しておらず、緊急事態が発生して、空気浄化装置により解決したという事例を持ち出した。信じられない科学者のミスである。そんなことは素人でも予測できるし、あらかじめ対処できたはずである。地球規模でも、科学者は同じ過ちを繰り返そうとしている。
  9.空気を10000個の分子だとすると、その中には二酸化炭素の分子は4個だと説明される。これは分かりやすい比喩である。混合にはほとんどエネルギーは必要ではない(拡散現象)が、分離には膨大なエネルギーが必要となる(エントロピーの法則)
  10.ここで空気から二酸化炭素だけを除く装置を開発した企業が紹介される。「直接空気回収」という手法だ。二酸化炭素の3/4が回収可能だという。だが10年掛けて年間排出量の1%しか処理できないという。吸着剤は加熱して再利用するというが、劣化の問題もあるだろう。回収二酸化炭素は地中の玄武岩などに吸収させて永久固定させるという。これに必要な岩石は有り余るほどあるという。アイスランドの地熱発電所で出る二酸化炭素の1/3を玄武岩処理しているという事例を持ち出すが、もともと地熱発電所から出る二酸化炭素はわずかであるはずで、視聴者を誤魔化している。番組でも理由は述べていないが、解決策とはならない、と説明する。規模の拡大が難しいからであるというが、それよりも二酸化炭素回収に掛かるコストとエネルギーの問題がある。
  11.航空機やロケットの排ガスは物理的に処理できないと科学者は指摘する。その通りである。だがこれはストーリーの誘導であり、二酸化炭素を排出しない燃料の必要がここで説明される。太陽光をパラボラアンテナのような集光装置で5000倍に凝縮し、やはり濃縮された二酸化炭素をメタノールに変換するという。開発者は「革命的解決策」と自信ありげに自慢するが、全く非実用的である。現状ではこれで生み出されたメタノール価格は6倍も高い。
  12.セメント工場から出る二酸化炭素を減らす技術のコンテストが行われ、有望な方法が実証試験に移された。石炭を燃やした際に出るフライアッシュで二酸化炭素を吸収させる技術が紹介された。触媒を使うというが、そのコストはどうなのかは説明はない。ナノ化させてセメントに混ぜ、強度を増すというが、コストの問題はどうなのか、装置が大型化するが、世界中にそのような装置を設置するのに要するエネルギーが果たして得られるのか、という疑問だらけの技術である。セメント使用量を10%減らして、セメント製造の際に出る二酸化炭素を10%減らせるという。目標は20~25%削減だというが、コスト的に合わない可能性が高い
  13.気候工学者はどんな技術も現状の二酸化炭素排出量には太刀打ちできない、と悲観的意見を述べる。排出量そのものを減らすことを忘れてはいけない、と正論を述べる。だがこれもまた誘導論であり、いよいよ本題の「地球冷却化」に話を持っていこうとする。「太陽ジオエンジニアリング」という技術がここで紹介される。照射太陽光を遮ることで地球を冷却するという。
  14.雲を白色化することで太陽光の反射率を上げようという試みがあるという。物理学者のアーマンド・ノイカーマンズは3Dプリンターのコンセプトを生み出した技術者でもあるが、彼は髪の毛の1000分の1という大きさの海水を大気中に噴射させて雲の核にするというアイデアを、アメリカのパロアルト研究所で研究している。オーストラリアのグレートバリアリーフで実証実験も行っているという。海水をミクロ化した粒子にして全世界の空に吹き上げるという構想自体が荒唐無稽であり、生態系に及ぼす影響は壊滅的なものになるであろう。塩害により建築物の腐食も早まり、文明も破壊されるだろう。
  15.成層圏に反射物質を送り込んで太陽光を遮ろうというアイデアもあるそうだ。火山の巨大爆発で生じるエアロゾルが太陽光を反射して気温を下げる現象は以前から知られているが、同様なことは核戦争による核の冬理論でも言われている。だがそれだけのエネルギーをどこから生じさせるのかについては全く説明がない。ハーバード大学がこのアイデアを真面目に研究しているようだ。反射物質として気球で成層圏に炭酸カルシウムの微粒子を撒くという方法が実験的に考えられている。大規模に行うには航空機が使われるが、それが出す二酸化炭素をどうするのかについては説明がない。事実多くの科学者がリスクを指摘しているという。
  16.最後にやっとまともな手法が紹介される樹木による二酸化炭素の吸収である。樹木の重量の半分が炭素だという。レーザー観測装置を用いて森全体をスキャンし、立体的に炭素量を計算することができる。この研究から植林による二酸化炭素吸収という原初的なアイデアを試みている学者もいる。地球上には3兆本の樹木があるという。銀河の星の数よりも多いのである。気候変動生物学者のコンスタンティン・ゾナーは地上に植林できる面積を調査している。1000万平方キロの森の候補地が存在するらしい。ほぼアメリカ合衆国の国土面積に匹敵する。1兆2000億本の樹木を増やせる計算になる。これにより200億ギガトンの二酸化炭素を蓄えることができるという。ジェダイという名のレーザースキャナーを用いて宇宙空間から地上の3次元データを得ようとしている。
  17.30年後に食糧需要は倍増すると言われており、そのため世界で農業と牧畜のための土地利用が拡大しており、これは森林を増やすどころか減らす方に向かっている。16.のアイデアは最良だが、これまた現実的ではない。もう1つ、番組では説明が無かったが、植物に吸収されたあと、植物が燃やされたり腐敗したりすると、二酸化炭素はまた大気に戻ってしまうということがある。ノムは『地球温暖化対策に関する提言』という論文で、この解決のために炭素永久固定というアイデアを1998年に提供した。恐らくこの方法しか有効な手立てはないであろう。だが番組ではこのアイデアは紹介されなかった。一流の学者によって検証されていないからである。
  18.植物のバイオマスを堆肥として植林地に撒くことで、成長を速めることができる。これもアイデアとして紹介されたが、たった3年間の研究のようだ。そもそもこのアイデアもノムと共同研究者が、汚水処理で出る活性汚泥を用いて植林を促成栽培する方法を論文で提唱している。同じアイデアでより有効であると考えている。

  紹介された技術や研究のうち、最後の植林を除いてどれもが科学的原理に反したものであるという指摘をしておきたい。まず二酸化炭素を集めて地中に埋めるという方法であるが、エントロピーという概念がまるで理解されていない。分散に要するエネルギーはわずかで済むが、収集に要するエネルギーは莫大であり、どのような方法を用いても二酸化炭素を集めて処理するためのエネルギーは二酸化炭素を排出する際に出るエネルギーよりも大きくなってしまうのである。それはコストという形で我々に跳ね返ってくる。また技術で処理できる二酸化炭素の量は排出量に比べれば微々たるものである。この2つの理由から、番組が紹介した方法はどれも荒唐無稽な絵に描いた餅であった。

  番組内容は非常に滑稽で危険なアイデアに満ちていた。どれも創発企業が考えた、ビジネスにしようと資金を集めるためのプロパガンダであると思った。研究開発者も自分の業績のためにアイデアをアピールしているに過ぎない。まともな科学者とは思えず自己利益のために働いている。最後の植林というまともなアイデアは陳腐で古臭いものであるが最も合理的でノムも賛成だが、農業・牧畜業との兼ね合いがあって現実的ではない。すなわち、ノムが主張するように人間世界はこれらのどの方策も現実に実行不可能であり、また実行したとしても既に遅すぎるのである。人間界はこのままストレスを増加させていき、それに耐えられなくなった時に戦争へと突き進むだろう。それは世界に競争(技術開発競争・覇権競争)があるからである。だがその後に訪れる統一された未来世界では、生き残った人類に希望はあるだろう。その時のために、これらの研究が役に立つ可能性は否定しない。だが最大の課題は人口を如何にして減らすか、人間活動を如何にして最小化するかなのである。そのことをどのメディアも番組も触れておらず、研究者もテーマにしていないようだ。全て人間にとって都合のよいシナリオだけを唱えている。それは決して科学ではなく、人間的希望から出たプロパガンダとしか思えない。


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