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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

中国天罰論

2021-11-12
  科学主義を標榜するノムとしては、「天罰」という昔ながらの言い方は非科学的だとして排除すべきところであるが、庶民の感覚として未だにこの言葉が残っており、しかも不思議に納得できることから、中国の専横と無謀な世界制覇戦略に対してこの言葉を使うことを許していただきたい。中国についてはつい1ヵ月ほど前までは、ノムは「昇龍」という表現でその勢いと繁栄を脅威(驚異ではない)の思いで見ていた。それがいつかは自己矛盾から破綻することは、独裁政権の宿命であることから分かってはいたが、それはまだ少なくとも数年先であろうと考えていた。だがここ数ヵ月で明らかになってきた中国国内の矛盾が、習近平の強圧政策で歯車が狂ったかように、逆回転をし始めたのではないかと思われる(10.1「中国の経済破綻は間近か? 」)。すなわち中国という国家の唯一の誇れることであった経済が変調を示し始め、それを促進したのが習近平の強圧政策であることが明白になってきたからである。本項ではそのことについて検証してみたい。

  中国の経済の実態や衰退を書いた出版物は2019年9月頃まで遡ることができる。石平・黄文雄らが精力的に中国の内情を告発している。ノムは2014年から中国は衰退期に入ったと観たが、あいにくその予想は外れたようで、少なくとも2019年に中国発のコロナ禍が発生するまでは昇龍の勢いは止まらなかったようである。だがここに来て習近平はもろもろの事情から、いきなり国内に規制をし始めた。一つは愛国運動としての目的もあったが、どうも国家財政が破綻しかけていることをひた隠しにしながら、それを補うための「共同富裕」思想の拡大解釈による大企業への寄付の暗黙の強制、そしてその財産の没収を目論んでいるようである。それらの原因は全て弱小国家を食いものにするための「一帯一路」にあった。当初はその目論見は成功し、世界の多くの国がそのプロジェクトに参集し、大きな期待を集めた。だが数年も経たないうちにその約束が空約束であったことが明白になり、貸付を受けた国が破綻寸前に追い込まれ、さらにプロジェクトの多くが凍結されたり遅延した。簡単に言えば、中国が一国で出来ることを超えた大風呂敷を広げすぎ、中国の金庫が空になりそうになったからであろう。先進国への恫喝を始めた戦狼外交により、多くの対価を払うことにもなった。その一つがオーストラリアからの石炭の輸入停止である。

  9月の炭鉱水害による国内石炭生産の減少は、この輸入停止にもろに影響し、国内石炭価格の上昇はついに地方政府の発電を停止させるまでになった。なぜかというと、恒大グループの破綻からも分かる通り、地方政府が抱える借財が焦げ付き状態となっており、発電燃料である石炭を買えなくなったからである。普通ならば借金をしてでも国民の生活と産業を守るために海外から高価格の石炭を買うのが地方政府の義務であろうが、すでに地方政府自体が破綻状態になっており、さらに買おうにも石炭そのものが禁輸措置によって無いという状態になっているようだ(最近暗黙の中共政権の了解の下に、密かにオーストラリアから石炭を輸入しているとの報道もある)。さらに世界的な原油不足によるエネルギー価格高騰が追い打ちを掛けている(11.10「中国危機が韓国に波及 」)。こうした諸々の経済的状況の悪化を、習近平は国内締め付けという手法で乗り切ろうとしているようだ。それは経済破綻した北朝鮮のキム・ジョンウンがやっている国内文化の規制と非常によく似ており、どちらも国家の求める理想的姿から外れた外国の文化の侵入を拒むものであり、情報隠蔽・言論弾圧だけでなく、文化や芸能などにも規制が及んだ。

  中国は長年に亘って不動産ディベロッパーと地方政府がグルになって、国有である土地の使用権を理由に住民を追い出して、市街再開発やマンション建設などに明け暮れてきた。その結果が恒大などの巨大不動産企業を生むことになった(9.22「中国経済に異変・恒大グループ危機から始まるか? 」)。だがその恒大も実は借金だらけだったのである。中国も同様に、世界に対して一帯一路という景気のいい話を持ち掛けて詐欺同様のことをした結果、その資金繰りができなくなって、ついに約束したプロジェクトを遅滞させる結果になった。さらに大儲けしている民間大企業に寄付を強要するまでになった。国家が民間に乞食同然に寄付を仰ぐようになったことを意味する。これは重大な中国国家衰退の兆候であり、本来ならば「共同富裕」は中国政府が自らの国庫で推進させなければならないところを、民間の大企業や富裕層からカネを絞ってそれに当てさせようとしている(9.21「習近平はその思想に「共同富裕」を追加したか? 」)。情けない限りの手法であるが、習近平は頭の良い指導者であるから、思想を以て民を制するという最後の手段に出た(9.14「中国の原点回帰を占う 」)

  こうした中国の状況を見るにつけ、これまでの「中国バブル」を中国の持つ勢いだとしていた海外メディアや諸外国は、「なんだ、中国も結局これまでのバブルの歴史を辿っているだけなんじゃないか」という観を持つようになったと思われる。だがメディア報道に於いても諸外国の評価に於いても、中国がバブルの崩壊に直面しているという見方はこれまでほとんど出てこなかった。先富論を説いた鄧小平の思った通りの展開を見せてきた中国経済であるが、それが貧富の差を生み出すことは鄧小平も承知していた。そのため彼はその論に続いて、「先に富んだ者は、遅れてきた者を豊かにする義務がある」と説いている。この後段をメディアはこれまで報道してこなかったが、筆者も11月8日のNHKの「時論公論」で初めて知った。解説者の神子田章博(みこだあきひろ)は、「先に富んだ者が、その富を自分のために使った」と解説したが、それは企業だけでなく国家や地方政府も同じであった

  習近平がその壮大な中国の歴史を作るという作業の中で、自ら編み出した諸策のツケが回ってきたことに気付き、その修正のために国庫を使おうと思ったときには、諸外国に対する膨大な援助や軍事費の負担によって、余裕が無くなったという事態に直面した。彼はそれを思想(愛国思想・社会主義思想)によってカバーしようとしている(9.14「中国の原点回帰を占う 」)。またその負担を大企業と国民に押し付けようとしている。このまま経済の歯車の狂いが進行したならば、それは確実に企業の連鎖倒産とむやみに投資してきた富裕層の自殺、そして国民の生活の疲弊に繋がるだろう。そうなった時には確実に体制不安が生じ、習近平にその責任を問う声が集中するだろう。天安門事件と似たような構図(状況が異なっており、当時は経済上昇過程であったが、現在は下降過程で起こる暴動となる)の暴動が各地で発生し、「歴史決議」(11.11)で祭り上げられた習近平は、中国の歴史において、国を潰した最悪の指導者と位置付けられるようになるかもしれない。

  こうした状況を招いたのは一重に習近平が傲慢になったからであり、苦労人で人の話をよく聞く指導者として理想的に見えた習も、その最盛期の栄華に酔いしれて自信を持ちすぎ、戦狼外交を押し進めて諸外国から孤立した。そして莫大な投資を行ってきた独裁国や最貧国などからもそっぽを向かれることになるだろう。そうした先にあるのは、不満を外に向けるという歴史的常套手段である戦争しかない。習は既にその準備を始めており、国民にその準備を始めるように手配している。その結果がどうなるかはノムにも見通せないが、中国が初戦で勝利したかに見える戦果を挙げた次の瞬間に、中国はその国家体制が無くなっているかもしれない。核戦争というものはそうした皆殺し戦争だからである。特別な地下壕を用意していない限り、世界の指導者は軒並みこの世から居なくなる事態も予想される。そうなった時に人は、中国が傲慢に振る舞った結果がこのような大惨事をもたらした、と回想することになるだろう。そこまで行ったら誰しもが、「中国は天罰を受けたが、世界も天罰を受けたのだ」と悟ることになる。


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