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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

中国の経済破綻は間近か?

2021-10-01
  このところ中国経済に怪しい影が見え始めている(4.16「中国情勢 」・9.22「【時事短評】中国経済に異変・恒大グループ危機から始まるか? 」)。威勢のいい投資家が一夜にして投資に失敗し、猛り狂っているかのような姿も晒している。こうした時は人も国家も同様であり、失敗を人のせいにしたり、他国を攻撃したりする。中国が戦狼外交を始めたのは、世界を強引に意のままに威圧しようとしたのと同時に、投資の失敗の裏返しであったのかもしれない(8.1「聖徳太子に見る日本の矜持と現代日本と中国の外交の失敗 」)。「戦狼外交」という言葉が外交方針への表現として広まったのはCOVID-19の大流行時であるが、戦狼型の外交官が登場したのはその数年前のことである。中国の組織についてはよく知らないが、国際記者の記者会見に登場するのは外交部の報道官であり、その外務省報道局のトップは華春瑩報道局長(女性)である。有名な趙立堅は副報道局長であり、攻撃的な場合は趙立堅が、やんわり言い訳する場合は華春榮が登場することが多い。趙立堅は2020年2月24日に第31代報道官に就任しており、戦狼外交はこの辺りから始まっていると見られる。

  中国の経済に異変が生じ始めたのは随分前からであり、「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンが2016年頃から報道されるようになってからであろう。筆者は2014年から中国は停滞期に入ったと考えていたが、それが形になって表れたのが鬼城である(7.6「中国の発展をどう見るか? 」)。地方都市政府が住民を追い立てて市街地整備を始めたのはずいぶん前からであるが、その頃はまだ中国は景気が良かった。だが地方政府は民間に巨大なマンション群などを作らせて、無理矢理巨大都市にしようとした。だが産業が停滞し始めているのに工場や住宅を作っても仕事は減る一方であり、若者は地方を見捨ててさらに大都会へと向かった。そのため地方には鬼城が出現したのである。大都会は上海の繁栄に見るように、農民工を酷使して繁栄を続けた。だがそれも賃金の高騰から挫折しようとしており、中国政府はさらに農民工より安い賃金で世界の工場を維持しようとして、新疆ウイグル自治区に目を付けた。ここの住民に職業訓練を施して搾取しようとしたのである。100円ショップで売られている商品の大部分はこうした低賃金に支えられていると考えても良いだろう。

  中国政府の戦狼外交は共産党が力の論理で始めた虚勢であるが、それは世界に共産党が予想しなかった反発を惹き起こした。いわゆる人権(人道)問題である。また習近平が始めた一帯一路構想は、その野放図な投資の押し付けから世界各国の政府が腐敗し始め、汚職がはびこることになり、支援を受けた各国の借金の増大は国民の反発をも招いた。そうした中に、中国国内でも「中国衰退論」が出てくるようになったのである。それがどこから出てきたのかについては知らないが、今年の8月30日に当局がこれを禁止するに至って露見することになる。さらにこれに追い打ちを掛けるように、不動産など多角経営をして急成長してきた恒大グループの不良債権問題が飛び出してきた。これは34兆円もの負債を抱えているとされ、倒産させるか救済するかで中共政権を悩ましている。本来なら倒産させるべきなのだが、習近平が「共同富裕」思想を振り撒いている最中の出来事なので、安易に救済すると国民に動揺があると考えているようだ。

  9月に入ると一連の「新文化大革命」が始まる(9.14「中国の原点回帰を占う 」)。実際には昨年辺りから始まっており、中国当局は2020年秋ごろから、アリババや騰訊控股(テンセント)などの巨大IT私企業に対する厳しい統制を始めた。2020年11月にアリババ傘下のアントグループが計画した株式公開を延期させた。2021年7月には、配車サービス大手の滴滴出行(ディディ)を国家安全保障上の審査対象にするなどの統制を強化した。中国当局は7月24日、「塾禁止令」を出し、学習塾や1000万人いる塾講師を事実上禁止とし、学習産業は壊滅的打撃を受けた。また、8月27日に、インターネット規制を主管する「国家インターネット情報局(CAC)」が出した通達によると、ネット上で「中国経済衰退論を唱えたり、海外の中国経済論評を無批判に流布する行為」が取締りの対象となった。9月1日からは上海で小学生の英語の試験が禁じられる一方で、無粋な「習近平思想」が学校教育の必修科目となった。9月1日には大連市の「日本風情街」が営業を停止し、2日にはアイドル育成番組が禁止された。6日には親日女優が番組から排除された。7日には名所となっていた湖北省荊州市にある三国志の英雄・関羽の巨大像(高さ57メートル)が解体され始め、移転費用は51億円に達すると言い、市の財政を圧迫している。どれもこれも中央政府の指示によるものらしい。8日には美容関連業界にも規制が及び、規制強化の対象となった。中国のハイテク企業の多くが上場する香港株式市場は7月以降、時価総額が6000億ドル余り吹き飛んだという。さらに、9月21日にはTik-Tok利用に14歳未満という年齢による使用制限を始めた。これらの諸策の中で、教育産業の先駆であった学習塾への規制だけは、教育費の低減ということで国民から支持されているようだ。

  そもそも中国国家の財政がどうも怪しいらしい。165ヵ国にも及ぶ一帯一路絡みの支援は18年間で総額8430億ドルに及ぶそうで、国家の総力を挙げた一大プロジェクトであったが、あまりに大風呂敷を広げ過ぎたツケが今国庫財政の危機をもたらしているらしい(5.4「中国の「一帯一路」は終焉か?」)。そこで習近平が取った政策が「共同富裕」を名目にした企業からの献上金(寄付金)である(9.21「習近平はその思想に「共同富裕」を追加したか? 」)。習近平以前の時代に急成長した成金企業は、いつ政府から規制されるかと戦々恐々になっており、自発的に巨額の寄付をするようになった。これは国庫に入るものの、三次分配(企業の寄付による国民への分配)になるとは保証もなく、国庫財政の穴埋めに使われる可能性が高い。さらに地方財政を脅かす新たな事態も発生している。土壌汚染である。好き放題に産業を興して土壌を汚染してきたツケが回ってきており、9月23日の報道では回復に88兆円が必要だとのことである。9月26日には退役軍人がまともな待遇を得ていないとしてデモが発生(毎年あるそうだ)したと言うニュースも飛び込んできた。中国に5000万人超存在する退役軍人が置かれている劣悪な生活環境が問題視されているという。これも国庫が財源不足になっている傍証であろう。

  9月28日には中国全土での停電による経済への影響が報道された。オーストラリアに対する報復制裁で石炭の輸入をストップしたツケが回ってきて、石炭価格が高騰するとともに絶対必要量が足らなくなったのである。石炭火力に76%も依存している中国は、全国で時限配電せざるを得なくなり、世界各国から集まっている企業や工場も一時操業停止せざるを得なくなっているという。これは中国の生産力を減少させ、また諸外国からの信用も失墜するだろう。中国に工場を置く外国企業は急ぎ脱中国対策を練らなければならなくなっているようだ。

  こうした状況が続いてきた中、アメリカの調査会社、ウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ研究所は9月29日、中国の広域経済圏構想「一帯一路」について、失速するリスクがあるとの報告書をまとめた。参加国の間で反発が起きていることや、債務が拡大していることが理由という。支援を受けている国々では、高額予算・汚職・債務の持続可能性に対する懸念を理由に、大規模な一帯一路プロジェクトを棚上げする低・中所得国が増えている。マレーシアでは2013-2021年に総額115億8000万ドルのプロジェクトが中止された。カザフスタンでも15億ドル、ボリビアでも10億ドル以上のプロジェクトが中止になった。中国が1年間に約束する国際開発金融は、現在、米国の2倍に達しているという。

  これではいくらカネがあっても足りる訳が無いと思うのが当然であろうし、最近の中国の苦境の表面化はそれを如実に証明していると言えるだろう。そしてオーストラリアに対する石炭などの資源輸入ストップという強引な制裁措置が、中国の命取りになるかもしれない。これによって現在起こっている火力発電所の操業停止状態が、「世界の工場」としての条件を損ねることになり、TPP参加申請という苦し紛れの対応も、日本・オーストラリアの反対で当然不可能であり、台湾の参加申請が認められるようなことになれば、「一つの中国」原則が打ち破られたことにもなり、中国は経済的にも政治的にも世界から孤立していくことになる。恒大の負債問題がいきなり世界ニュースになったことからも分かるように、中国の負債問題がいきなり世界のニュースになるのも、そう遠い話ではなさそうである。それは多分、上海の株価の動きを見ていれば明らかになるであろう。


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