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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2023】

【時事短評】日本の推進する国際秩序

2023-03-29
  日本は太平洋戦争での敗北(1945)、それに続く米国による占領政策などがあって、長いこと自虐史観が日本人を支配してきた(22.4.4「朝日新聞の自虐史観・亡国言論」)。戦後に高度成長し、1968年に世界第二の経済力を誇るようになっても、日本人には自信というものは生まれなかった。現実にただ驚いていたというのが正直なところであろう。もはや日本人には「戦争」というものは忌まわしい過去の記憶になり、世の中は太平であり、そのまま永続するとすら勘違いした。だが人間界というものはそう甘いものではないことを、プーチン戦争が教えてくれた。

  日本の戦後政治は長いこと、中国の鄧小平が進めた韜光養晦(とうこうようかい:爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術)の戦略と同様、爪は持たずに自慢も控えた。ひたすら敗戦の恥辱を晴らすかのように、経済や国際貢献に全力を注いだ。世界各国、特に戦時中に戦地となったアジア諸国、特に中国に対する一種の謝罪を込めた経済支援はODA(政府開発援助)という形で長く続けられた。とっくに日本を超えて世界第二の経済大国になった中国に対して、このODAが2022年3月まで続けられたことがそれを証左している。だが時に、こうしたある意味での謝罪外交・謝罪支援が、世界から批判をされることもあった。1989年の中国における天安門事件勃発の際には、世界が中国に対して経済制裁を加えたが、日本はそれを破ってODAを再開したため、欧米はそれを批判した。そしてその批判は当然であったとも云えるだろう。現在で言えば、ロシアに対する欧米の経済制裁を日本が破ることに相当するからである。また1990年に湾岸戦争が勃発した際、日本は「カネは出すが人を出さない」と批判された。そもそも外国での戦争に日本は軍(自衛隊)を出さないのは憲法の縛りがあるからであり、その憲法を押し付けたのは米国である。これは批判されるいわれはないことであった。

  日本の内向きの外交・そして謝罪的意味合いの強い海外支援の姿勢が転換を見せたのは、安倍晋三の時代になってからである。憲政史上最長の2822日という長期政権は第一次内閣・第二次内閣に分かれるが、途中断絶したのは病気が理由の辞任によるためであって、それがなければもっと長かった可能性もあるだろう。だがおかしなことに、これほど国民から信頼された安倍を、日本の左翼メディアであるNHK・朝日新聞などは絶えず批判的で、特に朝日新聞は「安倍下ろし」を社是として政権攻撃を続けた(20.5.12「NHKのニュース報道に違和感」・22.9.28「権力化するメディア」)安倍の偉大な功績に対する正当な評価が国内においては抑え気味であったのは、メディアが反安倍姿勢であったからである(20.8.29「安倍首相の功績」・22.7.17「安倍前首相の国葬は是か非か?」)

  一方、米国のオバマ大統領は、中国に習近平が登場して専横的態度を取るようになった2000年以降、ついに2015年10月に「航行の自由作戦」を開始した。中国の南シナ海などにおける一方的覇権主張に対抗するため、艦船を派遣して自由航行を主張したのである。これは軍事的対抗策であったが、安倍はこれを思想面、理念面で補強しようと考えたようだ。2016年8月に打ち出した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という理念は、米国にとっても非常に都合が良かったため、2017年1月に大統領に就任した当時のトランプ大統領もこの理念を採用した。こうして日本の外交が戦後初めて世界をリードする役割を果たすことになった。

  安倍の提唱したこの理念は、①法の支配・航行の自由・自由貿易・②経済的繁栄の追求(東南アジア・西南アジア・中東・東南部アフリカの連結、EPA/FTAや投資協定を含む経済連携)・③平和と安定の確保(海上法執行能力の構築、人道支援・災害救援等)から成るが、その全てにノムは賛同するものでもない。基本的に未来世界では経済的繁栄を否定するからである。だが現在の世界の現状からすると、安倍の提唱は普遍的価値があると評価される。日本の戦前・戦中における欧米列強による植民地支配の否定と大東亜共栄圏の提唱と似たところがあるが、日本が再び世界外交に登場したという意味では同じであろう。

  実はこれ以前にも、日本が世界を主導しようとした、あるいは主導しているいくつかの事例がある。その1つは核融合実験の分野であり、1985年にジュネーブでの米ソ首脳会談をきかっけとして開始された計画ではあるが、その後1991年にソ連が崩壊したため、主導したのは日本とEUに取って代わった。米国が主導権を握らなかったのは、巨額の開発費が予想されたこと、米国はエネルギー輸出国であることが理由となっている。結局、国際熱核融合実験炉(ITER)計画は日本とフランスが建設地候補の名乗りを上げ、2005年にフランスに決定し、出資比率でもEU・日本の順になった。最初5ヵ国からスタートし、現在は7ヵ国に増えている。中国・ロシアが加わっていることは懸念材料になっている。

  環太平洋パートナーシップ(TPP)協定は元々米国が、中国を排除するために考え出したものであるが、2015年10月に12ヵ国が合意、2016年2月にニュージーランドで署名式が行われた。日本は2017年1月に締結したが、同時期にトランプ大統領が離脱を表明。米国が抜けたために、日本が事実上主導することになった。2018年12月30日に発効している。

  残念ながら、国連は戦勝国により作られたものであるため、日本は常任理事国ではない。また日本は引っ込み思案なところがあり、国連におけるロビー活動に消極的なため、各種委員会で必ずしも主導的な役割を果たしているとは言い難い。だが日本の申し出や各国からの国連改革の機運もあり、日本が常任理事国に加わる日もそう遠い話ではないだろう。だがそれ以前に国連が崩壊する方が早いかもしれない。国連の常任理事国による拒否権が、世界の紛争解決の妨げになっているからである。日本が先導して国連改革を主導すれば、世界が望むような国連に生まれ変わらせることも可能であろう。

  現在の日本の首相、岸田文雄が目指すのは多極化しているとされる「極」の秩序ではなく、多国間主義であると云われる。前述した安倍元首相の提唱したFOIPの理念を引き継ぎ、その中核に「イコールパートナーシップ」(対等な関係)を据えている。多様な国家が大小に関係なく、法(国際法)の支配の下で主権国家としての平等な権利を有し、共存共栄する弱者に配慮した秩序だという。ノムはこうした非現実的な試みが成功するとは思わないが、もし世界がそうしたものを求めるようになれば、可能性が全く無いとは云えないかもしれない。いずれにしても西側陣営に属しながらも不偏不党の立場を貫こうとしている日本の姿勢は、世界から期待されていることは確かである(21.7.15「西欧は「人権外交」を止め、「人道外交」に切り替えよ」)


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