本文へ移動
【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2022】

【時事短評】中国の失敗は体制崩壊に繋がるか?

2022-12-23
  中国は習近平時代に大きな飛躍をしたが、現在の状況からすると、大きな失敗もしてきたと言えるだろう。最大の貢献は、大きなビジョンを示したことにある。それは「習思想」として「毛沢東思想」・「鄧小平思想」に並んで国是とされた。就任時に「中国の夢」を語り、「中華民族の偉大な復興」を掲げたが、これは朝貢外交を行って中華思想に浸っていた時代に戻ろうとする時代錯誤なものであった。だが中国国民は、中国の実力に相応しい国際的な評価を求めていたため、このスローガンを絶賛した。

  清朝は第6代皇帝の乾隆帝(在位:1735-1796)時代、歴代の中国王朝最大の版図を獲得した。今はロシア領となっている沿海州・アムール州、ミャンマー・ベトナム・ネパールを朝貢国とし、台湾を領土としていた。だがアヘン戦争(1840-1842)でイギリスに屈服して以来列強の浸食にあい、アムール州、沿海州はアイグン条約(1858)・北京条約(1860)で、ロシアに割譲された。台湾は、日清戦争の敗北により日本領となり、第2次大戦後は国民党に奪われた。「中国の夢」はこうした失われた領土奪還の夢でもあり、それは誇大妄想に憑りつかれた習近平による「個人の夢」でもあった。そういう点ではプーチンのノボロシア妄想と同じである(8.4「プーチンのノボロシア妄想」)。だが習の「中国の夢」はもはや「世界の悪夢」になっている

  習近平(2012年から総書記)は胡錦濤から引き継いだ「千人計画」(2008)・「国防動員法」(2010)に加えて、「ウイグル強制収容所」(2014)・「中国国安法」(2015)・「一帯一路」(2017)・「海警法改正による軍との一体化」(2018)など、一連の法的措置により、法治による統制を試みており、それは国家が発展している限り非常に有効であった。2020年から始まった「法治中国建設計画」がその総仕上げを目指している。だがそれは世界基準による法治とはかけ離れたものであり、民主的弁護士を拘束し、国民の声を封殺するものであった。それが中国の勢いが止まった2022年のコロナ禍による成長鈍化により、これまで抑えられていた国民が立ち上がったことで、崩壊の予兆を示し始めた。

  新疆ウイグル自治区のウルムチの出来事を切っ掛けに、その崩壊の野火は瞬く間に中国国内だけでなく、海外にもネットを通じて拡大した。いくらネットへの投稿を削除しても間に合わなくなったのである。そしてこれは習のコロナ禍対策の目玉であったゼロコロナ政策への批判・不満と相乗し、ついに中国国内の不満は習近平体制否定の声さえ生み出した習はウイルスという自然界の仲間に対して、壮大な撲滅運動を繰り広げたが、その実験は失敗に終わりそうである。国内の政治状況が怪しくなってきたため、習は目玉政策であったゼロコロナ政策を転換し、緩和政策に踏み切った(20.4.8「中国が武漢開放・壮大な実験が始まった」)。これまで中共政権が誇ってきた「無謬性」が崩れたことで、国民の間に一気に不安が増大し、医療崩壊が起こった。通常ならば規制が緩和されるということは国民からすれば歓迎すべきことであるが、コロナによる死者が巷で爆発的に増えたことで中共政権が医療状況データ(統計)を捏造していたことがはっきりし、国民は逆に不安を増大させたのである。この項をアップしたあと、ニュースで諸外国の調査機関が中国の大規模感染を科学的に推計したというものがあった。英国の健康情報分析会社の推計では、毎日5000人以上が新型コロナにより死亡している可能性があるとのデータモデルを発表している。どう考えても中国政府発表の「死者ゼロ」はいかさまであることは誰の目にとってもあきらかであろう(《感染症》12.22「諸外国の調査機関が中国の大規模感染を推計」)

  これまでの習近平政権が取ってきた強権化による国内の異見摘発やネット支配、そして監視社会の強化は、習に成功体験をもたらした(21.10.15「成功体験と信念」・9.30「世界はプーチンの思う通りに成功体験をさせてしまった」)。そのことで習は自信をつけ、諸外国に対しても強硬な独自論法をためらわなくなり、いわゆる「戦狼外交」を展開してきた。これは諸外国に不快な感情をもたらしたとともに、脅威感を与えてしまった習の最大の失敗は戦狼外交にあったと言えるであろう。最近になって報道官が超立憲から女性の毛寧に切り替えられたが、戦狼的報道の回数は減ったが、習近平の強きの発言はいささかも変わっていない。こうして中国は世界で孤立し、一帯一路などで経済的結び付きの強い弱小国を除いて、世界は中国をはっきり異端視し始めた

  国内と国外から批判を浴びている習近平が取る手段は限られている。それは国内的には国外に目を向けさせるための台湾攻略プロパガンダの強化であり、国外的にはロシアや北朝鮮、イランなどのならず者国家同士の連携であろう。国内的にはネット規制の強化で反体制派の異見を封じようとしているが、暴動が起きた場合の鎮圧に不安があるとされる。デモの鎮圧に当たる人民武装警察部隊(武警)の総数が約66万人とされるが、それは総人口比でみると決して多くはないからである。国外的には同類ならず者国家との連携に走ろうとしている。既にロシアとはその協力関係を強化しつつあり、北朝鮮とさえ貿易再開を通じて連携を回復しつつある。イランとはまだ外向的には関係がはっきりしないが、既に経済ではウィンウィンの関係にある。米国からはコロナ支援を提示されたが、はっきり断っており、世界との協調路線への転換は見られない。習は面子に拘っており、中国ワクチンの有効性に疑問を持たせるような援助は受けたくないのである。

  ゼロコロナ政策による経済の打撃も凄まじく、GDPで見る成長率では、コロナ発生時の翌年の2020年の2.24%に迫る勢いで昨年の8.08%が、現時点での予測では3.21%に迫っている。約20%の若者の失業率がそれを端的に示しており、反乱の可能性がある危険領域に入っている。とは言ってもOECD諸国でも日本を除いて若年失業率はのきなみ20%に達しており、中国だけが突出しているわけではないという。だが中国統計は信頼できないという点が最も重要であり、それが今回コロナ禍で明らかになった。死者が続出しているとう報道に対して、中国政府は死者ゼロと発表しているからである。傍目に見ても中国経済が復活したという情報はほとんど皆無であり、中国政府の発表している3.21%も怪しい数字である。

  経済が落ち込めば、これまで人民を抑圧してきた監視や情報統制、そして統計の欺瞞への不満が一気に噴き出ることは間違いなく、それは事実、中共政権を批判するというこれまでになかった抗議活動に表れている。正に習にとっては正念場を迎えたと言えるだろう。

  以上に述べたように、中国は、①大風呂敷を広げたような「中国の夢」を唱えた失敗・②法治国家と言う名の欺瞞が露わになった失敗・③ゼロコロナ政策の失敗で露わになった中共政権の無謬性の崩壊という失敗・④戦狼外交による孤立化という失敗・⑤経済低迷による国民の不満の顕在化による失敗、等々を重ねてきた。政権内では習は近辺を習派で固めて絶対的な存在になったと思われていたが、その直後の急転直下の不安定さの到来が何を意味しているのかは、これからの推移で明らかになるであろう。ノムには習近平体制が崩壊に向かっていく第一歩であるように見える


TOPへ戻る