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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2022】

防衛の考え方

2022-01-13
  防衛には攻撃的防衛と守備的防衛の2つの考え方がある(20.7.20「防衛的攻撃力 」)。前者は「攻撃に勝る防御無し」という昔からの考え方に基づくもので、孫子の兵法にもその考え方があり、現代中国では先制攻撃を当然のごとくに考える(20.5.28「中国の世界制覇戦略に見る「孫子の兵法」 」・20.7.19「中国の兵法書「三十六計」に見る闘争の歴史 」・20.9.22「中国が日本に対する先制攻撃を示唆 」)。それに対してアメリカや日本など民主国家は道義を重視する建前から先制攻撃はできない。だが多くの場合、武力が均衡していれば、守備的防衛手段を取った方が国民の士気が高まることから、総力戦ではどちらが有利になるかは状況次第ということになる。日米太平洋戦争では、日本の真珠湾攻撃の宣戦布告が不手際で遅れたため、米国にとっては不意打ち攻撃と見做され、厭戦気分だった国民を一気に高揚させて日本は敗退した。これは一重に国力(生産力)・軍事力の差が決定的だったこともある。ベトナム戦争では逆に、小国ベトナムに米国は敗れた。ベトナムが共産主義で結束できたのに対して、米国は国内が厭戦気分だったからである。防衛には結束度が重要だということは昔も今も変わらない。日本はそれを戦中の反省からか、コロナ禍でも強制措置は取らず、戦争の懸念に対しても一切国民の団結を訴えていない。

  結束度が低い小国は大国に呑み込まれるソ連が東欧諸国を衛星国として取り込んだし、現在ではロシアが一旦は独立したジョージアを呑み込んでグルジアと国名を変え、ウクライナの領土になっていたクリミア半島を覆面武力で制圧・強奪した。次に狙っているのがウクライナ全体であると言われる。中国は共産中国として建国を宣言してから間もなく、隣接するチベット・モンゴルに侵攻し、ウイグル族を含めて3つの自治国として帝国の一部とした。第二次世界大戦が終わっても帝国化を目指す勢力は少なくとも中国とロシアの2つがある日本は世界でも有数の経済力と軍事力を持つが、その軍事はほとんど使い物にならないように憲法と法律でがんじがらめになっており、中国や韓国・北朝鮮が侵攻した場合は太平洋戦争時と似て初戦はある程度戦えるかもしれないが、国民に結束力が皆無なため、生命尊重主義からすぐに降伏の旗を掲げるだろう。

  ここでは防衛側の体制作りだけを考えたいが、防衛には武器と兵力が必要であり、武器も最先端のものが圧倒的に有利であり、兵力は練度と士気で決まる。そして重要なのが、上記したように国民の結束であり、兵站(食料武器等の配給)が無ければならない。各国はまず最先端兵器を揃えようとするが、それには使いこなす訓練と支援体制が整っていなければならない。身の丈にあった兵器の方が有効である。たとえばイスラムゲリラは戦闘機や爆撃機で戦っているわけではなく、自爆テロという最も安上がりな方法や、ドローン兵器というこれも安上がりな武器を用いて大国と戦っている。日本も使い物にならない高額兵器より、国民のゲリラ戦を考えて津々浦々にまでその体制を作る方が有効である(後述)。

  攻撃の考え方にもいくつかの選択があり、①脅しのために実害の少ない島嶼にミサイルを撃ち込む(台湾の中国による攻略はこれで始まるだろう)・②敵国の要衝(軍事基地・情報基地・原発)を壊滅させる・③敵国の主要都市(首都は通常避ける)を壊滅させる・④全土を壊滅させる・⑤支配国の資産を利用するための統治、の5段階があると思われる。太平洋戦争時のアメリカは①と②を用いて、ほぼ全国的にB29爆撃機による壊滅作戦を取り、この時「無差別爆撃」という言葉が流行った。だが首都である東京に原爆を落とさなかった。それは天皇を利用する戦後統治の計画があったからである。そしてその統治戦略は成功し、今や日本は米国にとって信頼できる同盟国となった。北朝鮮は数百発の日本到達可能なミサイルを保有しているとされ、恐らく韓国向けに100発・日本向けに100発を用意していると思われる。だが北朝鮮には日本を政治的に支配する能力がないため、単にキム・ジョンウンの気休めのために東京にICBMを打ち込む可能性が大きい。これは③の中でも特殊である。一般的な考え方では、敵国が某国家を占領する目的は、①領土割譲狙い・②賠償金狙い・③資産・生産力活用の3つがある。湾岸戦争では敗戦したイラクが、戦後18年経ってやっと賠償金を払い終えた。太平洋戦争に勝利したアメリカは、実質的に①・②・③のどれも求めず、東京裁判だけを強要した(20.8.9~12「ドラマ『東京裁判』に見る政治・司法の欺瞞(第1話)」)。これは戦争史では奇跡的なことである。戦後賠償は国内工業設備と海外資産差し押さえによって行われ、前者の54%は中国に渡って戦後の中国の発展を支えた。

  最近弱小国である北朝鮮が、アメリカを怯えさせるほどの強力な極超音速弾道ミサイル(HGV:Hypersonic Glide Vehicle )を開発したらしい。射程700キロ以上・速度マッハ10と評価されている。中国・ロシア・アメリカもHGV開発済みとされ、中国は実戦配備を進めている。日本のミサイル防衛システム(MD:Missile Defense)は北や中国・ロシアの攻撃力に対して無力化されつつある。こうした最新攻撃兵器に対しては、①有効な防御兵器に同じ技術に基づくHGV能力を与えるか、②防御を諦めて陸上戦に備えるか、③攻撃される前に降伏するかの3者択一になると思われる。台湾では中国との戦力が格段に異なることから、既に陸上戦に備える体制に移行しつつあるが、国民を巻き込んだ総力戦まで想定していないので、あっけなく占領されてしまうであろう。筆者はこれに対して②の選択を考えており、実現は現在のところ不可能だが、ゲリラ戦が最終的に有効な防御となるだろうと考える。それはすでにISやアフガニスタンで証明されつつあり、いくら最新兵器(ドローンなど)でゲリラを叩いても、増々憎悪が膨らんで敵を勢いづけるしかないということが分かってきた。

  現代戦はかつてのような国家同士の総力戦に至ることはほとんど無く、もし偶発戦でお互いに大国がICBMを発射し合うことになったら、世界文明は一旦終焉する。現代はそれが抑止として働いているため、まだ総力戦は起きていない。地域戦を取ったためにアメリカはベトナムに敗れた。もし核兵器を用いて上記③の全土殲滅を図ったならば、世界戦争に拡大したかもしれず、アメリカは局地戦を取らざるを得なかった。日本に対して原爆を使用したのは、戦争に名目上の道義があったからである。アメリカは現在世界に11個の統合軍を配置しており、その総予算は7300億ドル(80兆3000億円:2019年)を超えている。既にアメリカは総力戦を戦う余力を失っているとも言えるのかもしれない。そしてその戦争の形態は市街戦的になっており、実際に全面戦争に入った場合は並行型の非クラウゼヴィッツ戦となる。軍事衛星による探知・MDによる防御的攻撃と併せて行われる敵要衝攻撃(日本で「敵基地攻撃」と呼んでいるもの)・原潜による報復的地上攻撃などが連鎖し、最初の一撃で敵国の首都を消失させることもできるようになった。司令塔を失った国家は白旗を掲げざるを得ない状況になる。

  では最新技術による防衛戦略は無意味になったかというと、筆者はそうは考えない。以前からレーガン大統領が始めた「ミサイル防衛網」構想の中にあった、レーザーによる攻撃ミサイル撃墜という方法と、最近見直されつつある電磁砲(レールガン)による方法を組み合わせて運用するということを提案している。これの良いところは、攻撃兵器ではなく防衛兵器であるというところにあり、日本の憲法の精神にもある程度合致できる。レーザー兵器は瞬間的な目標到達が可能であり、小さな穴を開けるだけでミサイルなどを破壊できる。AIとの連動により、ミサイル軌道を予測して発射できるだろう(21.7.12「戦争の技術革命・AI兵器の登場 」・21.9.22「AI兵器の脅威・中国のドローン偵察攻撃機 」)。だが曇や雨の日には使えないという重大な欠点があり、そのため世界各地に設置する必要がある。筆者の友人はそのために使われるパルスパワー電源の研究をして、京都大学の博士号を得た。軍事研究であるため防衛省からの補助金を得たと思われる(20.10.28「船底の摩擦抵抗を減らすのがなぜ軍事研究なのか?」・20.11.2「日本学術会議は民営化されるべき」)レールガンでは大容量パワー電源が必要であり、この分野は日本の民間企業が世界最高の技術レベルを誇っているという。米国は2022年度の研究を予算が取れなかったために放棄したが、日本の防衛省が2022年予算に65億円を獲得したため、日米協力の下で一気に開発が加速する可能性がある。欠点は一般家庭数千世帯の年間消費量に相当する電力を供給できるかどうかにあり、米国では200キロの射程を持つ地上兵器開発には成功しているものの、艦艇搭載型にはまだ成功していない。目標到達までに時間が掛ることから、変則軌道を描く最新ミサイルに対する有効性は限定的とされるが、電力を無視すればレールガン弾は安上がりで連発が可能とされるため、AIによるミサイル軌道予測手法を用いて連発すれば、効果がかなり期待できると想像する。

  平和憲法を掲げる日本としては、敵基地攻撃能力を高めるよりも、敵国が侵攻してきた場合の国内戦に備える方が賢明だと思われる(20.7.20「防衛的攻撃力 」)。それは実際にベトナムやアフガンで証明された戦法であり、日本は山が多いことや住宅地が連綿と続いて存在することから、ゲリラ戦には適していると思われる。さらに現代技術により、AIとNAVI,そしてドローンを組み合わせた兵器が地方のゲリラ組織にとって有効な武器となるだろう。相手が疲弊するまで粘り抜くことが肝要である。だが国民性からすると、余りにもバカ正直なところがあるところから、尋問されればすぐに機密情報をバラしてしまいかねない。太平洋戦争の日本兵捕虜でも同じようなことがあった。また平和ボケした国民は戦争などまっぴら御免と思うだろう。これがネックになるとすれば、日本でのゲリラ戦は不可能となるであろう。だが自国防衛という本来の正義は守られることになり、仮に占領されたとしてもそのDNAは子孫に受け継がれることになる。未来世界が到来した時にその精神が復活し、日本が世界をリードする精神国家として脚光を浴びることになるかもしれない。筆者としては矜持を守りたいが故に、この国民総ゲリラ戦を日本の防衛の考え方の基本とし、そのための法律整備・兵器整備・国民鍛錬を急ぐべきだと考える。いざ核戦争が起こってからでは間に合わないからである。


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