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【時事評論2021】

憎しみと戦争

2021-12-31
  前項では人間の歴史が種内闘争、すなわち戦争の歴史であったことを述べた。そしてそれは白人支配の世界に挑む中国の世界制覇の挑戦によって、図らずも文明同士の衝突という形になろうとしていることを述べた(12.30「東洋文明と西洋文明の衝突 」)。日本は縄文時代以来の調和的人種であるため、特に太平洋戦争に敗れてからは、平和を希求する民族にまた戻ったが、ある意味では日本の無謀な戦争も、西欧列強の締め付けに対する文明的挑戦であったかもしれない。それはともかく、人間が他者との競争に置かれたとき生存本能の裏返しとして、他の猛獣を敵とするのと同じように同種の人間に対して敵愾心を持つのが常であった。世界から国家競争が無くなれば敵を作る必要もほとんど無くなるだろうと思われる。今回は敵愾心が憎しみを生み出し、それが戦争に直結することを論証したいと思う。

  戦時中の日本の新聞だけでなく、世界のどこでも戦時にはメディアは敵を罵り、自国の正当性を論証しようとやっきになる。国民はそれしか情報源が無くなるため自国の正義を信じるようになり、敵国の悪しき情報だけが喧伝されることで自ずと敵国に対して憎しみの感情を持つようになる。もし国民が歴史の普遍性を理解していれば、そのような状況下でもある程度の冷静さを保ち、メディアの主張は戦時プロパガンダであると理解して、中立的な立場を保とうとするかもしれない。だが周囲はそうした立場をさえ認めず、「お国のため」と称して戦意高揚の列に並ぶことを強いるだろう。そうした雰囲気の中で中立を保つには相当な勇気が必要であり、多くの犠牲(リンチ・投獄・拷問・抹殺)を伴うことが多い。

  現代の民主国家ではそうした異常な状況を作り出さないために、個人の思想の自由・生活の自由を保証しているとはいえ、実際には大なり小なり国民の全てに異常な状況の影響は及ぶ。多くの人は自ら進んで国家のプロパガンダに賛同して隊列に加わり、中には志願して兵士になる者もいる。アメリカでは第二次世界大戦の途中から参戦することになったが、それは第一次世界大戦でヨーロッパの戦争に巻き込まれたという反省とともに、伝統的な孤立主義の外交政策を採ったことで1935年8月に「中立法」が制定されていたからである。だがヨーロッパの戦局がアメリカにも影響するようになり、ルーズベルト大統領は孤立主義を大きく転換して、1941年3月に武器貸与法を成立させて事実上の参戦状況を作り出した。以後のルーズベルトは、フーバーが「彼は戦争をしたがった」と証言しているように、戦争にのめり込んでいく。全面的に戦争に入るためには、国民に対して説得可能な理由が必要となった。一説ではルーズベルトは日本が先に手を出すことを望んでいたと言われる。そして日本はその誘いにまんまとハマり、真珠湾攻撃を敢行する。

  最近NHKはこの真珠湾攻撃を実施した山本五十六に焦点を当て、まるで山本が太平洋戦争を引き起こしたかのような誘導番組を盛んに制作しているが、彼は大日本帝国海軍の一将兵であり、彼は戦争勃発を食い止めようと懸命に努力した。だが軍人であるかぎり機関決定に従わざるを得なかったのは当然であり、彼は最善を尽くしたのである。なぜNHKがわざわざ山本に焦点を当てようとしているのかというと、それは視聴率を上げるための番組制作者の意図があったからと言うしかない。

  日本の真珠湾攻撃は完璧に近い成功を収めたが、宣戦布告に手落ちがあったために、アメリカ国民に非常に強い敵愾心を抱かせ、それは日本への憎しみとなって表れた。「Remember Pearl Harbor !」という合言葉が生まれ、米国民は続々と兵士になるために志願した。ここに至って真珠湾攻撃は失敗だったと言わざるを得なくなる。敵を作り、敵を怒らせたならば戦争に勝利することはできないからである。元々圧倒的に戦力の差があったために、一時的には南方戦線で勝利を重ねたが、アメリカ本土への攻撃はほとんどできなかった。こうなると物量に勝るアメリカに有利な状況となり、圧倒的に有利になった米国は犠牲の大きさに国民からの反発を恐れ、またソ連の参戦という密約のことも念頭にあったため、無理矢理原子爆弾を使って終戦を早めた

  第三次世界大戦がどのような経緯で始まり、どのような結果を招くかまだハッキリとした予想ができるわけではない。だが戦争の本質相手国に敗けを認めさせるまで行われること、核時代には先制攻撃をした方が圧倒的に優位に立てること、などから、敵対国(中国とアメリカ)は相互不信の極みからどちらかが先制攻撃に走るだろう。判断の余裕は10分程度しかないと言われている。これは人間の判断能力の限界を超えており、こうした状況(敵国から多数のミサイルが発射されたという情報)が発生した場合には、一気に世界中のミサイルが連鎖的に発射されることになる。それは憎しみというレベルを超えた、人間の恐怖心から生まれる衝動であり、無意識のうちに各国の指導者は核のボタンを押すことを強いられる。

  こうした最後の世界戦争になるかもしれない状況は間もなくやってくる。だがそれでも人類が核の冬などの気候変動に耐えて生き残ったとするならば、未来には同じ過ちを繰り返さないように世界の設計図を改めて引き直すであろう。それには、①人類の組織が1つに集約されなければならない・②その組織(連邦を仮定)は全権を握らなければならない・③各国は主権を連邦に託して同盟国家群として存続する・④資源は連邦管轄となり、資源は必要に応じて各国に配分される・⑤各国は人的資産のみによって自給自足体制を強いられる・⑥この段階で各国間の経済競争(グローバル経済)は消滅する・⑦資源は枯渇を踏まえて計画的に各国に配分される・⑧通貨は1つになり、為替は無くなり、利子もなくなるため、金融は連邦と国家の占有事項となる。このような条件の中で各国の人々は生き抜くためのサバイバル競争に晒されるが、人格の高い人が優先的に生存権を保証されることになる。そうして長い時間を経て、未来世界の賢人政治が定着していくことになるだろう。その世界にはもう、競争も憎しみも戦争もない


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