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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

自己組織化と自己崩壊化(22.9.27・23.1.3追記)

2021-06-09
  「自己組織化」という言葉については既に前項で説明しているが、その重要性にかんがみて改めて説明する必要があると感じた(6.8「新・進化論 」参照)。なぜならば、この現象は自然界と人間界の両方のあらゆる事象に適応できる基本原則であり、ノム思想においても基本的な原理として扱っているからである(20.9.7「ノム思想(ノアイズム)とは何か? 」参照)。それは宇宙に見られる物質進化や構造進化・恒星の一生・惑星での生命の発生と進化・人間の誕生・人間社会の進歩と進化、等々に適用可能であり、その説明は多くの人を納得させるだろう。その基本は、①熱力学的運動論・②相互作用論(「作用・反作用の法則」とも言う)にある。つまり物質や生物が運動し、相互に作用を及ぼせば、そこに組織化が自律的に生じるという考え方である。この事象の方向性については、1809年にジャン・ラマルクが「用不用説」を提唱し、「生物は単純なものから複雑なものへと連続的に進化する」という仮説を提唱していた。エリッヒ・ヤンツが『自己組織化する宇宙』(1980)に於いて、ノムと同様の事象の進化について定義したが、その170年前に似たような発想をしていたことになる。チャールズ・ダーウィンが『種の起源』を発表したのは1859年であったことを考えると、ラマルクの方がより広範・大局的な理論を提唱していたことは重要であった。

  一方、「自己崩壊化」という現象については筆者独自の考え方であると思っており、「自己組織化」について述べたエリッヒ・ヤンツなどがそのことについて触れているかどうかは知らないが、少なくとも読んだ記事などには無かった。本項では主としてこの自己崩壊化について述べることにしたいが、まず自己組織化の事例説明から始めたい。  

  自己組織化をまず宇宙と生命に当てはめて考えてみよう。宇宙に物質が生じたとき、それは素粒子の世界であった。光子が誕生したとき、それは聖書の創世記にある「光あれ!」と神が言ったとされる光景のようだったかもしれない。素粒子の相互作用により陽子・中性子・電子が生まれ、原子が誕生した。原子同士の反応や融合・分裂により各種の元素が生まれ、その相互作用で分子が生まれた。筆者の想像では濃密な分子のスープの中で分子同士の相互作用でアミノ酸・タンパク質が生まれ、それが膜を形成し、内部に物質代謝が生じた。こうして細胞の原型ができ、それはやがて大きくなるにつれて分裂し始めた。これはあとで述べる自己崩壊化過程に入ったことを意味する。すなわち自己組織化は拡大・統一の方向に向かっていたが、その限界に達したのである。

  自己組織化の事例として太陽系の形成を挙げたい。宇宙空間に物質のガスが生じたとき、それには恐らく宇宙規模の電磁力(「右手の法則」)が働いて回転を始め、その中心に質量が集中し始めた。太陽系はこうして誕生の切っ掛けが作られたとされる。現在太陽系空間に漂っているチリは大きさが0.001mmだという。ガスが凝集した結果であると見られる。宇宙にある物質の99%はガスの状態になっているとされるが、これにはダークマターと呼ばれる未確認物質は入っていない。宇宙のチリは1%に過ぎないが、これは重力によって凝集し始める。これは自己組織化の1つの事例である。現代の観測で、太陽系以外の場所で惑星が誕生しつつある現象が確認されている。おうし座にある生まれたばかりのHL星に付随する惑星はその1つである。太陽系で、中心に太陽が出来たのはほぼ46億年前とされる。地球などの太陽に近い惑星は岩石惑星と呼ばれ、その4つの惑星はガス惑星に比べて小さい。木星・土星のようなガス惑星は巨大化が進んでいる。チリが惑星に成長するには乱流と軌道の乱れが大きな働きをしているようだ。シミュレーションでは小惑星10個ほどが衝突して、約46億年前に現在の地球ができたという。

  興味深いことは、凝集にしても自己組織化にしても、それは物理学的には秩序が生まれているということであり、昔のエントロピーの概念で言うと、エントロピー減少の方向に向かっているということである。単純な熱力学理論では、エントロピー増大、すなわち無秩序の方向に事象は動くとされていたが、宇宙での現象や生命誕生の現象などからみると、明らかに世界は部分的秩序形成の方に動いているこれをノムは人間界にも当てはめたいと考えている。すなわち、ばらばらな集落形成から始まった人間界は、その活動領域を広げると共に秩序化の方向に進まざるを得なかった。だがそれはまだ不完全であり、たった数十万年ではまだ時間が足りないのである。だがこの秩序化が進めば、最終的には人間界は1つの組織にまとまることになるだろう。それがノムの説く世界連邦であり、最終的に主権は1つにまとめられることになる(20.12.26「主権論」・21.3.28「世界連邦の可能性」)

  自己崩壊化は、自己組織化を促していたルールが破綻した時に起こる。細胞で言えば、その大きさが代謝にとって障害になる。会社も同じであり、社長の指令が隅々にまで浸透しなくなれば自己矛盾が生じることにより分社化が促進される。国家もあまりに広大な領土を有する国家はそのリスクを負っており、どうしても独裁型にならざるを得ない。トップの考え方や指令を末端に徹底するのが難しいからである。独裁型は必ず末端に不公平を生じるため不満が発生する。その不満を情報規制や弾圧で抑えようとするが、それには限界があり、ついには騒乱が発生し、革命が起こる。ロシアは世界最大の領土を誇り、なお領土拡大を求めるという時代錯誤を犯している(22.8.4「プーチンのノボロシア妄想」)。2022年2月24日についに隣国ウクライナに武力侵攻し、9月には4州を併合宣言した。だがそれは矛盾に満ちており、その矛盾から必ずやロシア国家自体が崩壊するだろう(21.1.22「ロシアの衰退と腐敗」)。領土の大きさは必ずしも必要条件ではなく、小さな国でも国家システムが脆弱であれば同じことが起こる。

  人間界についても同様なことが言える。生物の一種として誕生した人類は、知能を獲得したことで圧倒的に他の生物の頂点に立ち、拡大と統一を進めた(21.3.12「人類の挑戦と進化」)。それには宗教の力が大きかったと言われる。やがて国家という細胞群が多数生じ、宗教も多様化したことでそこで成長が止まった。人の住む土地を広げることはできず、国境(細胞膜に相当)に接する細胞内のルールは同じであるが、他の細胞(国家)ではルール(体制・宗教)が異なるからである。ここで起こったのは細胞融合による帝国化であった。侵略により帝国内に他国家を取り込むという形で拡大化・共存化を図った。だが属性の異なる国民を同じ領域に囲うというのは無理があり、その意識を統一する努力もしなかったために必然的に分裂が起きた。それは暴力的反乱、もしくは革命として起こった。再び世界は元の国家より小さい国家に分裂したが、意識の統一によって再統合を図ろうという試みが第二次世界大戦後に起こった。1つは中国であり、周辺弱小国家を暴力的に侵略して属国にした。その手法は巧妙であり、経済的支援の衣の下に属国化という悪意を隠していた。そして重要なのは、民間企業にも共産党員を配するという情報覇権戦略である(【時事通信】《中国》20.12.14)。それが悪意に基づいた謀略であることから、いずれは破綻する運命にある。すなわち、中華思想や習近平思想という普遍性のないルールで世界を縛ることは不可能であり、限界が見えてきていることはその証左である。もう1つはEUであり、国境を解放し、経済・通貨を統合した。だが国家主権を統一できなかったため、利害関係に矛盾が生じたときに分裂が始まった。現在は英国だけの分離だが、そのうち瓦解するのは目に見えている。すなわち自己崩壊化に向かっている

  人間界では企業が吸収・合併による統合を繰り返して巨大化する運命にあるが、それは製品価格の独占・寡占化をもたらすことから、多くの国で独占禁止法が設けられている。だが中国にはその手の法律はなく、むしろ共産党配下の国営企業が独占的支配権を握っており、それはいつか国民の反発を食らうことになり、国家存続の危機的状況をさえもたらすだろう。すでにミャンマーでは国軍が支配してきた独占企業が今その批判に晒されており、この強権政体は道理性も合理性もないため、中国の支援が無くなれば一気に瓦解する。大きな惨事が待ち受けているということである。中国では国営企業を解体すれば、共産党支配の屋台骨が無くなることから、共産党は決して国営企業を手放さず、逆に民間企業の巨大化を阻止している。アリババや美団などが狙われている。逆に国営に近いテンセント・ファーウエイは国策通りに動いているようだ。

  ではノムの主張する連邦制度は崩壊化の運命から逃れられているのだろうか? 連邦という世界組織は、人間の生み出した最大のものになる。つまり統合化の最終段階に至ったということを意味する。その内部に合意と満足がなければ、いずれにかこれも崩壊するであろう。だが連邦には、各国の言い分を聞く姿勢があり、なおかつ命令権(主権)が連邦にしかないため、各国は従わざるを得ない。そもそも武器がないことから戦争は起こせない。では不満が生じたときにはどうするのであろうか? その連邦による命令は各国の制限要素として受け入れられるであろう。競争がないことで、資源やインフラなどは実情に応じて適性配分されるため、各国も納得し易いのである。配分はAIが自動的に判断する。連邦の主導国というものもない。各国からは国力に合わせた議員が連邦議員として派遣されるが、賢人であるため関係国に有利な決定は行わない。それをするとAI判断で降格される恐れがある。飽くまでも世界全体に対して公平な政策を考えるよう訓練されているのである。

  つまり連邦制度は世界民から信認を受けたものであり、その決定が特定の民族・宗教・国家に基づいたものでないと分かっていることで、不満があってもそれを連邦に向けることはないであろう。国家に向けることはあり得るが、直接民主制に近いデジタル民主制であるため、普段から不満を表明でき、なおかつ改善に誰でも参加することができる(1.6「サイバー民主主義とは何か?」)。組織にそのような柔軟性・公平性・道理性があるため、連邦を構成する国家・世界民に不満は生じにくい。つまり連邦制のルール(思想・連邦憲法)は統一されており、そこに矛盾はないので、自己崩壊化から免れることが可能である。自然が巨大であっても、そこに働く諸法則や諸原理(自然の叡智)があるために、自然が崩壊するということはない。同様に人間世界が巨大なものになったとしても、その世界がノム思想によって統一的なルールを持ち、それを世界民が支持する限り矛盾は生じないことになり、統合化による矛盾はないことになる。それは安定な定常状態(ホメオスタシス:恒常性)を維持することになり、崩壊から免れるのである。但し拡大はこの時点で停止し、以後は縮小の方向に向かうであろう。

  つまり自己組織化は物質や事象の持つ必然性から起こるものであり、避けられないが、自己崩壊化は適性な制御と管理によって避けられるものである。たとえば会社でも、巨大化して分裂した各社は、適正な規模で維持される限り再度の分裂は避けることができる。人間界も連邦制度という統合化によって適正な規模(恐らく20億人程度)で維持され、適正に資源が配分されれば、各地の紛争や国家の戦争を避けることができる。そのためには武器の統一管理(連邦のみが武器を所持可能とする)・資源の適性配分(資源量とその枯渇を前提に、各国の必要事情を勘案して配分)・思想の統一(各国宗教はノム思想に準じた位置付けとなる)という制御を加えることにより、適正管理が可能になる(1.7「制御思想」・3.28「世界連邦の可能性 」参照)


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