本文へ移動
【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

巨大地震によるメタンハイドレートの崩壊の可能性(3.20追記)

2021-03-17
  2021年3月7日にNHKの「サイエンスZERO」で『3.11から10年 地震学者たちが挑んだ”超巨大地震”』を観た。その知見から、かねてから懸念したメタンハイドレート崩壊に直接影響する可能性があると直感した。その仮説を披露するとともに、地震の発生について基本的な知識をおさらいしておきたい。

  地震というものは主として地層のズレから生じるとされ、それはプレートの衝突している部分で起こりやすい。日本は太平洋プレートが宮城県の沖合から迫っており、フィリピン海プレート・ユーラシアプレート・北アメリカプレートという4つのプレートの接合点にある。日本が地震大国であるといわれる所以である。それだけに地震学は日本が最も最先端をいっているはずであったが、東日本大地震を学者らは予見できなかった。その後の調査から従来の地震学の常識外のことが明らかになった。それは、①地震は地域間で連動すること、②最初の地震がより巨大な地震を誘発することがあること、③スロー地震は歪解消の役割も果たすが、巨大地震の前兆になることもあること、④海溝付近の比較的地震を起こしにくいプレートの縁が起こす地震が巨大地震を起こすこと、⑤宮城県沖で再び広域海溝外側隆起巨大地震が起こる可能性があること、などが分かってきたのである。

  筆者が驚いたのは、地震学者らが地震を地域で区分していたことであった。宮城県沖では6個の領域に分け、地震はそのどこかで起こっても他の地域には連動しないと考えていたのである。だが素人は、どこかで地震が起こればそれは広範囲に伝わることから、必ず他の歪の溜まっているところに影響し、すぐにではなくても続いて地震が起きる可能性は高くなると考える(安政地震の例)。今回の巨大地震は最初に起きた地震震源地よりも、続いて起きた海溝側の広域な地域で起きた地震の方が大きく、2つのピークを形成していた。すなわち地震は連続して他の地域に連動することが分かったのである。その意味で筆者の素人考えの方が正しかったことになる。

  これは恐らく模型実験やシミュレーション実験でも簡単に再現できることであろう。たとえば6つの歪の大きさの違う地域の集合があったとして、その1つに地震を起こさせた場合、その揺れが他の地域に連動した地震を起こさせる確率を計算できるだろう。当時はその歪などに関するデータが無かったようだが、可能性は十分考えられたはずである。そこに学者としての気の緩み、地震学については世界一と思う驕りがあったようだ。その後この仙台沖領域と東南海領域には前代未聞の観測網が敷かれ、2016年に仙台沖には「S-net」と呼ばれる150台の海底地震津波観測網が作られたという。その総延長は5700キロになる。測定ポイントには地震計と水圧計があり、耐用年数20~30年を想定している。機器は随時交換可能となっているようだ。また同様なシステムが東海沖地震に備えるために「DONET(ドネト)」が2006年から整備され、2011年に完成している。2010年から「DONET2 」の整備が追加されつつある。これらを合わせると総延長750キロとなるようだ。海洋レーダー(地上設置)による観測も津波予知に貢献している。これは潮流を調べる目的で設置されていたが、たまたま2011年の津波を捉えたことで津波予測に有効であることが分かった。現在千葉から九州までの太平洋沿岸を面で津波を捉える観測網設置(17基)を目指している。陸から50キロ離れた沖合の高さ1mの津波(到達時間30分)が検知できるという。全て「災い転じて福となす」であって、日本がさらに地震予知・対策で最先端を行くことになった。

  新たに分かったことがある。海底観測船「ちきゅう」による海底ボーリング調査から、宮城県沖海溝の滑った地層は粘土層であり、摩擦熱で800度にも過熱されて水酸基が水となって出ていき、この水が膨張して摩擦を低下させて滑りを引き起こした可能性があるという仮説(サーマル・プレシャライゼーション説)が出てきたのである。シミュレーションでは15秒後に50m移動することが分かったという。これは短周期の揺れを引き起こさないが、海面には巨大な力を与えて変形させ、これが巨大津波を引き起こしたというのである。また海底でしばしば起こっているスロー地震と呼ばれるゆっくりした地盤の移動とズレが、地層の歪を解消するという良い効果をもたらす半面、地震の予兆になることもあり得るという。さらに地震発生時の初期の揺れ(0.2秒)には共通性(波形)があり、その後にならないと大きな地震になるかどうかが分からないという。スロー地震はある程度予知の鍵になるかもしれない東日本大地震では最初に震源の近くの海溝側の広い領域でM7.0に相当するスロー地震が起こり、それは誰にも気づかれることはなかったという。だがその1ヶ月に巨大地震が起きた海溝寄りで起きたスロー地震は巨大地震の予兆であった可能性が高い

  S-net によるその後の観測では、岩手と福島沖にスロー地震が集中して起こっている部分がある。それらは日本海溝よりも沿岸寄りに集中している。つまり震災を起こした宮城県沖にはほとんど見られないようなのである。ということは、今度は岩手県沖、もしくは福島県沖で起こる可能性が高いのかもしれない。また3月14日の報道では、日本海溝沿いに33本の断層が確認されたと発表され、3.11巨大地震後の誘発地震になる恐れがある「広域海溝外側隆起巨大地震(アウターライズ地震)」の可能性が指摘された。最大でM8.7の地震が起きる可能性があるという。これは海溝型の巨大地震に連動して発生することで知られ、今回の観測結果から、従来の政府予測であったM8.2を大きく上回る可能性が出てきた。明治三陸沖地震(M8.2)や、その37年後に起きた昭和三陸沖地震(M8.1)はこのタイプであると言われる。

  筆者はこのタイプの地震は海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込む時に生ずる曲がり歪が原因で起こる割れ目(縦割れ断層)が原因と考える。これは素人考えであるが力学的な合理性がある。割れ目が生ずれば、海洋プレートが押し付ける力によって割れ目と割れ目の間が押し上げられる力によって大きな歪が生まれる。それが破壊したとき、海溝外側の海底が一気に押し上げられることで大量の海水が津波を惹き起こす。津波の高さは30mに達する恐れがあるという。番組では残念ながら、東南海沖については触れていないので分からないが、当然そちらも可能性は高いし、東南海地震については過去の歴史から100~200年周期で起こっているとされ、政府発表によると2021年現在では、20年以内で60 - 70%、50年以内で90%程度以上の確率で起こると予想されている。 

  筆者が問題としたいのは、巨大地震に伴って海溝にあるメタンハイドレート層が浮き上がり、大気中のメタン濃度が上昇し、温暖化が加速されないかという懸念についてである。メタンハイドレートについてはこれまでテーマに取り上げてきていないので改めて取り上げたいと思うが、これは2009年時点では茨城県沖から岩手県沖にかけての領域ではほとんど存在が確認されていないが、南海トラフでは最大規模の埋蔵量が確認されている。東日本大震災ではこの問題が起こらなかったが、東南海地震では起こる可能性を否定できない。なぜ宮城県沖にメタンハイドレートが見つからないのか理由は分からないが、これまた素人推量で、この海域が黒潮と親潮がぶつかる領域であり、生物の宝庫ともされるが、海流が乱されてマリンスノーが海底に積もらないからではないかと推測する。南海トラフ(海溝)は黒潮が北上する位置にあり、東南海地震が予測される場所はこの陸地側である。日本海溝ほどは深くないが4000m級の深さがある。どうもここに大量のメタンハイドレートがあるようだ。

  2013年3月19日の中国の「人民網」にメタンハイドレートに手を付ける危険について警鐘している記事がある。中国にも大量のメタンハイドレートがあることが確認されているが、これを採掘することには慎重であるべきだとする意見である。日本エネルギー庁が2013年3月12日、海底からのメタンハイドレート採取実験に世界で初めて成功したと発表したことに絡んで、中国石油大学の陳光進教授が、先史時代の何回かの生物大絶滅はメタンハイドレート噴出による極端な温暖化と関係があると推測されることから、「メタンハイドレートは溺れる者のつかむ藁ではない」と侮辱的ではあるが真摯な警告を発した。日本メディアの浮足立った報道に冷や水を浴びせたことは確かである。だがその中国もそのうち率先立って開発に乗り出すであろう。既に1993年から中国も石油の輸入国に転じているからである。世界のメタンハイドレートのエネルギー総量は、すでに知られた石油、石炭、天然ガスなど化石燃料の総量の2倍に達すると科学者は推測する。世界の海底のメタンハイドレートは人類の使用量の1000年分に相当するとの推測もある。

  人為的なメタンハイドレート採掘でなくても、地球温暖化によると見られるメタンハイドレートの噴出は特にシベリアの凍土地帯で起こっているようだ(【時事通信】《温暖化》2003.9・2014.11記事)。さらにそれとも全く関係がない、地震による海溝付近からの噴出は避けることのできない運命的な事象であり、それが科学的に明らかになっているのが東南海地震とその周辺のメタンハイドレートの存在である(20.11.7「巨大地震によるメタンハイドレートの崩壊の可能性(3.20追記) 」参照)。どちらもここ10年以内の知見であり、地震と津波による被害は地域にとって直接的であるが、メタンハイドレートの噴出は地球全体、生物全体の問題となる。もし2億5000万年前のペルム紀に起きたメタンハイドレートの爆発的気化による大絶滅のようになれば、その危機は生物全体の危機に直結するが、ペルム紀の状況と現代を比較する術を筆者は持っていない。だが温暖化を加速することは間違いないことであり、学者もメディアもこのリスクを取り上げるべきであろう。


TOPへ戻る