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【時事評論2024】

【時事短評】プーチンの偽装選挙

2024-03-19
  ロシア大統領選挙の結果がやっと発表されたようだ。尤も正式には21日発表となっているので、新聞報道は先読み情報かもしれない。投票率は昨日発表され、77.44%だったという。これをまともに信じる人は少ないかもしれないが、あり得る話であり、作為的数字であったとしても違和感はあまりない。そしてプーチンの獲得票は87%超だという。これも予想報道からするとまあまあまともな数字と見えるし、選挙管理委員会は、プーチンからお叱りを受けない程度に微妙な匙加減でこの数字を出したらしい。いずれにしても過去の大統領選で投票率・得票率、共に最高という演出は完成した。

  プーチンとしては、民主主義風の選挙をしたことで、国民の支持という大義名分が出来たことになる。本当はこんな七面倒くさいことなど廃して、皇帝宣言だけで済ませたいところなのだろうが、独裁者にとって選挙の良いところは、それによって大義名分が得られることにある。自分が成りたくて皇帝になったのではなく、国民が推してくれたのでなったのだ、という、責任を他に押し付けることで責任逃れができることになった。今後自分がどのような政策を採ろうが、核戦争が始まろうが、国民が支持したのだから好きなように振舞えると考えているに違いない。

  だがその選挙自体、投票率も支持率も作為的・偽装的であった。以下にその要点をまとめてみよう。

1.選挙前に対立しそうな候補をプーチン支配下にある選管に除外させた。自派に属する候補のみの選挙だった。

2.選挙用紙を大判の用紙にし、誰を支持したかが回りの人や選挙監視委員に分かるようにした。投票箱を透明にしたのも同じ趣旨である。これにより自由な選挙は無意味となった。

3.占領地における強制的選挙推し付けは国際法違反だが、プーチンは堂々とそれを行った。既に国際法違反で指名手配されているプーチンは、少なくとも2つ目の国際法違反を犯した。

4.電子投票を取り入れたが、その詳細が報道されていない。批判者も ”ブラックボックス” だと言っている。恐らく投票者が誰であるか分かるシステムになっており、投票した候補者との関連から、プーチンに投票しなかった人は監視対象になるだろう。

5.プーチンは投票率を上げるためと、この電子作為を容易にするために、電子投票を推奨し、職場では集団的にやらせたようだ。抽選式の豪華賞品(車・住宅)を掲げて、宝くじ並みの意欲を掻き立てた。景品につられて投票したとしても、そこにプーチンの名が無ければ抽選は無効になるため、誰もがプーチンの名を書くようになる。

6.占領地では一軒一軒武装兵が訪問し、強制的に投票所に連れて行った(公開映像)。拒否すると暴力的な措置を取られるか、拘束されることもあったようだ。そして確実に、選挙後にはその地に居られなくなる。周囲に周知し、裏切り者と呼ばせるためである。

7.3日間の選挙期間を設定したのは、投票率を上げるためであり、工作をし易くするためでもあった。初日の金曜日には、職場・大学等で強制的に投票を行わせるよう上司や組織からの圧力があった。集団投票させることで投票率が上がったと言われる。

8.投票所を9万5千ヵ所にもしたことで、監視の目が届きにくくなった。

9.欧州選挙監視員の派遣を拒否した。公正な選挙を目指していない証拠である。

10. オンライン投票は90ある選挙地域のうちなぜか29の地域でだけ実施された。ここは野党の監視が厳しい土地だったからだと言われている。

11.占領4州と強奪したクリミヤでは、得票率が90%を超えるという異常性を示した。戦争が起きている地域でこのような支持率は得られるはずがない。

12.後日監視団体が発表したところでは、2200万票が操作されたという。これを基に計算しなおすと、プーチンの獲得票率は62%を少し上回る程度、だったかもしれない。

  選挙が以上のような偽装によって行われた以上、これを選挙という民主主義が取る手法と同じだと見なすことはできない。案の定、欧米は一斉に選挙を「作り物」として認めないと声明を出した。だがノムからみれば、プーチンは自分自身を十字架に括り付けたと思えるのである。プーチンは長期の戦争に耐えられるとは思えず、すでに国家予算の半分を軍と警察に使っており、民間への還元はほぼ半減してしまっている。民は穴だらけの道路や高額な医療や物価に、そのうち不満だらけになるだろう。それがプーチンに跳ね返ってくるのにはあと数年あれば十分である。プーチンが革命によって引きずりおろされるか、暗殺されるかは分からないが、その末路は惨めなものになる。今回、前大統領だったメドベージェフに禅譲していれば、永久にプーチン帝国創始者として歴史に残っただろう。彼はそうした名誉よりも、権力を保持しなければ自分の命は危ういと考えているようだ。そこまで追い詰められているということを意味する。

  ソ連時代の最後のトップだったゴルビーは無事に生きている。クーデターが失敗したせいもあるが、集団指導体制だった当時は、誰もトップを暗殺しようとは思わなかった時代であった。だが今は違う。プーチンは反体制と見做した人物やスパイを全て暗殺してきた。反乱を起こしたプリゴジン然り、反体制派のシンボルだったナワリヌイ然りである(ロシア2.26)。いずれの事件でも証拠は残さず、ナワリヌイは自然死とされた。だがマイナス数十度の気温で散歩を数十分も楽しむ人間はいないはずであり、帰ってきたナワリヌイの心臓に拳固を食らわせれば心臓発作で死ぬというのがKGB時代からの暗殺方法だという。ナワリヌイはそうして殺されたのであろう。

  暗殺がプーチンのお得意の偽装殺人であるとすれば、選挙もまた偽装されたと断じて良いであろう。米国の選挙にさえ介入して世論操作を行った実績があり、今回は大々的に自分を英雄として売り込み、対立候補を資格なしとして排除した。世界の誰しもが、これは「やらせ選挙」であり、「でき選挙」であり、「偽装選挙」であることを知っていた。そのツケはやがてプーチン自身にブーメランのように返ってくるのを、彼はまだ知らない。

(3.17起案・3.19起筆・終筆・掲載・3.21追記)


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