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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【現代寸評】

中国の独裁体制を強いられた香港に未来はあるか?

2023-12-10
  香港は元々中国領土であった。だが英国がアヘン戦争(1842)に勝利した結果、1842年の南京条約(第1次アヘン戦争の講和条約)によって、香港島が清朝からイギリスに割譲され、イギリスの永久領土となった。さらに、1860年の北京条約(第2次アヘン戦争(アロー戦争)の講和条約)によって、九龍半島の南端が割譲された。その後、イギリス領となった2地域の緩衝地帯として「新界」が注目され、1898年の展拓香港界址専条によって、99年間の租借が決まった。以後、3地域はイギリスの統治下に置かれることとなった。だが1941年に始まった太平洋戦争で、香港を日本軍が占領したため、英軍は放逐された。1945年に日本が降伏したため、香港はイギリスの植民地に復活した。その後1950年にイギリスは前年建国された中華人民共和国を承認したため、返還・再譲渡先としての交渉相手は中華人民共和国となった。

  1997年に訪れる中国返還後の体制について、英中間交渉が始まったが、イギリスが交渉で応じない場合は、武力行使や水の供給の停止などの実力行使もありうることを示唆した。イギリスの永久領土である香港島や九龍半島の返還も求める猛烈な鄧小平に押されてサッチャーは折れた恰好となった。1984年12月19日に、両国が署名した「英中共同声明」が発表され、イギリスは1997年7月1日に香港の主権を中華人民共和国に返還し、香港は中華人民共和国の特別行政区となることが明らかにされた。共産党政府は鄧小平が提示した「一国二制度」(一国両制)をもとに、社会主義政策を将来50年(2047年まで)にわたって香港で実施しないことを約束した。この口約束が反故にされたということになる。

  本日12月10日に行われる香港区議会選は、4年前の前回と様変わりした(国際12.10「数字が表す香港の沈黙の選挙・投票率20%になるか?」。選挙制度の仕組みを変更したことにより、親中派しか候補者のいない選挙は静かなものになった。誰も選挙の話題をせず、盛り上がっているのは候補者だけだ。2019年の前回選挙は投票率71%で野党民主党が議席の8割超を獲得して圧勝したが、2023年7月に改悪された新たな選挙制度では、479あった議席が470に削減され、しかも住民による直接投票枠を452から88に激減した。以前の直接投票枠は90%であったが、19%に激減したことになる。今回民主派は1人も立候補できなかった。地区委員会の推薦・愛国者審査があるからである。完全に中国の独裁体制と同じようになってしまった。選挙制度があっても意味はない。

  中国は形だけの選挙制度を残し、実質は中国と同様の独裁体制を完成させようとしている。名目上では「一国二制度」を謳っているが、実態は「二国一制度」であり、それは共産党一党独裁というものになっている。本来なら、約束を破った中国を世界は非難し、香港を国家として承認しない挙に出るべきだった。そうなれば香港は中国に併合されざるを得なくなり、香港の取引所は閉鎖され、人の交流も無くなり、香港は衰退する。だが世界は香港人に同情したため、そうした強硬措置は取れなかった。

  鄧小平は「韜光養晦(とうこようかい)」という難解な表現を用いて、国際社会との付き合いを穏便にしようとしていたと思っていたが、鉄の女と言われたサッチャーをやり込めたほどの鉄面皮であったことを今回知った。そして中国が武力で脅しをかけるという国際外交のやり方が、この時点ですでに始まっていたということも知った。昨日のニュースには、中国の将校が「尖閣諸島・沖縄との一戦を恐れない」と発言したという。これはおかしな言葉であり、まるで日本が中国を攻めるかのような言い方をしている。実際は中国が先に尖閣諸島・沖縄を攻める計画を立てているのである。しかも「中国の強大な力を、日本はみくびってはならない」と釘を刺している。これほどの脅しをするということは、本気度は100%であることを表している。

  香港人は民主的制度にあった英国統治時代の維持を求めていたが、それが叶うはずもなく、中国は香港行政長を通じて中国化を徐々に進めてきた。デモは弾圧され、政治制度も完全に独裁化された。おそらく中国本土のスパイ摘発法など、諸法も整備されていき、香港は少なくとも外国人にとっては安全なところではなくなる。国際取引の一拠点であったのが、徐々に深圳に移されていくだろう。中国は孤立化せざるを得なくなり、経済は内需中心の閉鎖的なものに移行していくだろう。香港が持っていた地政学的優位性や政治学的優位性は、この先10年以内に瓦解するものと思われる。一度民主制の甘い蜜の味を知ってしまった香港の人々にとっては、とても辛い時期であろう。今のうちに香港を抜け出すかしないと、香港は中国の有力な海軍基地になる運命にある。そして第三次世界大戦で最初に核攻撃を食らう都市となるだろ。香港にもう将来は無くなった。だがまだ未来は残っている。中国国内に民主制度の良さを知っている人々がいるということは、未来において香港の人々の末裔が、中国を健全なものに引っ張っていく牽引役になることが期待されるからである。

(12.10起案・起筆・終筆・掲載)


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