本文へ移動
【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【現代寸評】

23-1 日本の酪農危機

2023-07-10
  【時事評論】の中の【時事短評】で「日本の酪農危機」を取り上げており、この項は転載版となっています。


  7月4日にNHKで放送された「視点・論点」で日本の酪農危機というものがあることを知った。毎日、ニュースは見ているが、酪農危機ということは知らなかった。報道の在り方の問題もさることながら、こうした状況変化に対応した政策が適切でないため、生産者に大きな負担が掛かり、時には廃業に至らざるを得ない状況に陥っているという。ノムの視点からすれば矛盾だらけに見えるが、競争社会となっている現代ではやむを得ないことなのだろう。こうした現代が抱える問題のほとんどが未来世界のシステムでは生じないか、生じても対応は非常に容易である。こうしたことから、【現代寸評】という新たなサブメニューを設け、現実に起こっている諸問題に対して未来世界での解決を解説してみたいと考えたが、当面はテーマに掲げた問題について、未来世界での解決策を解説してみたい

  まず《 日本の酪農の現状 》について、NHKの番組から簡単にまとめてみよう。解説は北海道大学の清水池義治である。

1.コロナ禍による需給のアンバランスとしての原乳過剰。
2.ロシアによるプーチン戦争勃発による資材高騰と酪農経営の悪化。

  10年ほど前に、「バター不足」が社会問題化(2008-2015)した。それにより政府は生乳増産策に力を入れ、それが軌道に乗ってきたところへ中国によりコロナ禍が発生し、2020年以降は乳製品需要が減少したため、生乳は在庫過剰となった。特に脱脂粉乳の在庫が増えている。業界やメーカーは在庫対策をとっており、脱脂粉乳を家畜向けに安く卸したり、輸入品との代替を行った。時には輸出に振り向けたりしている。そのため酪農家の負担額は2022年度に100億円に達しており、2023年度には既に100億円を大きく超えているという。それでも在庫が減らないため、北海道は2007年以来となる生乳生産調整に入った。規模拡大を図っていた酪農家にとっては借金返済が滞ることになり、倒産の憂き目を見ることもあるという。長期的には酪農への投資が減ることが予想される。

  プーチン戦争で起こった物価高騰は、酪農家にとっては生産資材高騰という形になって襲った。これにさらに追い打ちを掛けているのが、日米の金利政策の違いから生じた円安であり、飼料等は1.5倍、動力費1.2倍、建築資材1.4倍となっている(2022年後半・対2020年比較)。そのため所得が減少し、北海道では仔牛の価格自体が50~80%も下落したことも響いている。2020年の酪農家所得は北海道で53%、都府県で92%も下落し、生活に支障が出ており、倒産・離農する酪農家も出ている。政府は資材購入補助金や価格引き上げ容認など各種補助金での支援を行っているが、とても足りるものではないようだ。

  2022年の酪農家減少率は7%であったが、それは例年と比べておよそ2倍であった。当然のことだが生産量も減少に転じている。北海道の場合は生産抑制の結果でもあるが、都府県では離農の影響が大きいという。近い将来、在庫過剰から一転して、再びバター不足が起こると懸念されている。政府対策として、①飼料価格安定基金からの補填・②コスト削減酪農家への支援・③国産飼料利用酪農家への支援・④在庫削減補助・⑤乳牛頭数削減、等で500億円を支出している。だが皮肉なことに、優秀で有能な酪農家ほどこれら支援が届いていないという現実がある。つまり既に切り詰めている酪農家にはこれ以上の努力のしようがないというのである。

  対応すべきこととして清水は、①生乳過剰の解消・②酪農所得の回復、を挙げる。①は政府による脱脂粉乳在庫買い上げや国産需要創出などで、予算は300億円ほどが必要になる。②では全酪農家を対象とした所得補償や基金の創設などがあり、800億円ほどが見込まれる。合計で長期的に見て1100億円程度となるだろうという。だが食糧安全保障の観点からすれば、まことにお寒い限りであり、ノムとしては少なくとも5000億円は国家として投資すべきであると考える。それでなくても自給率が低い日本は、真剣にこの問題、そして食糧全般の問題を考え、大規模な投資を行うべきであろう。

  これらの問題を《 未来世界ではどう解決 》できるのであろうか。それを箇条書きに示して概観したい。

1.そもそも需給バランスが崩れたのはコロナ禍での観光の激減によるものであり、未来世界では観光業自体が極めて小さい規模であることから、現代のような需給バランスの崩れは起きない

2.気候変動による飢饉に備えて普段から備蓄を国家としても各家庭においてもしているため、短期的な需給バランスの崩れは起きない。長期的には乳製品は酪農家に頼るため、酪農家の保護が優先されるだろう。国家として補助金は常に備蓄している

3.未来世界では戦争が無くなるため、戦争による物価の変動というものも無くなる

  以上3点から見ても、未来世界ではこのような問題は起きないと考えた方が良い。だがそうした未来世界を創造するために、《 人間及び国家は、以下のような努力を強いられる 》だろう。

1.貿易が無くなることで、各国は食糧に関して自給自足体制を取ることになる。自給可能な範囲に人口を抑制することになる。

2.人々は無駄や贅沢を可能な限り抑制し、自給可能な食糧による食生活を目指す。それは各国に独特な食文化を生むことになるだろう。(事例:アジアにおける昆虫食・日本のゴボウ食)

(7.8起案・起筆・終筆・7.10掲載)



TOPへ戻る