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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【科学評論】

世界最大の生物

2023-03-23


  PC作業をしようと立ち上げた際、白樺林のような画面が出てきた。いつもは見もせずログインするのであるが、たまたま説明文の中に「巨大な1つの生物」と言う文言が目に留まり、クリックしてログイン後にその解説を読んだところ、驚くべきことを知った。巨大な森が1つの生命体であるということであった。以前に、オーストラリアの海底の海藻類の巨大な群落が、やはり1つの生命体であるということを知ってはいたが、地上にも同じようなものがあるとは驚きであった。

  【時事評論】の3月22日のタイトルは「形と実態」というものであった。形と実態の乖離の問題を考察したものである。このパンドもその一例として取り上げることができるだろうと考えた。以下では、「形と実態」のテーマを引き継ぐつもりで、「世界最大の生物」について書いてみたい。

  まず海藻の話であるが、その記事を探してみたが見つからなかった。ニュースも探したが見つからない。日経サイエンスも数冊、最近の記事を探した。仕方がないのであらましを述べると、オーストラリアの確かグレートバリアリーフにある海藻群落が、たった1つの個体から増えたものであるという記事であった。生命が海から誕生したとすれば、海の中にそのような原始的生命体があってもおかしくないと受け止めた。だが今回のPC上で見つけた記事は、陸上の、しかも森林の話である。以下にその記事を採録する。

  ユタ州のフィッシュレイク国有林で見られるパンドという森は、見ただけでは、風に葉を震わせているアメリカヤマナラシ (ポプラ) の広大な森 にしか見えない。しかし、実はパンドは複数の木からなる森ではなく、たった1本の木であるという。ポプラの森にはよくあることだそうだが、パンドの約40,000 本の木は遺伝子的に同一であり、巨大な根から枝分かれして伸びてきた木々なのだそうだ。言ってみればクローンの集合体であるようなものだろう。パンドは科学者にも衝撃を与えたという。地球上で知られている中でも最重量を誇る生体組織とされ (約 6000 トン)、しかも古さも生体組織としては最古級であるという。科学者の推測によれば、その巨大な根はおよそ 8 万歳であり、最終氷期や数え切れない山火事を乗り越えてきたと考えられている。根は地下に存在したので、さまざまな現象から守られ、長く生存したのだろう。個々の木は枯れることがあるが、その後も組織全体は生き続けた。

  ネット上には「オニナラタケ」が最大であると紹介している記事がある。それによると、オニナラタケの群落は菌糸を含めるとその面積は東京ドーム焼く684個、8平方万キロメートルにもなり、重さは推定600トンであるとされる。菌糸はパンドの根に相当するものであり、比較すればやはりパンドの方が大きいと云える。他にもワタゲナラタケも挙げられている。哺乳類ではシロナガスクジラが最大のようだ。恐竜時代に遡れば、化石からその大きさが想定されるだろう。だが恐竜はその巨体故に絶滅したし、シロナガスクジラも絶滅危惧種と言われている。

  ノムが興味を覚えたのは、地下の根が8万年もの長期にわたって生命を継続させたということである。ノムの提唱する人間の地下への移行は、その意味で正しい選択であろうと思われる。初期の人類の祖先は恐らく洞窟のような場所に、安住の場所を求めた。洞窟探検家が証言するように、さまざまな洞窟の奥深くにまで、人間が入り込んだ痕跡が残っている。それは単に棲家として利用しただけではないことを物語っている。何かしら洞窟には、人間の好奇心をくすぐるものがあったのであろう。人間の冒険心が、海洋を丸木舟で渡るという生死を賭けた冒険に人間を誘ったのと同様に、真っ暗な洞窟には、人間の好奇心を呼び覚ますものがあったに違いない。そして洞窟は比較的安定した場所であった。外敵から逃れるには最適な場所であったに違いない。

  近い将来、人間は核戦争の大災厄に見舞われる。その際には「核の冬」が到来すると云われる。ウクライナで電力や水を失った人が、寒さ除けなどに頼ったのが地下であった。そこに井戸があったかどうかは報道されていないが、ウクライナは穀倉地帯でもあることから、食糧不足の情報はない。ただひたすら寒さから逃れることが最大の問題であったに違いない。調理のための燃料は、破壊された家屋の木材などを利用しているようである。核の冬ではウクライナ以上に悲惨な状況が生まれるだろう。

  だが動物にまで進化した生命は、その生命体としての複雑化・高度化によって、個体としての寿命を縮めざるを得なかった。たとえば樹木であれば、数千年の寿命を誇る個体もある。動物で過酷な環境でも生き続けるとされるクマムシは、通常の寿命は意外と短い。平均して1ヶ月程度、長くても1年ほどだという。肉眼では確認しにくい微小な動物であり、熱帯から極地方、超深海底から高山、温泉の中まで、海洋・陸水・陸上のほとんどありとあらゆる環境に生息する。だが「乾眠」という方法で100年以上、蘇生可能だとも云われる。乾眠とは、ゆっくりと時間を掛けて乾燥状態に置くと、クマムシは体内の水分が全て無くなっても、生理活性を復元可能な状態で一種の冬眠状態に近い状態になる。冬眠ではわずかな代謝があるが、乾眠ではそれすら無いという。

  上記したパンドはひたすら根の細胞を増やしていくことで巨大化した。海藻の事例も同様であろう。アメーバと似た増殖である。ただアメーバの群落でこれほど巨大なものは存在しない。しかも見た目は個々の樹木は別の個体であるように見える。ノムが上記したテーマである形と実態の乖離の典型例であると云えよう。動物ではいまのところ、アメーバ以外にそのような増殖方法を採っているものは見当たらないようだが、研究が進めばもっと他の森林でも同様のものが見つかるかもしれない。

  人間も、大型動物としての数だけは恐らく生物史上最大の数に増えたと云えるのではないだろうか。それをこれから長期間、数千年から数万年生きながらえさせるためには、ノムの考えでは地下に住居を移行させるしか方法は無いように思われる。それが今回の記事から改めて学んだことである。


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