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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2023】

中国式統治に一理あり・だが道理なし

2023-12-22
  中国は長い時間を掛けて独自の独裁的社会主義を作り上げてきた。それは毛沢東に始まるが、初期のその試みは失敗し、大飢餓(1958ー1962)をもたらして数千万人から数億人が死んだと言われている。大躍進政策や人民公社政策が原因だと言われている。強引な社会主義の原理主義に走ったためだと思われる。だがその後、その反省を含めて鄧小平は現実路線を取り、経済に資本主義を取り入れた。政治体制としては共産党の一党支配を続けながら、韜光養晦(とうこうようかい)という考え方に沿って、海外からの援助を頼りに成長を最優先したのである。最大の貢献をしたのは米国と日本であった。米国は将来の巨大な市場としての中国に期待し、日本は太平洋戦争の贖罪意識から積極的に援助を行った。それが共産主義を育てる結果になろうとは、恐らく当時は予想もしていなかった。当時の中国はそれほどに遅れた後進国だったからである。

  だが米国や日本から技術的支援や経済的支援を受けるにつれて、本来頭の良い中国人はそれらを学んでいった。そしてその糧を基に、独自の社会主義形成という目標を外れることは無かった。それは一党独裁が上手く立ち回ったからだと言える。利を得るためには頭を下げまくったが、表向きは社会主義の優越性を国民に誇示した。そもそも資本主義を共産主義に馴染ませることは極めて難しいことだが、鄧小平は「改革開放」という標語を掲げて、その矛盾を乗り越えようとした。彼らは問題が生じないように、都合の悪いことには触れようとしなかった。米国や日本のそうした姿勢に刺激された欧州も、こぞって中国に投資を始めた。そうした中に起こった天安門事件は、中国共産党政権にとって極めて重大なことを意味した。学生の主張する民主化は、中国式社会主義を崩壊させる可能性を秘めていたからである。時の鄧小平はこれを弾圧する決定を下し、軍を出動させて単なる集会(反政府集会では無かった)を戦車・装甲車で踏みにじった。

  天安門事件は世界に衝撃を与え、日欧米は一斉に投資を中断した。だがその経済制裁をいち早く解除したのは日本であった。ODAの再開である。それを見て欧米も遅れを取ることを恐れ、再び中国に投資を開始した。中国は見る間に「世界の工場」と言われるまでになり、莫大な利益を上げた。今や「made in china」無しには、世界の生活が成り立たないほどになっている。中国はそれを人民統制のためと軍事の近代化のために使っている。そうしないと中国が内部から思想崩壊することを分かっているからである。だが世界に進出して世界を知るようになった中国人の中には、中国の体制や統治に対して疑問を持つ人々も多数存在する。共産党政権はそのため情報操作を行うとともに、成果を誇示して中国式社会主義の優越性を国民に訴え、何とか体制維持を続けようとしている。だが最近では欺瞞に満ちた体制に嫌気が差して、国外に逃亡を図る中国人が増えているという。

  そのため中国は、海外に在住する中国人にまで監視の手を広げ始めた。「海外警察」と呼ばれている秘密の組織である。海外出張者・海外滞在者(留学生を含む)は全て調査対象になっている。外国籍を得た中国人に対しては、スパイと同様な観方をしていると言っていいだろう。中国の体制維持のための謀略は留まることを知らない。年々法規制が厳しくなり、特に「国防法」と「スパイ法」は中国人にも在中外国人にも重くのしかかっている。それは成り行きから言って必然であり、そうしないと共産党一党支配が崩れるからである。つまり中国式独裁社会主義には無理があり、人間の普遍的な価値観に合わないものであることが、こうした強権的手法を生み出してきた。

  現代では、民の要求を第一に考える体制と、政権の維持を第一に考える体制との2つがある。前者を「民主国家」と呼び、後者を「権威主義国家」と呼ぶ。権威主義には共産主義も含まれ、民主制の形を取ってはいても事実上の独裁を取る国もあり、ノムはこれらをひっくるめて全体主義国家と呼ぶ。そうした悪の全体主義がはびこっているが、本来の国家の在り方を、個人主義に基づく体制と全体主義に基づく体制とに分けて考えてみた場合には、ノムが予想する未来世界の連邦は、全体主義に基づくものであることになる。すなわち、全体主義というものは、非競争の状態にある場合には良いものになる可能性を秘めているのである。全体主義が善用されるようになるには、いろいろと条件が揃わなければならない。その第一が指導者が賢人であることであり、その賢人を生み出すためには人格点制度が絶対に必要となる。

  現代に於いては、民主制国家も矛盾と不完全さを持ち合わせており、決して理想的なものではない。権威主義国家は論外であり、共産主義を採用していようが独裁を採用していようが関係なく、どの国家を見ても醜悪である。だが競争下にある現代では、そうした醜悪国家がならず者国家と呼ばれているにしても、存在すること自体が何らかの利点があるからだろうと想像される。中国が繁栄できたのも、その利点を上手く運用してきたからであった。

  全体主義の良い点は、①上部組織からの命令が即座に実行可能である・②臨機応変な対応が可能である、の2点に絞られる。逆に悪い点は、①倫理基準というものが存在しない・②トップが醜悪であると、全体が腐っていく、の2点に絞ることができると思われる。中国は習近平という希代の逸材が登場したことにより、良い点も悪い点も両方とも実現した。だが倫理基準というものが存在しないことから、やがて中国は腐敗していくであろうし、もう既に腐敗して崩壊寸前であるという観方もできる。だが中国は中国なりに自らの思想を誇りに思っているだろうし、それが成功したと考えているであろう。だがそれは上記したように、外国の支援があったが故に成し遂げられた繁栄であった。それを今度は独自の力で継続できるかと言えば、上記した悪い点がもろに出てきて、腐敗の方向に行かざるを得ない運命にある。

  中国式統治には、その動機はともかく、成功をもたらす要因もあるため、一理はあると考える。だがそれは世界からすれば認められるような普遍性はなく、独りよがりな理屈であり、中国が繁栄しているからこそ、世界はその一理を認めざるを得ないという状況にある。中国の手法(戦狼外交・世界制覇志向)には世界が認められない多くの事柄が含まれており、それらには道理がない。中国の報道官が放つ一言一言に世界は恐怖を覚える。決して共感は得られていない。中国の人々からしても共感できないからこそ、国外脱出する人々が出てくるのである。世界は今後、中国が台湾を武力で制圧するのかどうか、固唾をのんで見守っている。道理がない中国という凶暴国家が世界を席巻した時のことを、恐怖の眼差しで予想している。中国の目指すものは世界の希望するものではないからである。

  結局、中国としてはメンツの上でも肩肘を張らなければやっていけないという事情があることを理解した上で、その統治には一理があることを受け入れたとしても、その手法に道理がなければ、世界としては中国を排除するしかなく、とても共存していける存在ではない。米国ではバイデン大統領が、中国のことを「敵」とは言うことができないまでになっている。仕方なくバイデンは「強力な競争相手」と言葉を濁した。だが近いうちに、誰が米国の大統領になったとしても、「中国は敵である」と宣言せざるを得なくなるのは目に見えている。

(12.22起案・起筆・終筆・掲載)


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