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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2022】

地下生活へのいざない

2022-09-26
  最近の3テーマはエネルギー・食料などの高騰化を受けて設けたものである(9.24「どうしたら節約ができるか?」・9.25「食料の自給自足は可能か?」)。今回は前項で既に書いたこととダブるが、田園都市構想で提案している「人間生活の場を地下に移行する」という大胆な構想について説明したい。これはかねてから言われてきたジオフロント」とも関連するが、この言葉の意味は「広義には地下空間の総称、狭義には地下に作られた都市、およびその都市計画のことを言う」だそうだ。つまりノムが発想する前から同じようなことを考えた人が居るということだ。だがその動機は全く異なり、ジオフロントを考えた人達は、地価の高騰や環境問題に対応するために大深度地下(50m以上)の開発を構想したようだ。ノムの地下利用の目的は地上を植物や動物主体の世界にし、人間は地下に移動することで環境を豊かにしようという発想から出てきている。そのため、サンゴをよく例えに使うが、100年ほど使った地下住居の上にさらに新たな住居を積み重ねていくという手法を用いる。単に地下に潜るだけではなく、遺構の上に構造物を載せていくのである。以下でその構想について説明したい(21.2.9「田園都市構想」)

  ノムは最初に単体の「シェルター住居」というものを構想した。それは38年ほど前のことであり、「シェルター構想」と名付けた。その30年ほど前に米ソの間でキューバ危機(1962年:60年前)があったりして、米国で核シェルターが流行したことを見聞きしていたことも影響している。だがノムはそうした核兵器への恐怖からシェルターを考えたのではない。ノムが環境問題に関する教職に就いたのは1973年(49年前)であり、日本で公害問題が頻発していた頃であった。そのため公害を出さないような社会というものを考えるようになり、地下への移行がその解決への手掛かりになるかもしれないと思ったのである。なぜなら、地下ならば廃水・排ガスを容易には排出できなくなるからである。少なくとも住居について、その可能性を追求しようと思った。学内研究でも、「土壌による排ガス・廃水の浄化」、というようなテーマを手掛けて発表したりした。

  だが単体のシェルター住宅というものだけでは不十分だということはすぐ分かった。シェルター住宅の周辺環境も同時に考えていかなければならないことに気付いたのである。そこで翌年の1985年に「ノア計画」という構想を持ち、その中心に「田園都市構想」を据えた。ノアという名前は「ノアの箱舟」をイメージしたからである。田園都市というものも、後で知ったことではあるが、都市計画の一環として建築家などがいろいろアイデアを出している。だがそれは、「都市開発」という視点に立ったものであり、飽くまでも人間主体のものである。ノムの田園都市計画は、地球環境の保全が目的であり、人間は脇役にならなければならないと考えている。すなわち、地上を動物や植物の生息に適した場として譲り、人間は地下に根拠を置いて地上を適切に管理する責任があると考えるのである。

  人間の活動の場を地下に持っていくということは、かなり大きな問題を抱えることになる。人間が生きるための生産活動をどうするか、地下生活に伴う不便や効率の悪さをどう補うか、等々である。しかも地下住宅や地下工場を建設するには莫大な資金が必要になり、かつエネルギーや物資も膨大に必要となる。そこでそうした地下住宅というものが単なる夢に終わらないよう、自分で実証する必要があると考えた。幸い経済バブルというものが発生し、そのチャンスが与えられた。東京の地価はうなぎのぼりに上昇し、地方の地価はまだそれほど上昇していなかったことから、その差額を利用しようと考えた。東京の土地を売り、地方都市に500坪の土地を得た上に、両親と我々家族の家の2棟の家を建て、おまけにアパートまで建てられた。研究の場所も出来たのであるが、残念ながら地下住居は資金不足から造れなかった。だが5年後にそのチャンスが巡ってきた。河川改修に引っ掛かり、収用の対象になったのである。その補償金を使って、新住所に鉄筋コンクリート造の半地下構造物を造ることができた。

  これは名目上は倉庫となっているが、実際には地下居住実験室だと考えている。実験設備も備えたもので、通常ではあり得ない機材がある。半地下部分には寝室(1人用)・台所・貯蔵室・冷蔵室・シャワーがあるが、施工上の問題からトイレだけは2階にした。未来世界の環境シェルター住居ではこの問題も解決しているであろう。倉庫の総床面積は正確には把握していないが、地上2階を含めて60坪以上あると思われる。あいにく時間がないため、地下での居住実験は未だに行ってはいない。だが趣味の作業場としては使っているので、ある程度はその居住性は確認している。地下は温度が比較的安定しているので、酷寒・酷暑に対してはかなり有用なものとなるだろう。冬場の井水温度は15℃であり、夏場は20℃であるため、これを冷暖房替わりに使うことができると考えている。

  折しも25日のニュースの中に、欧州でのガス不足による燃料・電気料金の値上げにより、農業にも大打撃が生じているというものがあった。冷蔵保存しなければならないリンゴ・チコリーを、天然の洞窟や採石場跡を利用して保存しているという。これが大きな省エネ効果を生んでいるとし「通常の冷蔵庫を使ったときに比べて、32%の節電になっている」という関係者の話を紹介している。日本でも昔から「氷室(ひむろ)」というものが用いられていた。地下の有用性が、このエネルギー危機で見直されている。ノムもこの夏に寝る場所を地下に替えたところ実に快適に眠れたので、猛暑が続いた間は地下で寝た

  地下室というものが日本でほとんど見られないのは、建築費が高いことも理由の1つであるが、主たる理由は湿気によるカビの問題があるからであろう。夏場の空気がカラッとしている欧米では地下室は当たり前のように在る。ノムは湿気の問題を解決するために、建築方法に「高断熱高気密」と呼ばれる工法を採用した。地下室を造る際に、スタイロフォームという断熱材を外側のパネルに用い、コンクリートと一体化させるのである。こうすることにより、外側からの地下水の浸透をほぼ完全に防ぐことができた。だがコンクリート自体から数年は水が水蒸気の形で出てくるため、数年間は除湿器を用いて空気を乾燥させた。そのすることでカビの害は防ぐことができたと考えている。また換気や廃水のポンプ汲み上げの問題もある。台所の排水は汲み上げポンプで解決しているが、屎尿(トイレ廃水)は出来ないと言うので上記したようにトイレだけは上階に設置したが、未来世界のシェルター住居では屎尿からメタンを作るシステムが装備されるため、この問題も解決されているであろう。

  地下生活の最大のメリットは、温度が年間を通じてかなり安定しているということにある。すなわち冷暖房がほぼ必要無くなるということを意味し、その省エネ効果は絶大なものであろう。ノムの実験的半地下ではそれは十分ではなく、外気と数度の差しか得られていないが、これが本格的な地下1階や地下2階では、年間温度はほぼ15~25℃近辺で一定化するであろう。ノムは昔、富士山の樹海近くの氷穴に入ったことがあるが、その真夏の冷気は寒いほどであった。ウクライナでは爆撃から逃れるために市民は地下シェルターに避難したが、現代日本人は酷暑・酷寒から逃れる場所を持たないため、もし気温が40℃を超えるような事態が来た場合、エネルギー資源を持たない日本でもしエネルギー価格が10倍に上昇したとすると、熱中症で死者が出てもおかしくない。事実その危機が今年の冬にヨーロッパに訪れようとしている。それは逆に酷寒の場合となるだろう。

  もはや地下生活は、ノムの考えていた田園都市構想から帰結されるものではなくなり、必要不可欠なものとして認識されるようになるであろう。その意味では核シェルターと似たようなものとなる可能性が高い。つまり環境改善のためのシェルターではなく、環境逃避のためのシェルターとなるだろう。だが世界に先んじて、環境改善のための環境シェルターを目指して日本がありったけの技術をそこに注ぎ込めば、日本は世界に誇ることのできる先進国となり得るのである。日本発のペロブスカイト太陽光発電がもうじき実用化されようとしている。海洋国家である日本が世界に先駆けて、いかだ型海洋発電を実用化すれば、日本はもはやエネルギー不足に悩まされることも無くなるだろう。そして家屋が地下化することで、地上では太陽光発電が思う存分できることにもなるのである。


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