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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

ネットによる洗脳

2021-12-20
  人の心の有り様を支配してしまう洗脳という現象は、必ずしも支配者による国民の洗脳に限らない。しばしば人は、不満などから逃避的行為を取り、自宅に籠ってテレビやネットの情報の中で興味のあるものに集中し、知らず知らずのうちに自ら洗脳状況に陥ることがある。この場合、誰が洗脳を企図したか、という問題は無意味になってしまう。そうして洗脳状況が現代にはびこり始めているのを、ドイツのネオナチズムに陥る若者や、アメリカに於けるQアノン現象に見ることができる。ここにネットの自由性とその弊害が端的に表れていると見ることができるだろう。そしてその原因が、①国民の孤立化・②ネットの自由性・③社会の監視体制の不備、などにあることは明らかであり、これを検討してみる必要があると思われる。

  まず最初にドイツにおけるネオナチズムの復活について見てみよう。これはメルケル首相が100万人以上の難民・移民を受け入れたことから始まった。そもそもメルケルがこうした政策を採った理由の1つに、第二次世界大戦におけるドイツ・ナチズムの民族差別政策への反省があった。彼女は率先して他民族国家を目指すかのように、大量の移民を受け入れたのである。そしてこれは労働者不足解消という経済的・政治的理由を含んでいた。だがこれは失策であった。まず第一にヨーロッパ各国に移民に対する反発が巻き起こり、EU内部の分断の切っ掛けになった。第二にドイツ国内においても移民への反発から、ナチズム回帰への動きとなって表れた。ドイツ国内には3万人規模のネオナチグループが存在し、そのうち1万5千人ほどは暴力的であるという。彼らはネットによって偏った情報のやり取りをするうちに、自らユダヤ陰謀論にはまっていった。

  アメリカでは「Qアノン」を名乗る不明人物が発した情報が陰謀論を拡散させ、いつしかQアノングループが形成されていった。彼らもまた、ドイツの若者と同様、あることないことを全て真実だと受け取り、資本家による陰謀論というものにハマっていった。その背景にはドイツと同様、自分達は移民や非白人に生きる権利を奪われているという被害妄想がある。ドイツの場合はそれが反ユダヤ人という特殊化に偏っているだけであろう。そしてそれらのフェイクに騙される若者に共通するのは、自分自身のアイデンティティを社会に見出すことに失敗した敗者思考である。彼らはそれをドイツの場合は「ドイツ人」に、アメリカの場合は「白人」に求めて、民族主義というものが形を変えた「陰謀論」に行きつくのである。

  ネットの自由性がこれに拍車を掛けている。発信者が特定されないことを利用して、不満分子は言いたい放題の嘘や誇大情報を拡散させ、それが一種の「ムーブメント(流行)」を惹き起こす。一旦広まり始めると、数十年はその影響が残るため、世代特徴となって後世に残る。日本ではネットによるものではないが、戦後の左翼思想の流行が現在になっても共産党の支持率に表れており、左翼崩壊を見たことで現在はネットによる悪しきムーブメントは起こりにくい。反って若者の方が戦後世代より健全な情報を持っていると思われる。ネットが自由であっても、背景さえなければ人はそれほど影響は受けにくい。だがいつの時代にも貧困・孤立などの背景が存在するとすれば、ネットの自由性は弊害となる。

  社会の監視体制の不備という問題が今日明らかになりつつある。というのは、IT技術の発展により、中国はかなり優秀な個人情報管理に成功していることが分かってきたからである。欧米先進国は個人情報に関してかなりイデオロギーによって偏った価値観を持っているため、個人情報管理には慎重であり、中国のような全体主義に基づいて大胆で突っ込んだ情報収集はしていない。せいぜい監視カメラを要所に設けるくらいのことしかできないのである。そもそもインターネット自体が匿名性の高いものになっており、ハッカーやサイバー攻撃者はその利点を大いに生かして荒稼ぎしている。もしネットが発信者特定機能を有していれば、今日のサイバー攻撃のような事態はほとんど防げていたであろう。そしてネット上に溢れているフェイク情報もあらかた掃除されてしまうことであろう。

  日本では出版物の中の、子どもに悪い影響を与える本などを投函して処分する社会的運動が行われている。これは自主的なものであるので効果のほどには疑問があるが、良い社会的影響を与えている。同様にネット上の情報を、ユーザーが全て評価できるようになれば、その中の排除すべき情報も特定できるようになり、そのような悪しき情報を発信し続けている人物も特定できることになる。だがそれが一切できない現在の状況では、人は知らず知らずのうちにネットに洗脳される可能性が大きい。既にメディアは日本でもアメリカでもかなりイデオロギーに偏ったものになっており、そのメディアが発信するニュースや番組なども偏向したものになっている。ネットもいずれはそうなる可能性が大きい。その場合、政府がそうしているのは中国や北朝鮮など独裁国家だけであり、日本やアメリカなどはメディア自体が偏向していることで情報も偏向されている。そのうち国民自身が偏向してくることで、ネットも偏向されるようになるであろう。既にそのことが起こっているのかもしれず、ネットの「発火・爆発」や「非難の炎上」などはその現象であろう。

  公的メディアとされるNHKが、日本語を使わずにわざと横文字を使ってニュースを際立たせようとしているのは許せない。最近起こった19歳の女性誘拐事件では、薬の過剰摂取を「オーバードーズ」という若者言葉で表現した。これは流行を新たに作り出す可能性があり、単なる「過剰摂取」事件として表現すべきであった。NHKは言葉のクリエーター(創造者)を自認しているのかもしれないが、新しい横文字、新しい外国の個人名の呼び方をしょっちゅう使い、国民を惑わせている。NHKも、視聴率を最大価値としている民放と同じ姿勢を取っており、国民を善導しようという善なる動機で番組やニュースを制作しているわけではない。このような忖度放送局は未来世界では廃されることになる。

  以上の議論をまとめると、「洗脳」という現象は、意図者と被験者があると思われがちであるが、実は自分自身が自分自身の洗脳を行っている場合が多く、また良い洗脳と悪い洗脳というものもあり得るのである(20.11.28「教科書による洗脳は是か非か」)。若者が洗脳状況下にある場合、その責任は勿論本人にあるが、原因は社会的背景が大きい。それを改善するには、個人を孤立させないことが最も重要であり、そのためにも全体主義に基づく共同作業・共助・監視が重要であり、監視も悪い意味ではなく、個人の状況把握と言う意味で考えれば、必要なことだと分かるであろう。動けない身障者や独居老人の無事を監視するためのプライバシーを侵害しない程度のセンサー監視などはその一例である。犯罪を特定しやすくする街頭監視カメラも良い働きをしている。未来世界ではネット上での活動も監視対象となり、良い発信をしていれば人格点が上昇し、悪い発信や有害な発信をしていれば人格点が下げられる、という方法でネットの健全化が図られる。そうすればネットによる洗脳という事態は決して起こらないであろう。


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