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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

オリンピック施設の有効利用

2021-07-29
  近代オリンピックは各国の国威発揚のために行われた観があり、その施設が莫大な国家予算を用いて造られるにも拘らず、その後放置されることがあるという。その実態はほとんど知られなかったが、7月27日のニュースの中にその実情を写真で報じたものがあった。Business Insider Japanが報じたものであるが、34枚の写真には無残な姿の現状を示すものが多い。大会後暫く経って再修復されて用いられているものもあるが、多くは一体何のためにこのような施設を造ったのだろうかと疑問を持たざるを得ない。勿論、一国がオリンピックを開催するために国費や自治体費を掛けて建設したのであるが、なぜその後の使用計画をきちんと立てなかったのかを考えると、現代の人類のやっていることとの相似性を想わざるを得ない。

  最初に出てくるのは国威発揚オリンピックの代表である1936年ドイツオリンピック(ナチズムの宣伝)で使われた選手村・プールであり、この直後の1939年からドイツは第二次世界大戦を開始しているため、オリンピック施設はそのまゝ廃墟となっている。競技どころではなくなったからであろう。敗戦後の復興を経ても再利用されていないようである。
1936年ベルリン五輪選手村 Maja Hitij/Getty Images
  1996年の夏季五輪のアメリカのアトランタ大会で野球競技などに使われた「アトランタ・フルトン・カウンティ・スタジアム」は、1965年に建設されて使用されてきたため、大会終了後に爆破解体されることに決まっていた。カウンティ・スタジアムはおよそ31年の耐用年数であったことになる。
爆破解体されるアトランタ・フルトン・カウンティ・スタジアム。 Reuters
  山中の自然の中に残された廃墟も多い。1984年の冬季五輪はユーゴスラビアのサラエボで開催されたが、スキージャンプ会場やボブスレー競技施設は残骸となっている。だがMBXレーサーは格好の練習場として利用している。10年後にボスニア紛争が勃発したことも大きな要因である。
サラエボ冬季オリンピックジャンプ台 Dado Ruvic/Reuters
  最もひどいのは2004年の夏季オリンピックを開催したギリシャであり、当初予算を16億ドル(現在のレートで約1760億円)に設定していたが、実際はこれを150億ドル(同1兆6490億円)近く超過したと言われており、大会後は大半の建物やスタジアム、コースはまったく使われていないという。
ギリシャ・アクアティックセンターのプール Yorgos Karahalis/Reuters
  ギリシャの財政が何時頃から悪化していたのかは分からないが、2009年10月に赤字財政の隠蔽が明らかになり、金融危機が発生している。ギリシャは2010年から2018年まで、トロイカ(IMF・欧州委員会・ECB)から金銭支援を受ける羽目になった。この経緯から見て、オリンピックが国家財政を逼迫させたことは明らかであり、国家が国威発揚のためや、政治家らやトップが自分達の政治的立場を有利にしようと無理な計画を立てやすい。それがオリンピック発祥の地と言われるギリシャに悲劇をもたらしたと言えるだろう。これにはIOCも大きな責任があり、近代オリンピックの第1回大会は1896年の春、ギリシャのアテネで行なわれたが、それから108年後の第28回大会が再びアテネで行われたことは、IOCが強調する「オリンピックが生まれ故郷に里帰りすることになった」という意義以上に、無理な計画になったということに大きな問題が残った。

  以上の事例を鑑みて、筆者はオリンピックの全世界共催を提案した。そうすれば財政にそれほど負担にならず、開催国は名誉ではあっても国威発揚にはならない。施設の条件が開催条件を満たしていれば、再使用施設や常設施設でも構わないことになる。そしてそれぞれの国の国民だけがその競技を応援し、選手と関係者だけが世界から集合し、全世界はネット中継でそれらの競技を応援することになり、エネルギーの節約も最大化できる。もし施設を新たに造るにしても、その後の需要を十分に満たす程度のものにすべきであろう。総合スタジアムの観客数の最大は3万人程度にすべきであり、それは未来の人口減少を勘案した規模である。飽くまでも国内での各種競技の観戦者の最大人数を考慮すべきである。

  ついでにスポーツ全体の考え方について触れておこう。未来世界では渡航に伴うエネルギーの消耗を防ぐために、原則として他国への旅行は禁止される。その必要がある場合の例を挙げると、①環境問題研究・②地球規模地質学調査研究・③地球規模生態学研究、などがあるが、他の政治的会合やビジネス的会合の全ては禁止される。現代のホームワークで証明されたように、ネット会議で十分だからである。特に政治的会合は不正な接待や密談が行われないためにも、直接会合は無くした方が良い。スポーツでも他国に行って試合することは、国家的・民族的優劣を比較することになり、国威発揚や愛国心高揚に利用される可能性が大きく、有害無益である。各国単位で良い競争が行われ、その成績を内部的に比較する分にはこの問題は発生しない。そのため成績の比較では個人的なものに留め、国家的比較はしてはならない。

  各種競技に用いられる施設は、最低限の条件を整えたものにすべきであり、耐用年数はおよそ100年とすべきである。そのため従来の鉄筋コンクリート造に工夫を加え、コンクリートの耐用年数を2倍にするようにする。未来の田園都市構想の地下構造物の耐用年数は500年としており、それは風化の問題を避けられるからであるが、地上施設であったとしてもコンクリート塗装やカーボンファイバー混入などにより、耐用年数を大幅に引き上げられる可能性は大きいはずである。また各種競技場はその競技にだけ用いられるのではなく、大規模集会や大規模セールにも利用されるべきである。筆者は30年以上前にアメリカに学生を引率したときに、野球場でフリーマーケットが行われているのを見た。有用な利用方法である。


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