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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

人類文明のエントロピー的解釈

2021-06-11
  エントロピーという古い物理学の概念は、ドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウスが1865年に唱えた熱力学の概念であるが、一時世界観を変えるほどの衝撃を与えた。だがそれはすぐにその意義を失い、今では物理学者でこの概念を用いる人はほとんどいない。それは信奉者がエントロピー(無秩序性の指標) というものを誤解したからにすぎず、自然界というものに正しく目を向けなかった物理学至上主義に陥ったからである。クラウジウスが間違っていたということではなく、信奉者が誤解したということであったようだ。だが最新の科学ドキュメンタリービデオにこの用語が出てきたことにびっくりした。今でも当時の衝撃波の残り滓を見たような思いをしたからである(「全地球史アトラス」)。現代では、前項で説明したようにイリヤ・プリゴジン(1917-2003)やエリッヒ・ヤンツ(1929年-)によって明らかにされたように、生命系では部分的にエントロピーが減少するということが分かっており、何の矛盾もないことは常識となっている。

  そのエントロピーという概念を、本項のタイトルに示したように人類文明と結びつけようとしたのは、面白い挑戦なのかもしれない。だが人類文明というのは生命系とは異なる「事象」であり、人類文明にエントロピーという概念が当てはまると考えるのは妥当であるとも言えよう。そのアイデアを以下で説明していきたい。

  エントロピー(無秩序の指標)は増大するというのがクラウジウスの導き出した結論であった。すなわち人類文明も無秩序化の方向に進んでいるということになる。それは正しい認識であろうか? 人類がこの世に生を受けて以来、人間は世界に秩序をもたらしたと考えるのが常識ではないだろうか? 一見するとそう観るのが正しいようにも思える。だがノムは、人間がもたらした知識に基づく技術や社会は、自然界の摂理には反した無秩序を促進してきたと考える。つまり自然界の摂理の一部分を破壊しているのである。一部分と言ったのは、自然界に生命系が含まれているからであり、生命系はこれまで独自の自己組織化を通じてエントロピーを減少させてきた。だが人間は生命系にさえ手を加えてその秩序を乱そうとしている。ゲノム編集技術がそれを可能にした。

  これまでの人類文明もまた、自然界の秩序を破壊してきた。「公害」というものを作り出してしまった日本では不名誉なことに、この「KOUGAI」という言葉が国際語になってしまった。筆者はこれが最も激しかった頃に青年期を迎えており、化学を履修したこともあってこの問題に取り組む機会を得た。だが自ら公害病に冒され、2年間ほど苦しんだ。だが予想したように公害は技術の向上で解決されたと思った。だがその時点で問題は既に地球環境問題へと変質していたのである。それから筆者の苦悩が始まった。それまでの学びの狭さを改めて感じ、政治・経済・歴史などの文系と言われる分野の学習が始まった。また自分の浅い理解を恥じることにもなった。その愚かさを繰り返したくはない。人類文明は確実にエントロピーを増大させてきたのであり、我々人類はそのことに気付いて人間が築いてきた物質文明を恥じなければならない(20.12.2「文明とは何か?」・3.15「物質文明から精神文明へ 」参照)


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