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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2021】

宇宙開発はグローバリズムを破綻させる

2021-03-19
  フランスの「ARTE France」が2018年に制作した番組『SPACE SMASH』をNHKが3月3日に『宇宙ゴミが地球を覆う』と題して放送した。この番組を見て、日本の宇宙飛行士が子どもらに語っていた夢は子供だましであることを感じた。宇宙は今や危険に満ちたリスクのある冒険の場であることを、宇宙飛行士らは何も語らなかったからである。そして2021年の現在、そして将来は、そのリスクは現代文明の破滅の予兆として現れるかもしれないことを予感した。さらにそれは現代のグローバリズムをも破綻させるかもしれない。既にコロナ禍によってグローバリズムは一時停止の状況におかれているが、物流・人流は止まってもまだ通信のグローバリズムは続いている。その最後の通信が途絶えたとき、グローバリズムは本当の破綻を迎えるだろう。そしてそれは時限爆弾のように、刻一刻と迫っているように感じられるのである。

  なぜそう考えるかというと、宇宙開発に伴って宇宙にばらまかれてきた宇宙ゴミ(デブリと呼ぶ)が、連鎖反応的に増大する可能性が高まってきているからである。1950年代の終わりから現在までに打ち上げられた衛星は1000を超えると言われる。そのスピードは時速27000キロというとてつもない速度である。小さな破片であっても致命的な破壊力を持つ。そのデブリは小さな破片を含めて100万個、その重量を合計すると7500トンに及ぶという。宇宙開発を始めた当初に、将来このような問題が生ずるかもしれないということを、誰も予知しなかったようだ。科学者ですら、開発の成功に酔いしれて考えようとしなかった。だが少なくとも2009年にデブリによる最初の衛星衝突事故(後述)が起きて以来、そのリスクは現実のものとして科学者の間に憂慮をもたらしている。

  最初の懸念はソ連が1967年から20年余りに亘って打ち上げた原子炉搭載の軍事衛星の一つであるコスモス954号が、カナダに落下したことで起きた。アメリカが最初にこれを指摘し、1971年1月にソ連に連絡を取り、2日後にソ連はこれを認めた。結局カナダ北部一円に散らばって落下し、多少の放射能汚染をもたらしたと言われる。これは衛星が一般市民にとっても脅威となることを教えてくれた。さらに1997年には米国のデルタ2ロケットの燃料タンクが燃え尽きずにテキサス州に落下するという事故が起きた。幸い被害は無かった。2001年には部品がサウジアラビアの首都のリアド近郊に、2011年にはソ連のソユーズの一部がカリブ海の島に、2013年にはテキサス州の民家の庭にロケットの残骸が落下。2016年には米国の民間企業が打ち上げたロケットの部品がインドネシアの建物を破壊した。これらは確率的問題であり、大して心配することではないが、宇宙でも同様の確率的リスクが増大している。

  宇宙開発や宇宙探査に伴って打ち上げられるロケットの数は今や年間100回に及び、それに伴って生ずる排煙の中の煤・アルミナ・塩素・亜酸化窒素によるオゾン層の破壊とデブリの増加が懸念されている。1983年に日本の観測隊によって報告されたオゾンホールは、その後の1987年のモントリオール議定書によるフロンガス規制により解決されたかに見える。だが2015年にNASAがこの問題は21世紀末には解消するとした見解が正しいかどうか危ぶまれている。2020年10月に南極で見られたオゾンホールは過去の2015年・2018年の大きさに相当し、南極大陸全域が宇宙からの電磁波バリアから外れたという。この問題は未だに先が見通せないため、今回は特にデブリの問題を番組から学んでみたい

  人工衛星は異なる3つの軌道に存在する。最も遠い静止軌道(GEO)と呼ばれる軌道は赤道上の36000キロ上空にあり、衛星は地球の時点と同じ速度で回っている。これは電話・テレビ・インターネット通信などに使われている。衛星同士の間隔は平均して60キロ。衛星は運用を停止すると、場所を譲るために残しておいた燃料を使って、軌道の外側に移動する。中軌道(MEO) は高度36000キロから2000キロの間にあり、GPSなどのナビゲーション衛星に使われる。ここでも機能を停止した衛星は他の空間へと移動する。低軌道(LEO) は高度2000キロ以下であり、最も多くのデブリが存在する。もし衛星が機能を停止した場合、落下させて大気圏で燃焼させる方法が取られる。しかし一部の衛星は制御できないこともあるという。それは公表されることが少ないが、原因は太陽フレアに伴って発生する強烈な電磁波によるものが多いようだ。人工衛星はこれに弱く、1年に10件ほど起こるという。故障すれば単なるデブリとなってしまう。

  2つの出来事がデブリの状況を一変させた。1つは中国が自国の衛星攻撃能力を誇示するために、古い気象衛星をミサイルでわざと破壊した2007年の事件であった。もう1つは、2009年にロシアのコスモス2251号が突然制御不能に陥り、同じ軌道上にあった米国のイリジウム33号と衝突したのである。7cm以上の破片が1000個、それより小さいデブリはそれ以上であったという。2010年には合計で17000個に達したという。皮肉にも悪の枢軸と呼ばれる中国とロシアがこの2つの出来事を作り出した、ロシアの場合は悪意はなかったとはいえ、中国の場合は自国の能力誇示のために世界を危機に陥れる行為であった。

  各国がばらばらに統制もなくロケットを打ち上げるのは、通信衛星・軍事衛星・観測衛星などを宇宙に送るためである。それは1957年のソ連によるスプートニク1号の打ち上げから始まった。ソ連と米国は宇宙開発競争時代に入り、1969年の米国によるアポロ11号による月面着陸でピークを迎えた。その後はイベント的要素が少なくなったために、報道されることも少なくなったが、着実に打ち上げ回数は増えてきた。2019年は前年よりもわずかに減ったが、ロシアは回数を増やしている。そして宇宙空間に達するロケットは、第一段ロケットはそのほとんどが海に落下するようにしているが、第二段ロケット・そのブースターや燃料タンクは基本的には宇宙に残すことが多いとされ、少なくとも近年までは残してきた。また既に耐用年数を超えて機能を止めた衛星もそのまま残されることが多い。低軌道のものだけがたまに落下して燃え尽きる。燃え尽きない場合もあり、落下事故は上記したようにこれまでに何回も起きている。

  これらのデブリに加えて、ケスラーシンドロームと呼ばれている事態が起こる可能性が指摘されている。NASAのドナルド・ケスラーが懸念しているもので、10年に1度くらいの頻度で衛星にデブリの衝突が起こり、その結果生じた大量のデブリがまた次の衛星に衝突するという連鎖反応が起こる可能性が大きいのである。欧州宇宙機関 (ESA) が開発したアリアンロケットの打ち上げに伴って生じたデブリが10年後の1996年にフランスの軍事衛星スリーズに衝突した。スリーズは姿勢制御ができなくなった。もしケスラーシンドロームが起きたら、スマホやネット決済ができなくなる可能性がある。GPSなどが使えなくなれば、現代のグローバリズムにとって極めて憂慮すべき事態が起こるだろう。回復には数年掛る可能性もある。

  現代のロケット打ち上げはリスクを承知で行われているという。デブリとの衝突というリスクである。これは完璧に予測できないため、リスク無しという打上げは不可能なのである。その確率は2038年には20%になるだろうとされている。米国は1957年以来、宇宙監視システムにより予測を行っており、危険が予測される場合、衛星を打ち上げるNASAに警告する。ヨーロッパでは監視システムの導入が遅れ、1996年になってフランス国防省はグラーブという電波探知システムを構築した。ペン先ほどのデブリでも検出できるそうだ。だがこれは予想外の米中露の軍事衛星を探知した。その数は30にも上る。フランスはアメリカとの交渉で、デブリ情報を得た。大きさが10cm程度のデブリまで網羅している情報である。

  衝突回避の方法は地上からの指令で衛星の位置を少しずらす操作で行われる。宇宙ステーションISSでも1年に数回はこうしたことが行われている。2014年には5回に及んだという。37秒間エンジンを噴射させることもある。万が一衝突が避けられない場合、宇宙飛行士は地球に戻ることになっている。だがレーダーで検出できないデブリは何百万個も存在する。衛星やステーションをより強固が素材で守ることが求められている。超高速のデブリが衝突すると無数の破片が飛び散り、それがまた再衝突する可能性もあり、また生じた衝撃波が機器に影響を与える。1mmのデブリでも時速100キロの野球ボールに匹敵する破壊力を持つ。実験から少なくとも数層の外壁が必要なことが分かった。だが船外活動をする宇宙飛行士を守る方法はない。

  世界は宇宙デブリの脅威を減らすために、核不拡散条約をモデルに協定を模索している。だがこれには違反を取り締まる方法や罰則はなく、単なる紳士協定にすぎない。そこで各国は「汚染者負担の原則」に則り、自国の出したデブリを回収する方向に踏み出した。デブリを捕捉し、大気圏に放り込んで消滅させようという作戦である。だがこれは大きなものには有効だが、1cm程度のものには有効ではない。2002年に打ち上げられたEUの地球観測衛星エンビサット(8トン)は2012年に制御不能に陥った。バスほどの大きさがあるといい、この回収には目途が立っていない。

  アメリカ企業(ボーイング・スペースX等)によるメガコンステレーション構想というものがある。世界をブロードバンド通信可能にするというもので、882の衛星が投入される予定である。この数は現在稼働中の衛星の数に匹敵するという。企業は儲けだけを狙っているが、その後の宇宙ゴミ化したあとのことは考えていない。その原因はどの国もどの企業も競争しているからである(20.9.16「競争はいつ芽生え、何をもたらしたか? 」参照)

  世界が技術競争・経済競争に明け暮れている限り、この問題に解決はない。まして中国のように、意図的に衛星破壊実験を行うような不埒な国家もある。このままではいつか必ずケスラーシンドロームが起こり始めることは避けられず、それは未来世界をグローバリズムから技術的に遮断することになるだろう。すなわち、観測衛星や通信衛星というものすら打ち上げられず、もし打ち上げたとしてもデブリによる衝突でダメになる可能性が高く、余りにも高くつくことになる。いっそのこと世界をまたにかけた通信は止めて、天気予報も昔ながらの経験と感による方法しかなくなるかもしれない。世界通信は電波で可能であろうから、それだけはなんとか維持したいものである。

  人類は自らの生活や利便性を破壊するような宇宙開発という愚かな冒険は止めて、地上でささやかに平和に暮らすことを最優先すべきである。自然界に撒き散らされたゴミの大部分は自然界に戻るが、プラスチックだけは自然界でマイクロ化してほぼ永久的な汚染をもたらすだろう。そして宇宙のゴミはこれまたほぼ永久的に地球を回り続け、人類が宇宙に勇躍することを諦めさせるだろう。国家の威信を賭けて膨大な予算を投じて進められてきた宇宙開発は、こうして最終局面を迎えて終焉となるのであろうと思われる。子どもらに宇宙への夢を見させるべきではない。むしろささやかな幸せを地上に見出すことを教えるべきである。


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