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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2020】

ワクチン開発の問題点

2020-06-12
  このところ各国でワクチン開発が目覚ましい。特に中国は6件が人での臨床試験に入っており、アメリカの4件、イギリスの1件、ドイツの1件を抜きんでている。これまでの不活化ウイルスを接種することで人自身が体内に抗体を作るという方法ではなく、ウイルスの遺伝子の一部を接種し、抗体を作らせる新しい技術(DNAワクチン)が出てきたことで、開発が急加速化している。従来法に比べて早く、安く提供可能だという。
 
  アメリカのモデルナ社はわずか40日程度でワクチンの候補となる物質を作ることに成功したという。イノビオ社も別タイプのDNAワクチンを開発している。これは大量生産が可能な上、常温で1年以上保存できるというので、医療体制が整っていない国での供給も想定している。この開発の速さの背景に、遺伝子解析技術の進歩とAIの導入という2つの要因がある。これはSARS・MARESの経験により、従来1年掛かっていたものが1ヵ月程度で出来るようになった。だがまだ長期的影響などの問題については分からない。
 
  研究者の間で課題として挙げられているものに、抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれている現象がある。ワクチンがウイルスの感染や増殖を強めてしまう現象を指し、抗生物質に対する耐性菌の出現に似ているのかもしれない。この現象は動物実験で確認されている。ワクチンが普及すると、ワクチンの有効性の検証が困難になるという課題もある。これらの検証のために、現在ブラジルが壮大なワクチン実験場と化そうとしている。独裁的大統領の下では、試験場として国家を提供するのは合理的選択であり、費用も格安で済む上に、世界から称賛される可能性もある。
 
  最初に名乗りを上げたのがオックスフォード大学とアストラゼネカの合同研究チームであり、ブラジルの医療関係者など2000人に接種する計画である。他にもブラジルは何ヵ国かと提携してワクチン実証試験を受け入れている。
 
  また各国は自国のためのワクチン確保だけでなく、それを世界に輸出して儲けようという目論見もある。また政治的に活用して覇権を握ろうとしている中国のような侵略国もある。アメリカで10億ドルを投資して開発しているワクチンは3億回分がアメリカに供給されることになっている。国家同士のワクチン争奪戦が始まろうとしているのかもしれない。これは逆に言えば、開発に関係していない後進国や貧困国にワクチン提供が遅れることを意味する。それは人間界に於けるサバイバルゲームとなるだろう。
 
  中国の習近平はこのような世界戦略におけるワクチンの有用性を認識しており、6種類の開発で成功したものについて途上国に安く提供することを既に宣言している。これは国際社会での影響力(=覇権)を強めるという国家戦略を持っているからである。世界的に協調してワクチンを適切に流通させるという理想的なやり方は実現しないだろう。中国がコロナ禍を利用して逆に支援を武器に覇権を強めようとしたことで明らかなように、今度はワクチンを武器に覇権を強める動きに出ることを明らかにした。冷戦は貿易問題からIT覇権問題、そしてコロナ禍からワクチン問題へと拡大しようとしている。

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