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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

【時事評論2020】

ウイルスについての知識・その4

2020-05-29
  コロナウイルスについてはこれまで3回に亘ってその知見を述べてきた(3月30日「ウイルスに関する知見」・4月24日「ウイルスについての知識・その2」・5月5日「ウイルスについての知識・その3」)。本項ではいくつかの知見を新たに加えることにした。以下箇条書きにする。
 
  1. 1994年にオーストラリアでヘンドラウイルス感染症が発生した。ウマからヒトへの感染であったとされた。
  2. 1998年にマレーシアでニパウイルス感染症のアウトブレイクが発生した。ブタからヒトへの感染であった。
  3. シンガポールのデューク・シンガポール国立大学医学大学院のリンファ・ワンが、上記2つの感染症がどちらも果物を食べるコウモリが起源であることを突き止めた。ウマやブタは中間宿主(しゅくしゅ)に過ぎないと言う。
  4. 武漢ウイルス研究所の石正麗(女性:シー・ツェンリー)による雲南省・昆明の石頭(しとう)洞窟の調査によって、数百種類のコウモリ媒介ウイルスが発見された。大半は無害だが、数十種はSARSウイルスと同じグループに属する。シャーレ実験でヒトの肺細胞に感染が確認され、マウス実験でSARSに似た病気を引き起こした。
  5. 2002年11月に世界的に流行したSARSは当初ジャコウネコが感染源とされたが、上記のキクガシラコウモリ由来のコロナウイルスとゲノム配列が97%近く一致したことから、SARSのコロナウイルスもコウモリ起源であることが推測された
  6. コウモリには異なるウイルスが混在し、危険な新病原体が出現する絶好の場になっているという。
  7. コウモリ洞窟の近くでは野生動物商人でなくても、一般住民も感染することが確認された。
  8. 2012年の雲南省墨江ハニ族自治県の調査では鉱山の坑道に棲むコウモリが6人の鉱夫に肺炎に似た疾患をもたらし、2人が死亡していたことが分かった。この坑道では6種のコウモリから多様なコロナウイルスが見つかったが、疾患の原因は糞石(グアノ)に棲み付いていた真菌であった。
  9. 2015年に行われたコウモリ洞窟に近い4つの村の200人の調査では、SARSウイルスと似たコウモリ由来の抗体が6人から見つかった。無症状だが過去に感染したことを証明するものである。
  10. 2018年にシーら(上記4.)の研究チームは、専門誌にコロナウイルスに関する包括的なレヴュー論文2篇を発表し、「コウモリ媒介コロナウイルスのアウトブレイクの発生」を警告した。
  11. 2019年11月17日に湖北省出身の武漢海鮮市場で働く55歳の男が新型コロナウイルスによる新型肺炎の最初の症例であった可能性がある。
  12. 2019年12月30日に武漢ウイルス研究所に新型肺炎患者の検体が届く。所長の王延軼(女性:ワン・ヤニュイ)は上海にいる部下の石正麗(女性:シー・ツェンリー)にすぐに連絡し、「すべてを投げ打って、すぐに取り掛かってくれ」と調査を依頼した。石は直ちに列車に乗り、研究所に戻った。石は世界でも有名な"バット・ウーマン"と呼ばれているコロナウイルス研究者であり、中国国内の洞窟に棲むコウモリを調査してきた。今や世界トップの研究者である。王は所長でありながらこの分野では素人だった(【時事通信】中国・2月3日「中国生命科学界の権威が苦言」参照)
  13. 2020年1月1日に新型コロナ発生源の武漢の海鮮市場が閉鎖され、周囲が消毒されたが、内部は消毒されなかった。全体消毒は3日に始まり5日に終わった(2020年3月6日「武漢は一体どうなっている?」参照)
  14. 2020年1月7日までに、武漢の研究チームは、新型肺炎の原因が新型コロナウイルスによるものであると確定した。研究チームが調べていたキクガシラコウモリで同定していたコロナウイルスとゲノム配列は96%一致していた。この結果は2月3日付の「Nature」誌オンライン版に発表された。
  15. 2020年1月20日に中国政府は新型肺炎がヒトーヒト感染すると発表した。
  16. 2020年2月4日に武漢コロナウイルスの全ゲノム解析が「ネーチャー」に発表された。シーらが研究していた洞窟コウモリから採取したウイルスのいずれとも不一致であった。これは「研究上の取り扱いミス・サンプル廃棄に関するミスを否定する証拠となった」とシーは主張する。
  17. 中国政府は2020年2月24日に、野生動物の消費・売買を恒久的に禁止した。
  18. 2020年3月31日:この時点でウイルスは大きく変異していなかった。人の接触がパンデミックをもたらした。
  19. 2020年4月8日に武漢の封鎖は解除された(4月8日「中国が武漢開放・壮大な実験が始まった」参照)。
  20. 2020年5月:『日経サイエンス』のウイルス変異の変遷による追跡記事によると、武漢コロナは中国で動物から人に移り、中国国内で人から人にうつり、中国から国外に移動した人によって世界に広がった。人への感染の始まりは報告より早く、2019年10月9日~12月20日の間、恐らく12月4日だとしている。クルーズ船・ダイヤモンドプリンセスのウイルスは米国経由の単一系統である。イランが最も早くから中国からウイルスが入り込み、それが米国・英国・オーストラリアに広がったと考えられる。アメリカへの感染はたった1人の感染者から広まった可能性が大きいという。イタリアへは少なくとも2人ないし3人から持ち込まれた。
 
  以上のことから、単一のコウモリに多数のウイルス株が感染し、これが新たなウイルスを生み出していることが推測された世界全体でコウモリには5000種を超える未発見のコロナウイルス株が存在すると推定されている。コウモリ由来を含めて、20世紀には人類が経験した約500種の感染症の事例がある。過去30年をみても、ヘンドラ・ニパ・マールブルグ・SARS・MERS・エボラ出血熱、そして今回の武漢コロナがあった。人類が人口密集・採鉱場の建設・森林伐採・農地拡大を続けて景色が変わっている場所での多発の傾向があるという。これからは野生動物の多様性が最も大きい開発途上国がウイルスと闘う最前線になるという予想がされている。これらのことから、武漢コロナウイルスはその祖先が過去に1回だけ人に感染し、その後多様化したことが推測されるという。最初の感染は軽度の症状であったが、多様化により重症化している傾向が見られる動物媒介ウイルスのほとんどが周期的に再出現するという今後さらに強力な感染力、もしくは致死率の高いコロナウイルスが登場する可能性が高い

 
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