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【時事評論2020】

中国の世界制覇戦略に見る「孫子の兵法」

2020-05-28
  中国の兵法を記した『孫子』と呼ばれる書は、紀元前500年ごろの春秋時代の軍事思想家・孫武の作とされる兵法書であるが、その思想が戦争を避けることを目的としていながら、世界でも最も戦争を知り尽くした戦略本であることは皮肉と言うしかない。孫武は、勝敗は運ではなく人為によるものであることを明かし、勝利を得るための指針を理論化した。そしてその戦国時代の理論を現代の中国の中共政権は忠実に守ろうとしている。だがそこには大きな矛盾があり、そもそも前提が間違っているのである。
 
  中国が共産化された毛沢東の時代から、その戦略は中国の伝統に倣って「孫子の兵法」から多くを学んだと思われる(20.7.19「中国の兵法書「三十六計」に見る闘争の歴史 」)。それは平和の時代を迎えたと思われた第二次世界大戦後になっても全く変わっておらず、むしろはっきりと表れてきたように見える。『孫子』は戦略本としては完璧なものであるが、ただ一つ欠けているのは平和を構築しようという意図や方法が見えないことにある。冷徹な理論に基づいて敵(現代中国にとってはとりあえずアメリカ、将来は世界)に勝つためにはあらゆる手段を取ることを可能としており、それを現代中国は誤って解釈した(22.1.24「【時事短評】小池都知事の「孫子の兵法」の解釈間違い 」)
 
  「作戦篇」では戦争準備計画について述べられている。それを現代中国はまさに着々と進めていることは明らかである。だが現代の戦争は最終的に核戦争にならざるを得ず、それが起これば中国という国家が残るかどうかさえ危うい。つまり古代の戦争と現代の戦争の本質を見誤っている。現代では侵略戦争は起こしてはならないものになってしまっていることを中国は悟っていない。
  「謀攻篇」では戦闘に拠らずに勝利を収める方法が説かれる。中国が南シナ海を実効支配し、尖閣諸島をじわじわと実効支配に持っていこうとしているのはこの兵法の原則に従っているからである。中国にとって武力でベトナム・フィリピンなどを武力で制圧するのは簡単なことだが、世界世論の反発を恐れて実効支配・経済支配という遠回り作戦で勝利を収めようとしている。2019昨年6月、中国共産党のシンクタンクの社会科学院のガオ・リンウェンが「米国に適確に反撃せよ」と題して、「米国が中国のサプライチェーンに依存している産業分野を注意深く洗い出し、米国経済の最も弱いところを拳で続けざまに打って締め上げよ」という戦略論を述べた。非常に悪意に満ちたものであるが、中国ではこのようなことを平然と言ってのける雰囲気がある。まさに「孫子の兵法」を用いて世界を混乱に導こうとしているのである。
  「軍争篇」では敵軍の機先を如何に制するかについて述べられているが、現代中国は「一帯一路」でアメリカの機先を制した。あとは自然に中国を支持する国を増やすだけの作戦で武力の劣等を補おうとしている。またすでに世界的なサイバー攻撃力でアメリカを圧倒し、軍事衛星によるサイバー先制攻撃で勝利できることを確信している。アメリカには大義的に言っても無予告先制攻撃はできないからである。
  「九変篇」では状況に応じて臨機応変に作戦を変えることが述べられているが、中国は敵の攻撃(アメリカの貿易戦争の仕掛け)に対して表面的には大々的に報復を唱えながら、裏では譲歩・和解を排除していない。面子が保てればどんな譲歩もするだろう。だが交渉によってトランプ相手に勝利する勝算は今のところない。
  「用間篇」では間諜(スパイ)を用いて敵情偵察の重要性を説いているが、それを正にファーウェイという民間企業を用いて体現しようとしている。創立者が人民解放軍の防諜技術者であるから、それは難なく可能であった。アメリカは愚かなことに、その国家戦略に気が付かずにファーウェイの脅威を見逃していた。トランプがそれに気づいて抑止を図っているのは賢明である。だが既に遅かった。ファーウエイは商業という隠れ蓑を用いて世界80ヵ国に進出して情報を一手に握ろうとしている。アメリカはファイブ・アイズという5ヵ国が連携した防鳥網しか持っていない。
 
  中国がコロナ禍を切っ掛けに世界から疑惑の目を向けられ始めたのは、その行動・発言、全てに誠意というものが感じられず、都合の悪い事に平然と非常識な言い訳をしているからである。中比の係争案件であった南シナ海領有権問題で、国際仲裁裁判所判断を「紙くず」と無視したのはその典型例であろう。今回のコロナ禍では最貧国や先進国に対して援助をしながら、それに対する「感謝の強要」をした。どの国にもプライド(面子)というものがあることを考慮しなかったのは最悪の戦法であった。中国は「火事元が消防士・慈善家になった」ような態度を取った。世界は自分が被害者になることで中国の欺瞞的態度に気付いたのである。これは戦略的にも大失敗であった。
 
  中国は「孫子の兵法」に正しく学んでいない。その理由は中国が「中華思想」という世界制覇のイデオロギーを持っているからである。孫武は少なくとも国家の安寧・国民の安心を念頭に置いて戦略論を考えた。だが現代中国はそうではない。民族の誇りとする古代の戦略論を形だけ真似たために、世界の民の反感を買い、ついにはそれがいつしか中国を孤立化させる要因となり、経済的に封鎖されて衰退し、それが原因で内乱へと逆戻りするだろう。だがそうなる前に中国はアメリカに対してヤケバチの先制攻撃を仕掛けるだろう。
 
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