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【時事評論2020】

武漢コロナの治療法情報

2020-04-25
  武漢コロナがこれまでのウイルス禍より感染力が強いことが指摘されている。たとえばSARS(広東コロナ)と比較すると、ウイルス表面のスパイクタンパク質に特徴があると言われる。このスパイクタンパク質がヒト細胞のACF2と結合し、その結合強度はSARSの10倍に達する。このスパイクタンパク質が近縁のウイルスとは異なっていることが明らかにされた。そしてこのタンパク質がヒトの持つフリンという酵素によって活性化されるという。ウイルスは単純な構造であるため、宿主の機能をうまく武器に使うのである。
 
  このフリンと言う酵素はヒトの肺・肝臓・小腸など多くの臓器にあるため、武漢コロナは多数の臓器を攻撃し得るのではないかと考えられ、一部のコロナ患者に見られる臭覚障害・味覚障害もこのことから生じている可能性がある。一部の患者には肝不全も見られた。武漢コロナが特に肺に症状が顕著に表れているのは、これが接触感染・飛沫感染により経口的に感染することと関連している。侵入したウイルスの数が多ければ、それだけ発症リスクが大きくなる。
 
  だが武漢コロナは特に肺の深部が好きなようであり、そこに沈着して増殖を始めるようだ。ウイルスの増殖は段階的に増えていくという特徴があり、曲線的ではない。初期の段階では増殖の準備をしているようであり、増殖がいったん爆発的に階段状に増え始めると症状が現れる。つまり潜伏期間が長い感染が起きてから検査で陽性が判定されるまで約2週間のタイムラグがある。それは検査部位の鼻や喉にウイルスが上がってきていないことを示している。もし肺の奥のサンプルが採取できれば、感染のごく初期に陽性と判定することができるだろう。残念ながらまだそのような検査方法はないため、症状の出ていない感染者が多数存在することになる。
 
  だが重症化率はそれほど高いわけではなく、まして死亡率はかなり低い(前記事参照)。発症しても通常の風邪程度で済むことが多いので過度に心配する必要はないだろう。ただ重症化するケースがあるのには、免疫システムの暴走が関連しているとの研究がある。「サイトカインストーム」と呼ばれるもので、免疫細胞が他の免疫細胞の援軍を呼ぶために出す情報伝達物質のサイトカインが異常に大量に放出され、重度の炎症が発生することを指す。これはアレルギーと同様免疫異常の1つである。
 
  治療法の1つにこの情報伝達物質の1つであるインターロイキン6(IL-6)を阻害する方法が考えられている。中国でもこのIL-6阻害薬の「トシリズマブ」を治療に用いた事例があるが、日本でも「サリルマブ」の治験が開始されている。勿論ワクチンが開発されれば朗報である。通常のワクチンはウイルス粒子を不活化するか、ウイルスの表面のタンパク質を遺伝子工学的に大量生産して精製するかという方法で作られるが、近年これら抗原となるウイルスタンパク質の遺伝情報をコードしたmRNAを直接体内に投与する「mRNAワクチン」も開発され、治験がアメリカで行われている。
 
  他にもヒトの細胞表面にあるTMPRSS2というタンパク質分解酵素の働きを阻害することで、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐ特効薬「フサン」はMARS(中東コロナ)で効果が証明されており、同じ効果が細胞実験で確かめられている。東京大学教授の井上純一郎らがこれに注目している。アメリカの「レムデシビル」や日本の富士フイルム富山化学が開発したインフルエンザ向けの「アビガン」も注目されている。予想よりも早くこれら特効薬やワクチンが実用化される日が来るであろう。
 
  だがワクチンが万能というわけではない。健康な大人に効くワクチンが子どもには効きにくいということもある。マラリアのワクチンでは成人の30~50%に効果があったにもかかわらず、生後6ヶ月以下の乳児には効果が少なかった。現在開発中のワクチンも、重症化し易い高齢者に対しても効果があることが望ましい。これはワクチンに加えられる補助剤(アジュバント)によって変えられる可能性がある。全年齢層に効くワクチンの開発が期待されている

 
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