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【時事評論2020】

教科書による洗脳は是か非か

2020-11-28
  香港政府は26日、高校の必修科目で、教師と生徒が社会問題を議論する「通識科」を縮小し、中国人としての意識の養成を重視する内容に変更すると発表した。これまで一国二制度の下で民主的な教育が行われてきたが、香港を独裁的に支配する林鄭月娥が9月1日に「香港に三権分立はない」と中国に帰属することを鮮明に打ち出し、習近平が10月14日に「香港・マカオ一体化」を宣言してからは、法律の改訂や教育内容の改訂を急速に進めてきた。全て中国政府の指示によるものと思われるが、特に教育において愛国・自国の発展を強調することによって、中国と一体化することにより世界制覇の準備を始めたと思われる。
 
  あいにく中国の教科書については情報を知らないが、香港では中国化を進めていることから、香港の教科書の変化を見れば中国での教育の実態も分かるであろう。なぜジャーナリストが中国の教科書の実態を伝えないのか不思議である。それはともかく、教科書は青少年をどのようにでも訓育できることから、ある意味での洗脳に用いられる。洗脳が良い方向に行われればそれは正しいとされるが、悪い方向に行われればそれは世界からみて邪悪なものとされるだろう。中国の愛国教育は中共政権にとっては必然の良い教育と位置付けられるが、他国や他民族にとっては人種偏見・国家偏見に基づく自国優越思想と受け取られることは間違いない

  追記事項になるが、2023年8月25日のNHKニュースで、ロシアが国定教科書を公開したことが報じられた。記事によると、ロシアは国定教科書を作成し、特別軍事作戦の章を設けて自国のプロパガンダを正当化し、実際には戦争であることを侵攻から1年半経っても未だに認めておらず、子どもらの頭を洗脳することで、既成事実化を図った。この教科書の具体的内容にまでは触れていないが、恐らくウクライナ占領地域はロシア領として塗りつぶされているだろう。たった1年半で歴史が、少なくともロシア国内では改ざんされたことになる。戦争とプーチン支配の長期化が予想されていることから、この教科書で育った子らは、ロシアにおいて長く問題世代とされるようになることだろう。
 
  本項では教科書教育は洗脳教育なのか、という問題と、それは是なのか否なのかという問題を考えてみたい。そもそも人間は言葉を習得して初めてヒトから人になる。その言葉は幼児期には主として話し言葉から覚えるが、その時にどのような言葉を聞いたかで将来が決まると言っても過言ではない。上級社会で育ったお坊っちゃん、お嬢ちゃんは丁寧で上品な言葉を覚え、それは性格にも反映する。下町で育ったガキや姉ちゃんは野卑で乱暴な言葉を覚え、それが行動にも出る。だがどちらが良いかという善悪はこの段階では判断できない。それはその後の正式教育によって大きく左右されるからである。学校に入ると正規の教育を受けるが、各国で歴史の扱い方はまるで異なる。ほとんどが自国を誇りに思わせる愛国的要素をもっており、それは時に偏見や自国偏愛に結びついてくる。だが客観的な歴史というものは非常に難しく、視点によって歴史はどうにでも表現可能であるから、国家主権というものがある限り、その国に都合の良い解釈がされるのは当然であろう(筆者は国家主権そのものを良くないものと考えており、国家の勝手な歴史解釈も良くないと考えている)。
 
  その意味で教科書は正規教育による洗脳教育である。ただ教科書以外の書物によって、他の見方や見解を知る機会があれば、それは洗脳とは呼ばれないのが通例である。つまり洗脳とはただ1つの見解や解釈だけを叩きこまれて、それ以外のものの見方を教わらない場合をいう。だが勉強をしない子の多くは教科書以外の本を読むことをしないため、国家の洗脳状態のまま大人になることが多い。ナチスのヒトラーユーゲントはそうした教育を受けた典型的な洗脳された少年・少女であり、最後までヒトラーに忠誠を尽くした存在となった。現代の中国でそれとほぼ同じような教育(愛国教育と称している)が行われていることから、これから中国の世界制覇を担うのは現代の中国の若者層となるだろう。中国は資本主義を取り入れた修正社会主義であるため、中国にとって不都合なことに情報がネットを通じて諸外国から入ってきてしまうということがある。現在は不都合な文言だけを削除したり、サイトを消去したりする手法でそれを防ごうとしているが、それでは若者の好奇心を完全に防ぐことはできない。だが幼少時から愛国教育を受けた青少年は、大人になっても諸外国の情報を忌み嫌うようになり、拒否反応を起こすことで洗脳状態が続くことになる。中国が愛国教育を強調しているのは、中国にヒトラーユーゲントと同じような愛国青年を作り出したいからである。北朝鮮はもっと徹底した情報管理を行っており、諸外国からの情報はほぼシャットアウトされているため、あの国には密告制度や粛清があることもあって反乱は今のところほとんど起きていないようだ。国民は自分の周りの事しか知らず、それが彼らにとって世界となっている。これは未来世界を考えるときに、参考にすべきことであろう。
 
  中国の愛国教育は中国の立場・考え方からすれば当然のことであるが、諸外国はそれをかなり警戒しているはずである。それが今回香港での教育改革に対する批判となって表れた。だが本来は中国本土の愛国教育の実態を把握して、それを批判すべきなのである。つまり中国にとっては愛国教育は当然のことで他国にそれを批判する権利も資格もないと中国が主張することは正しい。だが敵対関係にある国が、その敵である国の教育に問題があると考えてそれを批判する自由があることもまた間違いないことである。それは世界的基準ともなっているアムネスティ(世界人権擁護団体)の判断でも同様な判断を下すであろう(まだ直接的に中国の愛国教育を批判してはいないようだ)。
 
  以上の議論から分かる事は、教育内容の是非はその国の立場によって変わるということであり、国家同士が仲が良ければお互いに教育内容や教科書を批判しないが、仲が悪ければ必ず批判が起こるということになる。その典型は日中韓教科書問題に表れており、日本の教科書を中国と韓国が官民挙げて一方的に批判した。日本が中国・韓国の教科書を批判したことは民間で一部にあったにせよ、ほとんど無かった。それは日本の公正さ・正当性を端的に証明している。だが筆者としては攻撃を受けた場合に反撃をしないということは生物の生存競争原理からしてもおかしなことであり、日本が無抵抗主義を貫いているということでもないことから、日本の軟弱さから出てくる卑屈なまでの自己抑制によるものであると観ている。よく言えば日本は大人であり、中国・韓国が小人であるということなのだろうが、そうは見えない。
 
  未来世界でこの問題をどう考えるかを披歴しておこう。未来世界では幼児からの家庭教育・集団保育教育・少年になってからの正規教育・青年になってからの追加教育(大学・大学院)を非常に重視しており、国家予算のかなりの部分を教育に充てることになるだろう。それは中国の愛国教育と似たようなものになるが、自国だけを称揚するようなものではなく、地球という惑星の貴重な存在や人類とその組織である連邦・国家を称揚するという、より高いレベル・視点による「感謝教育」(自分の存在が許容されていることを感謝するという意味)が推進されるだろう。一方、人類が地球にとって癌と同じような厄介者になっているという科学に基づいた事実も説明される。つまり価値観がこれまでの教科書とはまるで異なるものになる。事実を学びながらも人間が生かされていることへの感謝を徹底的に教育することで、成人してからも紛争を起こすことはなくなると思われる(未来世界には戦争はない)。未来教育では知的産物よりも労働による貢献の方が高く評価されるかもしれない。知的産物が革新・革命をもたらすとすれば、それは反って忌み嫌われる可能性がある。改善は推奨されるが、改革は慎重に長い年月を掛けて徐々に行われることになるだろう。すなわち、未来教育においてはシステム(家庭・職場・社会・世界)の安定性を如何に保つかということに全てが集約されることになるだろう。

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