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【時事評論2020】

囲碁のAIに学ぶ(1474文字)

2020-11-02
  囲碁にAIが取り入れられて間もなくの2016年、予想ではプロに勝てるのは10年先だと予想されていたにも拘らず、ディープラーニングが取り入れられたことで、あっという間にプロの棋士を打ち負かし、韓国のトップ棋士であったイ・セドル九段は前途を悲観して囲碁世界から撤退した。その後、AIに何のデータも与えずにAI同士で学習させた結果、「アルファ碁ゼロ」というアプリは百戦百勝を誇るようになった。プロの棋士らはAIの手を研究し、従来の定石に捉われないAI的打ち方をするようになり、囲碁界に画期的革新をもたらした。だがAIの手を研究しながらも、人間が築いてきた定石を大切に守ろうとする棋士もほんの数人ではあるがいることは確かである。「平成四天王」の一人である羽根直樹はその代表的一人であると言われる。それは筆者からすると非常に賢明なことであるように見える。そして囲碁界の流れを観ていると、プロがよく「これは人間的な打ち方・これはAI的な打ち方」と評することが多くなってきたことに気が付く。
 
  人間的な打ち方の特徴は、現在争っている場面での最適手を選ぶ傾向が強いことである。盤面全体を見ていても、やはり定石的な打ち方になることが多い。つまり勝敗がまだ分からない時点での最適手というものを選択する場合、その部分的な最適手が好まれるのである。一方AIの打ち方は、絶えず数億手を読みながら最終的な勝率を計算して最適手を探しており、その手がとんでもない所に打たれたとしても、人にとっては意外であってもAIにとっては合理的判断だとされる。そのためしばしば定石とされる手を手抜いて他の場所に打たれることも多い。だが数億手先を読めない人間がその真似をしても失敗することが多い。意外な手を打ったあとの継続手を間違えるからである。ただ観戦者からするとその妙手が打たれることで予想のつかない展開が出てくることから、面白みははるかに以前より増したといえるであろう。
 
  人間世界の着手(政治的決定・政策決定・全ての人間の決定事項)についても同じことが言える。トランプ流の予測のつかない決定の善悪を論じることは極めて難しいことである。彼の決定過程やその姿勢は間違っているにしても、その予想外の決定がそれこそ意外にも成功する確率は決して低くないと思われるからである。囲碁で言えば、誰も予想しなかった場所にAIが異手を打った場合、多くのプロが感心したり、その手の意味を探ろうとする。これが下手な碁打ちが打った場合には直ちに間違いだと指摘されて矯正されるのがオチだが、百戦百勝のAIが打つとそれが正しい選択だと評価されてしまうのである。よく井山裕太(当代トップ棋士)が対局している場面で解説者が、「井山先生が打ったのだから正しいんでしょうね」と解説することがある。実績がある人の選択は誰しもが尊重する。
 
  だがそれを素人が真似をすることは誤りであることは以上の説明で分かるであろう。AIの示す選択を人間が尊重するのは結構なことだが、それをそのまま採用するということに大きなリスクがあるということは紛れもない事実である。そうなると未来世界では多くの事柄を全てAIに判断させるということが起こるかもしれない。判断とその後の実行を全てAIに任せられればそれで良いかもしれないが、AIの決定を人間が実行すれば過ちが倍化されて還ってくる可能性が大きい。すなわち、未来世界でAIが全ての基準となるという考え方は成り立たないAIの判断を参考にして、最終的には人間が判断することが最善なのである。
 
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