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【時事評論2020】

人は状況に左右される(状況理論)(4052文字)

2020-10-25
  前項で触れた「状況理論」をここでさらに詳しく説明しておきたい。将来には本論文に書く予定になっているが、未発表論文としては完成していても、本サイトの論文はまだ未着手である(№021「状況理論」)。予定としてももう少し先になるであろう(*010「ノム思想・状況理論」)。だがいきなり状況理論を説明すると言っても、一般の人にはあまり関心が湧かないだろう。そこで本項のタイトルとしては「人は状況に左右される」と言う文言にした。
 
  人が情報などにより大きく影響される事例は世にあまた見ることができる。2016年のアメリカ大統領選挙において、投票直前の世論調査では僅差でヒラリー・クリントンが優勢であったが、直前にロシア諜報機関にトランプ側が介入を依頼したことで、クリントンに不利なフェイクニュースが巷に広がり、あっという間に両候補の支持率が逆転してドナルド・トランプが大統領に選出された。この不正はその後調査対象になったが、これにもトランプは介入してうやむやに葬ってしまった。日本では菅義偉が新首相になったが、安倍晋三が病気を理由に交替して間もなくの菅政権支持率は60%以上(読売新聞74%)であったが、日本学術会議問題をメディアが大々的に取り上げた結果、支持率が上がるはずなのに、NHKの世論調査によれば支持率が9月の62%から7ポイントも下落し、不支持率は7ポイント上がって20%になった。つまりおよそ7%の人がメディア操作により悪い方に世論誘導されたのである(10.10「人は状況に左右される(状況理論)(4052文字)参照)。「モリ・カケ・サクラ」問題も同様であり、全て左翼メディアによって悪い方向に世論誘導された。
 
  今回のアメリカ大統領選挙もそうした視点で見ると見ものであろう。バイデンがかなり優勢を保ってきたが、最終番になってバイデンと息子のハンターに重大疑惑が持ち上がった。だがバイデン支持の大手メディアはこれを報じておらず、ニューヨーク・ポストが最初に報じた。だがポストはそのニュースソースの信頼性に言及しておらず、確認もとっていない。第3回目の候補者討論会でトランプがこれを暴露したことで、大手メディアもこれを取り上げるかとおもいきや、やはり取り上げようとしない。かろうじてトランプ支持のFOXニュースだけが取り上げたようだが、このニュースの提供者がトランプの顧問弁護士のルディ・ジュリアーニであることが疑惑を呼び、FBIが捜査に乗り出しているとのことである。米国の情報当局は2019年末、ロシアがジュリアーニを利用して偽情報を広めようとしているとトランプに警告を行ったが無視されたという。近年はトランプが流行らせた「フェイク・ニュース」によってメディア界自体が混乱に陥っている。トランプ自身がフェイクニュースを乱発しているからである。こうした状況の中で、国民はどうしたら客観的姿勢を保つことができるのだろうか?
 
  人の行動を左右する状況には無限大の要素があるが、その中でも最も大きな影響を与えるものとして、①メディア情報(日本で言えば、NHK・大手新聞)・②メディアに影響を受けた人々の噂、がある。一部の若者はネットから情報を得ているために、これら大手メディアの影響は受けにくいが、筆者はさらに大手メディア以外のニュースソースを探すために、若者よりももっと客観的であり得ていると自負している。だがさすがに筆者といえども、ネットにすら載らない情報のことは知る術がなく、完全に客観的にはなり得ない
  このように人は情報に最も影響を受ける存在になっており、逆にいえば独裁国家が情報を独占して有利な情報だけを提供すれば、その国家の国民は簡単に洗脳状態に置かれるのである。一部の覚醒者が多国から客観的情報を得たとしても、それが国民に広く伝えられなければ意味がない。これも確率論的な影響に留まる。
 
  状況理論をもっと深く追求してみよう。筆者はこの理論を2011年に「状況論」としてまとめていたが、学問分野では19世紀頃から論じられていたものである。筆者はそれを知らずに独自の発想からこれを提唱した。そしてその後、NHKの番組でスタンフォード大学のフィリップ・ジンバルドー(Philip Zimbardo:1933年-現在)が1971年に行った「スタンフォード監獄実験」というものがあったことを知り、彼もまた筆者と同じ「状況理論」を唱えていたことを知る。ジンバルドーの実験では、真面目な普通の青年でも、特殊な環境に置かれると、暴力的・威圧的になり得ることを証明した。つまり「状況」が人間の行動に強く影響する可能性があることを証明したのである。これは筆者が実験をせずとも思考実験で考え出せたことであるが、さすがに実験で証明されたことは衝撃であった。だがジンバルドーの実験は非人道的だとしてアメリカ社会から糾弾され、彼はその価値に絶対的自信を持ちながらも世の中から排斥されて寂しい老後を過ごしている。
 
  筆者の考え方には特に非人道的な要素がないため排斥されるほどのことはないだろうし、無名であることから誹りを受けることから免れているが、一般の人に受け入れられるという自信はない。だがそれは極めて科学的であり、ジンバルドーの実験でも証明されたように事実に基づいている。状況を考えるには、①時代・②場所・③主体・④主体の内部状況・⑤主体の外部状況の5項目の考察が欠かせない。これは取材における、誰が・いつ・どこで・何をしたか、という基本的記述項目とよく似ているが、状況というものが人だけを対象にしているわけではないので、一般事象に拡大するためにこのようなまとめ方をした。人は明らかに状況(周囲の状況・その人自身の出自や経験、生い立ち)によって行動が影響されており、その影響度は人によって異なるが、状況と人の行動の間にはかなり高い相関があると考えられる。その影響度は要素ごとの確率・全体の確率として表現が可能であろう。
 
  状況理論は未来の予測にもある程度は使える。コンピュータによるシミュレーションでは単純な条件を与えて将来起こる事象を探るが、この条件を状況の一要素と考えれば、条件を複雑化することで、将来はAIによって将来予測がある程度の信頼性の下に得られるであろう。だが囲碁と同様、初手による布石ですら同じものが現れないのと同様、ちょっとした条件の差が無限大の結果を予想するため、最大確率の結果しか予想できないであろう。これを筆者は「状況理論の不確定性原理」と物理学の法則をもじって名付けた。未来は完全に不確定であり、どんな可能性もあり得るということをまず肝に銘じておかなければならない
 
  特に政治の分野や経済の分野では将来予測が重要である。そしてそこには歴史から学ぶ原理や法則が役立つが、それによって単純に確定できるようなものではない。断定はどのような場合にも禁物である。飽くまでも可能性として確率的に表現されなければならないことである。状況理論における初期状況には無限大の要素(条件)があるため、起こり得る事象もまた無限大である。だがそれは全て確率的表現が可能である。筆者が「第三次世界大戦は必ず起こる」と表現した場合、その確率は99.99%以上であると確信している。ではそれが2020年に起こる確率はと問われれば、現時点では20%程度に抑えなければならなくなり、2030年までに起こる確率を問われれば、90%と答えるのが妥当であろう
 
  状況理論では人だけの問題にかぎらず、世界・地球・宇宙にまで議論が及ぶ。現代はまだ地球の未来位までの知識しか人間は得られておらず、宇宙の未来については議論の最中である。だが人の場合や世界の場合についてはかなり確証が得られてきているにも拘らず、学者らは希望的観測しか述べていない。彼らはその真実を明かすことを恐れており、それによってジンバルドーのように学者生命が断たれることを極端に恐れている。そのために未来に関する検証をせずに、未来を直線的延長線上に置いて希望的で明るい未来を予測している。だが現代の人間が、ジンバルドーの監獄実験の「看視役」・「犯罪者役」に置かれていると考えると、人間が取る行動もある程度予測が可能になる。たとえば10%の人が煽情的に暴力行為に及べば、世界全体が不安定になって世界システムは崩壊するだろう。アメリカの状況は正にこのような状況に近づいており、自警団を組織しなければならないほど一部の治安が悪化している。もしこれが10%に及べばもう国家のコントロールは効かなくなり、アメリカという合衆国制度は崩壊するだろう。まだその確率は数%程度だが、もう少し進めば10%に達する可能性を否定できない。中国は独裁主義の強権によってこの不安定化を防いでいるが、国民の間に存在する政府への不信や懐疑はいやがうえにも増大していると考えるのが普通であり、それは国家の弱体が始まったときに顕在化してくる。遠い将来を考えれば、中国が崩壊するのも時間の問題だと言えるだろう。
 
  これまで人が100年後を想像してそれを当てた人はほとんどいない。特に近代以降の世界の変化は著しく、筆者も幼少期に、その数十年後にコンピュータなるものを自由に操作している姿を想像できなかった。現代の人々には将来を予測する知恵・知識・データも与えられているにも拘らず、100年後を10年後程度にしか予測していない。それは全くの誤りである。その意味で、筆者は常識論・科学論に立って未来予測をし、35年前から展望をしつつ警告も与えてきた。遅くなったのは残念だが2019年11月からはHPを通して世界に訴えている。だがそれに注目する人はまだ数百人にも及ばないのではないかと危惧している。このままでは未来に備えることも間に合わなくなる。だがそれもまた人類の運命なのかもしれない。

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