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【時の言葉】外出を控え、資源消費を減らそう(2022.6.20))

*003「地球温暖化による気候変動と動物大絶滅」(14532字)

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*003「地球温暖化による気候変動と動物の大絶滅」(2019.12.31起案・起筆・終筆/20.1.6公開/14532文字)


  地球温暖化という現代に現れた顕著な自然現象が人為的なものであることが常識となっています。ですが一方、諸説の中には頑としてこれを認めず、反って寒冷化の途上であると主張する者もいます。そのような主張がある限り、それに反証できるような知識と説得力を持つ必要があるだろうと思いました。本項で改めて本当に地球は温暖化に向かっているのか、そうだとすればその原因は何なのか、地球の周期的気候変動のサイクルからみて矛盾はないのか、などを検証していきます。また温暖化によって将来起こる事態についても予想していきます。

 

  地球の地軸は太陽に対して傾いています。また太陽を回周する軌道も真円ではなく、離心率(太陽からの距離の変動)が周期的に変化しています。自転に伴う地軸の傾きも周期的に変化し、自転軸は歳差運動と呼ばれる振れを持っています。これらの物理的変動によって地球への太陽の光線量(日射量:1m2あたりのワット数で表す)は変動し、それに伴って気温変動が起こり、また様々な自然現象の変動がもたらされています。最も顕著なことは地軸の両端に近い北極・南極では日射量が最も少ないことから極寒の地となっており、赤道に近いほど自転に伴って昼夜の区別がはっきりしていることです。これらのことに気が付いたのはセルビアの地球物理学者ミルティン・ミランコヴィッチ(Milutin Milanković、1879- 1958)であり、1920〜1930年代に、①地球の離心率の周期的変化・②地軸の傾きの周期的変化・③自転軸の歳差運動の3要素が地球の気候に影響を与えるという仮説を発表しました。彼はこの仮説に基づく計算式で北極や南極の氷床の規模の変化や氷河期や間氷期(温暖期)が訪れたりする年代を求めましたが、その精度はかなり高いものでした。現代ではこの仮説に基づく気候変動サイクルのことをミランコヴィッチ・サイクルと呼んでいます。離心率は10万年周期で変動しており、地軸の傾きは4万年周期で変動しています。自転周期の変動もあり、20億年前にはなんと20時間で自転していたのです。地球史ではこれらが作用して気温変動が激しく起こったと彼は考えました。だがこの仮説では説明できない変動もかなり存在し、現代の温暖化もその例外の1つと考えられています。

 

  太陽黒点は1940年頃から現在に至るまで、ここ1150年間で最も活動的であると考えられていますが、11年周期にある中では2020年に極小期を迎えます。黒点が発生するということは太陽活動が活発であることを示しており、その周期には11年周期・22年周期・87年周期・210年周期・2300年周期がありますが、多少のずれが生じることもあります。太陽定数と呼ばれる太陽から地球にもたらされる総エネルギーは、ほぼ2cal/㎠ですが、黒点の発生数に応じて多少の変動があります。


  太陽は内部の磁気流体力学的な動きとプラズマの凍結原理により発電機のようになっており、南北を貫く磁場(ポロイダル磁場)が数ヵ月単位の短時間で太陽表面に浮き上がってきます。この磁束の断面が黒点なのです。黒点が多くなるということは太陽活動が活発であることを示しています。ですが太陽活動の変動が地球に放射する日射量に与える影響は思うほど大きなものではないことが1970年代から行われている人工衛星による観測から分かってきています。


  太陽にも北極・南極と呼ばれるがあり、これが反転(逆転)することがあります。地球でもこれは起こっており、数万年~数十万年の頻度で、地球と取り巻く磁場のN極とS極が反転していることが分かっています。これについて簡単に触れておこうと思います。地球の場合、360万年の間に磁場の反転が11回起きており、直近の反転は77万年前で、それはたったの100年間で完了したといいます。磁気反転には通常数百年から数千年掛かるようですが、その間に大規模な太陽風(フレア由来)が襲来すると人類の電気文明は崩壊するかもしれません。大規模フレアでは高エネルギー粒子が大量に放出されますが、これをコロナ質量放出と呼んでおり、1回の噴出で飛んでいくガスの質量は、約100億トンにも達するそうです。地球は磁気圏を持っているため直接には影響を受けにくいのですが、大規模質量放出では磁場も一緒に運ばれてくるため電波障害などをもたらすこともあります。2012年に大規模な太陽風が地球をかすめたことがNASAから発表されており、1週間ずれていたら地球を直撃したかもしれず、もし直撃すれば通信網や電力網にGPS、精密機器のスマホやパソコンなどに壊滅的な被害を及ぼし、その経済損失は200兆円に上ると予想されました。ですから磁気反転は決して歓迎したくない現象です。これが自然生態系にどのような影響を与えるかは詳しいことは分かっていません。


  前述したように太陽活動は極小期を迎えていますが、それにも拘わらず温暖化は直線的に進行しており、その矛盾からして人類が放出している二酸化炭素による温暖化が地球規模、あるいは太陽系規模の自然現象を超越しているのではないかと考えられます。

   直近2000年間の気温変化

  1880-2010年の気温変化

  上の2つのグラフは少し長期の気温変化と最近130年間の気温変化を示しています。最近では1940年代から1970年代にかけて下がった一時期があったのでこのときには寒冷化説が流行しました(この原因については後述:エアロゾルを参照)。しかし1980年代に入って再び上昇に転じており、その上昇の異常さは左のグラフをみれば一目瞭然です。長期的にみると1800年代中頃から急激な上昇が始まっていることが分かりますが、この時期は産業革命(18世紀後半)が起こった時期の直後であり、大量の石炭・石油の消費が始まったときから暫くして気温が上がり始めたことを証明していると思われます。そして最新の観測から、2016年に二酸化炭素の推定経年平均濃度が温暖化の危険水準である400ppmを超えたことが分かったのです。
 
  1997年頃から宇宙線と気候変動の関係が取りざたされるようになってきました。太陽活動が弱まると太陽系磁場が弱くなり、それに応じて銀河系を飛び交っている大量の宇宙線が太陽系に、ひいては地球に大量に降り注ぐというのです。そしてこの宇宙線が低層の雲の発生量を増やし、地表温度は下がるといいます。実際の観測でも、太陽黒点数が増えたときには地球に到来した宇宙線の量は減り、その逆も成り立つようです。
 
  地球温暖化が太陽活動によるものなのか、ミランコヴィッチ・サイクルによるものなのか、あるいはその両方によるものなのか、さらには人類がせっせと排出している二酸化炭素によるものなのかについては現在も激しい討論がなされていますが、近年では二酸化炭素による温暖化という認識が定着してきました。
 
  以上のことから、自然要因が人為的な要因に比べて現在の地球温暖化に与えている影響は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書では10分の1以下とされています。冒頭に挙げた一部学者による寒冷化説は自然要因だけを考慮していることが多く、人為による自然現象の改変を過小評価しているのです。世界でこの問題に取り組んでいるIPCCは、多くの観測事実とシミュレーション結果に基づき、人間による化石燃料の使用が地球温暖化の主因と考えられ、自然要因だけでは説明がつかないことを指摘しています。このように大多数の天文学者も温暖化を認めているのですが、その原因を必ずしも二酸化炭素だけとしているわけではありません。温暖化によって沼地や水田から大量に発生するメタン、一時大量に使われたハロカーボン類、砂漠化や工業地帯から発生する砂塵・エアロゾルやすすも大きな要因として考えています。
 
  事象にはフィードバック効果というものがあり、ある要因(ファクター)が変化するとそれによって生じた要因が変化を加速したりすることを言います。これを正のフィードバック効果と呼びますが、逆の現象もあって、それを負のフィードバック効果と呼びます。地球温暖化問題では正のフィードバック効果が著しく、それを以下に箇条書きしてみましょう。
  ①気温が上がりると、それによって自然界(湖沼・水田)から発生するメタンが急増水田
  ②海底のメタンハイドレートが飽和点に達しバブルとなって大気中に放出される
  ③山火事が多発することによって二酸化炭素が増加する
  ④山火事による大量の粉塵が太陽光線を吸収して大気温度を上げ(地表温度は一時的に下がる)る
  ⑤氷河や雪原を溶かしてやはり太陽光線の吸収度を上げることによりアルベド(入射光に対する反射光の割
   合)を下げて地表温度を上げ、結果として深層海流を停止させる
  ⑥深層海流停止は海洋による二酸化炭素貯蔵能力を減少させる
  ⑦海水温の上昇は二酸化炭素の溶解度を減少させるので、海洋に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に再放
   出される
  ⑧気温上昇で大気中の水蒸気量が増え、それは正のフィードバックをもたらすとされる
  ⑨高温化によって植物の枯死・砂漠化が起こり、二酸化炭素の吸収能力が失われる
  ⑩深層海流停止は副次的に地域的な猛暑・極寒をもたらす
 
  アルベドについて追加説明をしておきます。地球の可視幾何アルベドは0.367ですが、これは入射光の36.7%が宇宙に反射されていることを示します。地球のアルベドを考えると、もし第三次世界大戦が勃発して核戦争が始まれば、大気中に大量の土砂と粉塵が舞い上がることにより、およそ1年間は‘核の冬’になると予想されています。全表面が凍結することにより大気中には水蒸気が少なくなり、雨も降らなくなることも考えられますが、降雪は大気中の粉塵を速やかに除去するので、問題は成層圏に近い高度にまで舞い上がった数ミクロンオーダーの微粒子が太陽光線を遮ることです。ですが微粒子の太陽光反射率は低いので、大気上層が高熱になる可能性もあります。その赤外線は宇宙空間にも地上にも降り注ぐので、核の冬は意外に早く終息するかもしれません。ですが数ヵ月にわたって氷河期と同様の状態が続けば、多くの生物が死を免れません。また核戦争による核の冬が到来すれば、人間活動がほとんど停止するために温暖化がストップし、本来の自然サイクルによる寒冷化が始まるかもしれないという予想もできます。そのような時に大気中の二酸化炭素が増加するのか減少するのかは、様々なシミュレーションが予想されるのではっきりしたことは現在は分かっていません。
 
  以上のことを踏まえて、地球温暖化の原因とされているものを取り上げておさらいしてみよう。その大項目を挙げると、①温室効果ガスや粉塵の増大・②アルベドの低下・③オゾンの減少、等があります。これらについて順に説明します。
 
  ①温室効果ガス(フロン類・亜酸化窒素・水蒸気・メタン・二酸化炭素:温室効果の大きい順)の増大には段階的に理解しなければならない側面があります。第一原因とそれから生ずる正のフィードバック効果から生ずる第二原因です。第一原因は産業革命以来人類が大量に消費してきた化石燃料であり、温暖化は数十億年をかけて地殻内部に貯蔵されてきたバイオマスが短時間に消費されたことによります。さらに牧畜が大規模化されたことで人類は食肉を大量に食べられるようになりましたが、その牧畜(反芻動物)の呼吸によるメタンの寄与率が25%にも上ると試算されていることから、これも大きな一次原因となっています。二酸化炭素の約300倍もの温室効果をもつ亜酸化窒素は牧畜から出る排泄物からも生じます。また人類が大量の肥料を使い始めたことによってメタンが発生しています。メタンの温室効果は二酸化炭素の21〜72倍と言われています。これら二酸化炭素とメタンの急激な増加が第一原因であり、これらは近代化に伴う生活上の利便性の向上と引き換えにもたらされたと考えるべきです。温暖化が始まると乾燥化が始まり、植物資源が減少します。それは砂漠化や熱帯雨林の減少(これも人為的要因)に見られます。山火事が多発することもこの減少に一役買っています。

  温暖化によって沼地に堆積したバイオマスが分解してメタンが発生したり、湿田からも大量のメタンが発生しますが、これは二次原因となります。海水温の上昇は海底に眠るメタンハイドレートの突沸やシベリアなどの永久凍土の崩壊に伴って起こる放出に繋がっている可能性も指摘されており、これも二次原因です。2014年11月にシベリアで発見された永久凍土の巨大な垂直の穴は、近年の温暖化によって永久凍土の下に眠っていたメタンハイドレートが崩壊したことによって作られたものであろうと考えられています(写真1参照)。このような穴は近年になって続々見つかっており、同年に発見されたロシア北部のヤマル半島のものは2012~13年頃にできたと推定され、幅30m・深さ50~70mに達するそうです(写真2参照)
 

シベリアの永久凍土で発見された巨大な垂直穴

2012~13年頃にできたと推定されるロシア北部の巨大穴

  8000年前にノルウェー沖で起きたメタンハイドレートの巨大崩壊は大量の二酸化酸素を生じさせ、その結果気温はたったの10年間で4℃も上昇したといわれています。2016年3月のニュースではこれを調査したノルウェー北極大学の研究チームは、ノルウェー沖の海底に1000キロ以上の海域にわたって100個ほどあるクレーター状の穴を発見したと報告しましたが、2000年に発行された下掲書『人類は80年で滅亡する』では既にその記述をしています。研究チームは、魔の海域として知られる「バミューダ・トライアングル」の謎も同じ理由で説明がつくかもしれないと示唆していましたが、その指摘も同書にあります。バミューダ・トライアングルとは「悪魔の三角地帯」とも称され、フロリダ半島、プエルト・リコ、バミューダ島を三角形に結んだ海域のことを指し、軍用機・巨大タンカー・旅客機・潜水艦などが忽然と姿を消す事件が起こることで有名です。20世紀になってこの地域で起こった行方不明事故はすでに100件を超えています。これらの事故がメタンハイドレートの崩壊によって起こったという仮説は2003年9月にリチャード・マッカイバーによってアメリカの物理学雑誌に発表されましたが、改めてこの仮説が見直されたということになります。この海域に世界でも最大級の暖流が流れ込んでいることから、メタンハイドレートは多少の水温の変化でメタンガスを放出するので、この暖流によってメタンガスが放出されやすいと考えられています。
 
  非常に憂慮されるのは、日本近海に続々と発見されるメタンハイドレート資源に日本中が湧きたっていることです。燃料資源に乏しい日本ではこの発見に資源大国の夢を託したことは十分に頷けますが、この資源がもたらす以上述べたような脅威を忘れているのではないかということを筆者は懸念しています。メディアはこぞってその資源としての有望性を報道していますが、リスクについて触れているのはごくわずかでしかありません(№880「メディア・報道への疑念」)。しかしネット上ではそのリスクについての記事はあまた載っているのです。特に前にも掲げた2000年に発刊された西澤潤一・上墅勛黃共著の『人類は80年で滅亡する』という著書はこのことに関して卓見を述べており、これまでにない視点で温暖化問題を初めて取り上げました。また特にメタンハイドレートに焦点を当てた著作『悪魔のサイクル』を2005年に発刊しています。尊敬する櫻井よしこも週刊新潮の2007年4月号にこの本を基に特集『環境が危ない』という特集を載せており、この著作の反響は少なからずあったと思っています。にも拘わらず、メディアはメタンハイドレートを資源としてしか見ておらず、その本質を突いた論説を載せようとはしていません。特に日本は地震国であることから、地震による地滑りで起こるメタンハイドレートの崩壊についても言及しなければならないはずです。逆にメタンハイドレートの崩壊による地滑りという現象も確認されており、上記のノルウェー沖でのメタンハイドレートの崩壊では3500 km3と推定される巨大な海底地すべりが発生したと考えられています。

  東京大学名誉教授の松本良は、地球環境の変動はメタンハイドレートの安定性に大きく支配されているとした「ガスハイドレート仮説」を提唱していますが、生物大絶滅にメタンハイドレートの崩壊が大きく関わっていると考える学者が増えてきています。2億5千万年前のペルム紀大絶滅は史上最大級でしたが、この崩壊現象が実際に起こったことで大量絶滅をより深刻なものにしたという説もあります。もし日本近海のメタンハイドレートが東南海地震によって崩壊するか、あるいは逆に温暖化によって崩壊して巨大地震を起こすかしたら、日本発の大絶滅が起こらないとも限りません。下図を見ても分かるように、南海トラフには大量のメタンハイドレートが存在しているからです。

日本近海のメタンハイドレートの分布

  温室効果の最も大きいとされる水蒸気については一概に述べることができません。分子としてのHOは比熱が大きいことからも予想できるように太陽光を吸収する能力が大きく、温室効果のうち60%が水蒸気に由来すると言われています。二酸化炭素は第2位であり、26%と見積もられています。二酸化炭素の400ppmと比べて約10倍の濃度です(単純に濃度を比較するのは良くないですが・・・)。水蒸気は広い波長域で赤外線を吸収しますが、二酸化炭素は赤外線領域で最大の吸収率を持っています。ですが水は蒸発して水蒸気になったあと、大気中に拡散して上空に達すると冷却されて雲(水滴)となり、これは白いことからわかるように太陽光を反射しアルベドを上げますが、逆に地表からの赤外線放射を反射するので温室効果もあるのです。雲だけについてみると総合的には地球をある程度冷ます役割を持っていると考えられています。また凝縮の際に発生する凝縮熱(潜熱)を赤外線の形で半分ほどを宇宙に放射するため、地球冷却効果を持っていると考えられます。そのため総合的に判断しなければならないのですが、最終的な温室効果は上記したようにかなり高いと思われます。ですが大気中の水蒸気量は温度に依存するため、温暖化によって大気温度が高まれば水蒸気量は増すので、これは正のフィードバック効果を持つと考えるのが妥当でしょう。
 
  フロンガス類(ハロカーボン類・代替フロン類)は強力な温室効果ガスであり、パーフルオロカーボン類(PFCs)や六フッ化硫黄(SF6)などがあります。これらは二酸化炭素に比べて数千倍から1万500倍の温室効果があるとされ、最強の温室効果ガスです。これらが産業や家庭で冷媒として用いられるようになったのは20世紀中頃からですが、当初は、クロロフルオロカーボン( CFCS )が使われました。これは塩素を含んでいるためオゾン層を破壊をすることが分かり、1995年末に世界的に生産を停止し、代替フロンとしてハイドロクロロフルオロカーボン( HCFC )に切り替えられましたが、これも強力な温室効果を持つため1996年から生産規制が行われています。ですが規制はモントリオール議定書をはじめとする締結国に限られており、対策に抜け穴があるのが問題となっている。フロンガス類はそれ自体の温室効果だけでなく、成層圏にまで拡散する結果紫外線との反応により塩素原子を出し、これがオゾン層を破壊し、現実にオゾン層にオゾンホールと呼ばれるオゾン濃度の低い部分が生じることが観測されています。フロンは極めて安定しているため、一旦排出されると数年~15年ほどかけてオゾン層に達して破壊するため、仮に完全に排出が止められたとしてもその後暫くは影響を及ぼします。2006年の国立環境研究所による予想によると、フロン規制が維持されれば今後しばらくは大規模なオゾンホールが残るものの、2020年頃からオゾンホールが縮小し始め、2050年頃には1980年レベルまで回復されるという楽観的なものでした。ですが後進国による廃棄フロン類の未処理があるとすれば、この予測通りになるかどうかは分かりません。建材としての断熱材のフロン回収は規制対象外のようで、大気中に大量に放出されているといいます。事実、2011年4月には北極で観測史上最大規模のオゾンホールが発生し、最大80%のオゾンが失われたといいます。これには近年のロケットの大量発射(排気ガスが影響)や北極の異常な高温化も影響しているのかもしれません。近似計算では半径650キロの範囲にプラズマホールができるという試算もあります。まだまだ人類は分からないことだらけなのにリスクを平気で犯しています。
 
  大気中のエアロゾル(粉塵・液体微粒子)はどのように作用するのでしょうか。これについては太陽光線を反射する効果があるとされ、それが個体であっても液体であっても同じです。代表的なものとして硫酸エアロゾルがあり、産業の結果亜硫酸ガスとして排出されています(燃料中の硫黄分による)が、大気中で酸化されて硫酸ミストとなります。これは日傘効果と呼ばれる負のフィードバック効果を持っており、これが大量に排出された20世紀後半の寒冷化(1940-1970年代)の傾向を生み出したと考える学者がいます。いわゆる公害が問題になり始めた頃であり、その後の公害防止対策の結果により温暖化の方が勝って再度温暖化が進んだようで、1980年からは気温は上昇に転じています。しかし大規模火山噴火は大量の硫酸エアロゾルを噴出させるので、もしそのような事象が起これば一時的に寒冷化することは十分考えられます。特に核戦争が起こったならば「核の冬」と呼ばれる寒冷化が起こり、それは1年間続くと予想されています。核爆発が地上で行われた場合、日本では活断層を刺激して大規模地震が誘発される可能性は大きいのです。その場合、地上での惨事(核爆発)→地中からの惨事(地震)→上空からの惨事(放射能)→気温の惨事(地表凍結)という四重苦に晒されることになるでしょう。
 
  オゾンは大気対流圏内のものは紫外線吸収効果により温室効果を持つといわれます。ですが成層圏にあるオゾン層は逆に成層圏の寒冷化効果を持つともされます。オゾン全体ではその90%が成層圏にあるとされ、オゾンによる天空に放射される赤外放射の増加により対流圏とは逆に気温の低下が報告されています。オゾン層は生物にとって有害な紫外線を吸収するため、生物にとって必要不可欠なものです。1974年に成層圏で活性化した塩素原子がオゾンを分解することが指摘されました。1984年に日本の忠鉢繁らが春季の南極上空のオゾン減少に関する論文を発表していますが注目されず、1985年にイギリスで同様な論文が発表されたことで国際的な問題として浮上しました。1987年にはオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書が採択され、世界的にフロン規制が始まり、その功あって近年ではオゾン層は回復傾向にあるといわれます。2050年頃には1980年レベルまで回復されるという予想も出されています。この問題からもわかるように、自然界の動きにさえ変化を与えるほどに人為活動は影響が大きいことがわかったのです。また努力すれば回復も可能であるという希望も与えられたことは喜ばしいことです。ですがこの問題では成層圏に達するロケットの打ち上げの問題は全くとりあげられませんでした。ですがロケット排ガスには大量のHCl・Al2O3が・煤(すす)が含まれ、これらの物質が高度10km~50kmの大気に含まれていることが確認されています。本来これらの物質はこの大気中には存在しないはずであることから、ロケットの打ち上げによってもたらされたものであることはほぼ間違いありません。そしてこれらの物質は、酸素の同素体であるオゾンを分解してしまうことがわかっています。2018年時点で年間に打ち上げられるロケットの数は80~90程度と言われ、これらのロケットから排出される煤(すす)やアルミナは合計で11トンと言われており、これらが全世界上空に拡散することで異常気象の原因にもなり得ると想定されています。今後ロケットの打ち上げは1000倍にも増えると言われていますが、ほとんど誰もこのロケット排ガスの問題を取り上げようとしません。それは人類の進歩を止めることを意味するからです。学者も学会や世間から袋叩きにされることを恐れてこの事実を研究したがらず、発表にも慎重です。

  アルベドの低下ということについて考察してみましょう。アルベドについては上記で説明しましたが、太陽光の反射率のことです。地表だけでなく、雲も太陽光を反射するため、複雑な計算を要することになります。仮に地表面が雪氷に覆われている場合 (極地など) を考えると、アルベドは80%にも達します。すなわち寒冷化が起こると雪面がアルベドを上昇させることになり正のフィードバック効果をもたらします。逆に温暖化が起こると雪原や氷河が減るためアルベドは低下し、さらに温暖化を促進するのでこれも正のフィードバックを持つことになります。地球が氷河期と間氷期を繰り返しているのは、このようなアルベドの正のフィードバックが大きく寄与していると考えられています。ちなみに地球の赤道付近のアルベドは20~30%ほどです。実際地球の気温はアルベドの正のフィードバックのために大きく変動するのが普通の状態でしたが、およそ1万年前から奇跡的に安定しました。それが人類の大躍進に繋がったのです。下図でも右端のジグザグが0(現在の気温を0としている)で安定していることがわかります。ですがこれが不安定になると最高では6℃の上昇が、最低では-8℃の低下があり得ることが予想されます。

過去45万年間の地球気温と氷量の変動

  ホモサピエンス(人類)はおよそ20~30万年前にアフリカに残っていたホモハビリスから進化したとされていますが、恐らく45万年前頃か35万年前の寒冷化過程がホモサピエンスの誕生を促した可能性は大きいと考えます。およそ7万年前から始まった最終氷期(俗に氷河期と言った場合にはこの氷期を指す)の最低気温は現在よりも-8℃ほども低く、海面は120mも低くなったため、日本は北方で北海道と樺太、ユーラシア大陸が陸続きとなっており、現在の瀬戸内海や東京湾もほとんどが陸地となっていました。この間には激しい気温の上下動があったとされ、ヤンガードリアス期(およそ1万3千年前)には約10年のあいだに気温が約7.7℃以上下降したということがわかっています。この頃ホモサピエンスは最小人口となり、それは学者によって異なりますが、1万人以下であったとされています(ボトルネック現象)。ホモサピエンスがこの氷期に耐えられたのは骨で作った縫い針で毛皮を衣服としていたことによるのかもしれません。その後1万3千年前から始まった温暖化の到来により世界に散っていた人類は適応進化を遂げて各種人種になりましたが、ホモサピエンスという種そのものは変わらなかったため、現代の世界の人々は結婚して子を作ることができるのです(ボトルネック効果)。また上図からも分かるように、およそ1万年前から気温が奇跡的に安定しました。その理由はミランコヴィッチ・サイクルに何らかの安定化要因が働いた結果であろうと思われますが詳細は分かっていません。人間としては望むべくは温暖化の範囲が+1.5℃以内に収まって欲しいと願っていますが、明らかに温室効果ガス(フロン類・亜酸化窒素・水蒸気・メタン・二酸化炭素)による気温上昇は正のフィードバックをもたらして加速しており、科学者の予測は希望的観測にすぎないのかもしれません。前記したように10年で7℃も変わるという変化が地球では実際に起こっているからです。
 
  以上の検討から分かることは、もしこのまま人類の活動が続けば温暖化は地球史にも無いような短期間の急激な高温化が起こり、二酸化炭素濃度の増加という植物が大繁殖する条件を創り出しますが、人類活動はむしろ植物を減少させる方向に向かっていることから、高温化によってむしろ枯死する植物が増えるかもしれません。それは二酸化炭素の吸収能力を減少させることに繋がり、ますます温暖化は正のフィードバック効果で加速するでしょう。およそ13万年前には大気中の二酸化炭素濃度は280ppm程度でしたが、その低い濃度の時でさえ氷河が溶けたりして海面上昇が起こっています。現代はそれを遥かに上回る400ppmに近づいており、さらにその200倍の8万ppm(8%)になると動物は生きてはいけないのです。近年の増加率をみると、10年で1.054倍となっており、8%に達するのは189年後という計算になります。しかし正のフィードバック効果を考えると、さらに級数的に増加することが予想されることから、その半分の約80~100年後の2080~2100年には8%に達していると予想することも可能でしょう(西澤潤一・上墅勛黃共著『人類は80年で滅亡する』参照)問題は温暖化による海面上昇どころではなく、正に動物の死活にあるのです。
 
  以上の現状を認めず我欲のみを求め始めたのがアメリカです。2017年にトランプ大統領が就任して以来、その公約の1つとして地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定から離脱することを宣明してきましたが、ついに2017年6月1日(米国)にそれを実行しました。世界一の良識を誇ってきた米国がその良識をかなぐり捨ててまで自国の雇用創出に血道を上げ始めたことは、必ずやそれより経済的に苦しい各国に影響してパリ協定はなし崩しになるでしょう。しかも重大なことはトランプ自身が地球温暖化は‘でっちあげ’であると主張していることであり、それは特定の企業の謀略であって一部の企業を儲けさせるための謀略です。トランプには良識や理性はなく、彼はついに地球の未来までも自己の地位保全のために売ったのです(記244「トランプ大統領の登場」)米国は2025年までに温室効果ガス排出量を05年比で26~28%削減するという目標を反故(ほご)にするとともに、気候変動問題対策を支援する多国間の「緑の気候基金(GCF)」への資金拠出を行わないことも宣言しました。ですがこれはトランプ大統領だけの問題ではないのです。世界の全ての人々が現代の利便性あふれる生活を望む限り、この問題は解決不可能なのです。

  パリ協定はオバマ前政権時代の2015年12月に約190ヵ国が合意し、2016年に発効した協定であり、これほど多くの国が参加した協定は他にはありません。これより18年前には1997年12月に京都で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)で「京都議定書」が取り決められましたが、アメリカはこれに調印しませんでした。この頃からアメリカの独善主義が表れていましたが、それにはアメリカなりの国内事情があります。米国での発電量の65%が火力発電であり、内訳は35%がLNG、30%が石炭です。2008年をピーク(オバマ大統領任期:2009 - 2017年)に石炭の生産・消費が減ってきたことで炭鉱労働者には生活苦が押し寄せていました。アメリカは石炭を輸出に回しましたが、世界的需要の落ち込みから2012年以降には輸出も減っていました。石炭は発電だけでなく、粗鋼生産にも使われることから日本へも輸出されていますが、日本の鉄鋼産業の衰退もあって輸入は減っています。アジア方面に輸出するには米国西海岸における輸出港の建設が不可欠ですが、環境保護策を採っている各州の反対が予想されています。その他諸々の事情がありますが、これを新時代に合わせて技術革新していかない限り米国に将来は無いと断言できるのです。このような技術革新を怠った国はいずれも衰退したからです。日本は資源の極めて少ない国であり、近代以降はこれを求めて南方へも進出したが、結局アメリカとの戦争に追いやられ、これに敗れた結果全てをもぎとられました。そこで技術革新に全ての可能性を求め、その努力の甲斐あって技術先進国となり、また資源のない小国でありながら経済大国になり得たのです。アメリカが同様な努力を放棄して旧態依然たる産業を保護し、世界一の生活レベルを維持しようとするならば、かつてのローマ帝国と同様に崩壊を免れないでしょう。
 
  以上の議論から分かるように、現代の温暖化は単に自然界の変化だけで起きているのではありません。そのほとんどが人間活動から発生する温室効果ガスが原因であり、それはこのまま増加し続ければ全ての動物が生きられなくなる状況を作り出しました(№292「地球の大異変」)温暖化の本質を科学的に考えるならば、その防止や抑止を単に政治的取り決めだけで解決できると思うのは大きな間違いであり、根本的に人間世界のシステムを変えなければなりません。そのためには経済の自由競争原理を放棄し、最低限の必要品で生活をすることを目標としなければならないのです(№285「資源の無駄」)世界の総人口の抑制も視野に入れなければならず、それを強制的に実現させるために世界を統一しなければならないと考えます(№602「人口爆発」)そして重要なのはそれを是とする思想の確立です。統一された合理的な思想がなければ世界の各国政府や民は納得はしないでしょうし、世界を統一しようという気概も生まれません。ですが現代の状況では自由主義思想がはびこり、とてもそのような雰囲気が生まれるとは思えないのです(№333「自由主義の破綻」)。民主主義の概念も各国の範囲でしか有効でなく、しかもそれは民衆の我欲に基づく衆愚政治に堕してきており、とても本質的・根源的な思考から最善の政策を生み出すことができるようなものではなくなっています(№258「衆愚政治と衆賢政治」・№349「民主主義と自由経済主義の次にくるもの」)現在のIPCCという各国政府の意思を基にした合議の枠組みでは根本的政策を決定することはできず、それは温暖化の進行に遅れてしまい、ついには何も努力しなかった場合とほとんど変わらない事態を迎えるでしょう。民の意思や独立国家の意思を第一に考えるのではなく、高度な判断力を有する賢人が多数合議して、世界の統一政策を考えて決定するような全く新しい世界システムが必要なのです(№358「賢人政治」)。現在のところそのような思想もシステムの枠組みも筆者は見聞きしておらず、やむを得ず敢えて民の立場から素人的ではありますが根本的な原理を踏まえた思想を創り出しました。それが「ノム思想」です(№152「ノム思想Q&A」・№190「ノム思想」)そしてこの思想に基づいて革命的な新世界システムを提言し、かなり具体的な諸策をまとめました(№588-594「未来社会のシステム」・№638「世界連邦制度と世界政府」)。ですがその実現は世界が一旦は核戦争で壊滅的な打撃を受けた後になるだろうと予想しています(№831「最終戦争(第三次世界大戦)の経緯」)そうでないと現状では不可能だからです。

  ここで新たに希望的現象が生じてきています。それはグレタ・トゥーンベリという勇気ある一少女が突如現れたことであり、その考えに同調する多くの若者が世界中で声を上げ始めたことです(記445「グレタ・トゥーンベリの偉業」)。これは既存の概念・既存の体制・既存の思考を打ち破る可能性が人間にはまだ残されていることを証明しました。この動きが世界を大きく動かす発端になる可能性は実に大きいのです。そして世界の科学者・哲学者・政治家がこぞって新たな未知の世界を模索し始める兆候を生み出すでしょう。それは筆者にとって最大の期待であり、希望となっています。
 
  (完)
 
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