【時事評論2025】
カーボンバブル
2025-08-04
最近「カーボンバブル」という聞きなれない言葉を知った。その意味は「気候変動対策が進むことで、化石燃料関連の資産が過大評価されている状態」を指すらしい。将来的にこれらの資産が使えなくなり、企業や投資家にとって大きな損失をもたらす可能性があるという。なぜ化石燃料関連資産が過大評価されているのか、また本当にカーボンバブルが弾ける時が来るのか、ノムなりの展望からこの問題について考えてみたい。
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻して以来、ロシアに対する経済制裁や、ロシアによるとみられる2023年10月2日の天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」の破壊などから、全世界的に化石燃料関連の流れが大きく変わった。この事態を受けて、世界は再生可能エネルギーへの転換を急ぐ一方で、化石燃料確保のために走った。その結果石油関連製品価格は大きく上昇し、石炭も2021年から急激に高騰した。それによってロシア経済も支えられるという皮肉な結果になり、西欧は価格上限を定めるなどして抵抗しているが、需要と供給の経済原則からすれば、この制裁は余り有効であるとは思えない。一方、米国は国内経済の行き詰まりもあって、トランプが高関税を一方的に世界各国に課すことで、一時的な国益を守ろうとする動きに出ている。そしてその交渉の中で、米国産のエネルギーを買うように各国に勧めている(押し付けている)。トランプは地球温暖化を否定しており、石油をじゃぶじゃぶ汲み出すと宣言しており、大地を汚染しシェールオイルが枯渇するまで石油を汲み出すつもりである。それによって米国が一時的に潤うことは言うまでもない。トランプは地球を犠牲にして自国利益第一主義を貫こうとしている。
こうした中で、原油・天然ガスなどの化石燃料価格は高騰してきた。だが幸いなことに、原油価格は2022年6月に最高値をつけてから下がり、2025年6月時点で1バレル70ドル近辺で落ち着いている。石炭価格も2022年の最高値から下がっており、2009年レベルに落ち着いている。現状ではバブルが起きているようには見えない。そもそも「カーボンバブル」という言葉は、英国生まれの企業家ジェレミー・レゲット(現在71歳)が「Carbon Tracker Initiative (CTI)」という団体を創設した際、初代会長として2010年頃に提唱した概念であり、彼はその中で化石燃料資産の経済リスクを明らかにした。その功績を称えて、日本の「ブループラネット賞」は彼を受賞者に決定した(《地球温暖化》6.11「日本のプループラネット賞決まる」)。博士号を持つレゲットはそれなりに地球温暖化に対して、企業家としての目だけでなく、科学者としての視点を持っており、その貢献を決しておろそかにするつもりはないが、飽くまでも企業に対する警告として出された概念であろうと考える。それは今でも有効だが、カーボンバブルが現在おきているわけではない。
だが確かに化石燃料への投資にリスクがあることは明らかであろうと思われる。それが何時、バブル崩壊という形で来るのかは分かっていない。現状ではまだ化石燃料の方が効率が良くかつ安価なために、後進国を中心に化石燃料への需要は大きい。だが技術というものは急速に全世界に普及するものであり、それが良い技術でかつ安価なものであればなおさらである。日本では現在、画期的なペロブスカイト型太陽光発電太陽光発電方式が2025年に公開され、それはとても安価で資源産出国に左右されにくいとされる(7.31「太陽光発電」)。これが世界に広まれば、一気に再生可能エネルギー時代が来るのではないかと期待される。これに必要な資源は鉛とヨウ素であり、鉛はこれも中国がトップ生産国であるが、豪・米・メキシコ・ペルーと続く。ヨウ素はチリ硝石を産するチリがトップで、日本は2番目を誇り、2国で90%を占める。千葉県に偏在しているとされ(80%)、かん水(ラーメンに使われている)や海洋堆積物中に豊富にあり、世界中に潜在的に存在すると思われる。海藻に多く含まれることから、資源としては比較的に偏在性は小さいと思われる。将来は海藻からヨウ素が抽出されることになるだろう。
資源というものは、その時代の技術の要求する度合いによって価値が決まる。鉄の時代には鉄鉱石が、石油時代には石油が最も価値があるとされてきた。未来世界を展望すると、再生可能エネルギー技術が最も高く評価されることから、その関連技術に必要な資源が価値あるものとされるようになるだろう。たとえば電気分解によって得られる水素を用いた「水素社会」というものが到来したときには、電気分解に用いられる白金触媒が重要な資源となる。だが日本が発明したハイエントロピー合金を使うと、分解効率が10倍になるという(23.11.27「化学分野の革命・新物質合成に成功」)。大容量電池として期待される新物質「Li9.54Si1.74P1.44S11.1Br0.3O0.6」は非金属を含む。多くの元素が有用な資源になる可能性が出てきたと言えるだろう。そうした資源の多様化によって、特定の元素(レアアース)に過剰な需要が生じることを避けることができるだろう。
カーボンバブルという現象が生じていいるのかというと、ノムは上記したように現状の化石燃料価格からみて、バブルは起きていないとと判断する。そしてそれがこれから起こる可能性も低いと考える。それ故に、現在化石燃料に投資している人や組織、そして国家は、損失を被ることになるだろうと予測する。その予測は上記のレゲットの予測と一致している。そして未来世界に関して言えば、資源が配給制になることで、資源への投資そのものが無くなるだろう。また未来世界は計画経済に移行するため、バブルという経済競争から生じる特異な現象も無くなるだろう。バブルが生じる前に、世界的に調整が行われるからである(21.1.7「制御思想」・23.7.22「開発の制御」・23.10.13「競争の制御」)。
(8.2起案・8.4起筆・終筆・掲載15:05・追記21:00)