【時事評論2024】
水は誰のものか?
2024-12-27
12月24日にNHKが放送した2023年にフランスが製作したドキュメンタリーは「ナイルの水は誰のものか・国境を超えるパワーゲーム」というものだった。原題は「The Nile Dam-A Dangerous Power Game」である。これは以前、ノムが取り上げた「土地は誰のものか?」と共通する問題であると感じた(21.6.27「土地は誰のものか?」)。土地も水も、人が生きていく上で欠かせない資源である。最初に掲げるべきテーマは「資源は誰のものか?」であったかもしれない(25.2.1「資源は誰のものか?」)。だが具体的問題をまず取り上げて、それから本質に迫るというのも、問題解決の手法として悪くはない方法であると思う。今回は番組の中で触れられた、ナイルを中心とした水の分配問題に迫り、「水は誰のものか?」というテーマを考えてみたい(21.5.8「水文明崩壊の予兆」)。
ナイルはアフリカ大陸最大、かつ世界最大の川であり、その源はルワンダのカゲラ川が注ぐビクトリア湖を源流とする白ナイル、およびエチオピアのタナ湖を源流とする青ナイルにあるとされる。カゲラ川はルワンダとブルンジやタンザニアの国境を成し、さらにタンザニアとウガンダの国境を成した後、タンザニアのブコバ市の北方でヴィクトリア湖に流れ込む。そのカゲラ川の最長の支流は、ブルンジ南部のブルリ県を水源とするルヴィロンザ川であり、これら支流や湖はかなり複雑で数が多いので省略する。ナイル川に接する国は10ヵ国に上る。その中でナイルの覇権を争っているのはエジプト・スーダン・エチオピアであるようだ。近年、中東のUAEが巨額融資を行うことで覇権を争うようになった。仲介役としても活躍している。
エジプトが「ナイルの賜物」と云われているのは誰でも知っているが、エチオピアにナイルの源流があることは余り知られていない。エジプトは古代に繁栄し、ナイルを支配した。近代になって、アスワンハイダム(1970年)を建造したこともよく知られている。そのためにエジプトの古代遺跡を移動する計画が持ち上がり、それが世界遺産の始まりとなったことも有名だ。だがエジプトはそれ以前に、1902年にアスワンダム(ローダムと呼ばれている)を建設している。それは莫大な電力を生み出し、エジプトの近代化に欠かせない存在となった。だが旧ソ連の支援で造られたハイダムには諸々の問題も派生している。生態系の変化、人造湖ナセル湖に溜まる土砂によるナセル湖の消失(1700年先と予測されている)も懸念されている。
エチオピアはこのアスワンハイダムの成功を見て、タナ湖から出る青ナイルを堰き止める大エチオピア・ルネサンスダムを計画した(2020年完成・2022年貯水開始)。1956年から1964年にかけてアメリカがその可能性を指摘してきたが、クーデターなどによって構想は延期されてきた。建設はイタリアが受注したようだが、発電機や発電網は中国が受注している。建設費は国債と私募債によって賄おうとしたが、足りていないようである。ダムによって土地を追われた人々には何の恩恵も無かった。私募債を買った人は「だまされた」と憤っているようだ。しかも、エチオピアはエジプトやスーダンの反対を押し切って建設を強行したため、エジプトはスーダンと共同し、スーダン国内に基地を持った。まだ軍事的紛争は起きていないようだが、そのリスクは大きい。
日本は水はタダだと思われており、他国に水を支配されることもない極めて恵まれた国である(23.8.25「福島処理水は世界一安全」)。多くの国は大陸の中にあって隣国と国境を隔てて隣接しているため、川の流域を何ヵ国かで共有していることが多い。干ばつが起こると、水の争奪戦が発生しやすいのでる。このような川を「国際河川」と呼ぶが、世界には260もの国際河川があるという。インダス川を巡ってはインドとパキスタンが協定を結んでいるが、上流に当たるインドによるダム建設や意図的な過剰取水による水量減少を疑う国民も多く、再び争いの原因となるのでは、と指摘されているという。ヨルダン川を巡っては、イスラエルとパレスチナが、土地の領有権を含めて対立している。水利権に関しては1968年にイスラエルによる占有が進められた。ドナウ川を巡っては、スロバキアとハンガリーの2ヵ国が争っている。1992年、ハンガリーは条約を破棄したことから、両国の対立は頂点に達し、この問題はデン・ハーグにある国際司法裁判所に提訴された。そして、1997年に国際司法裁判所(ICC)は、条約を一方的に破棄したハンガリーとダム建設を強行して自然環境を破壊したスロバキアの両方に問題があるとして、両国に罰金を命じた。ちなみに河川に関してICCが判断を下したのはこれが最初で最後である。チグリス川とユーフラテス川を巡っては、トルコ東部の山岳地帯を水源とし、シリアやイラン、イラクを流れるため、シリア・イラン・イラクの間で分配を巡って係争があるという。またトルコが1970年代から「南東アナトリア開発計画」を開始し、流域に22ヵ所のダムと19ヵ所の水力発電所を計画。シリアとイラクの水不足が深刻なものになっているという。
追記になるが、2025年8月25日に、中国とインドの間で水問題が浮上したことが記事になった(25.8.25《国際》)。中国・チベット自治区で始まった世界最大規模の巨大ダム建設を巡り、インド側が乾季に主要河川の水流が最大85%減少するとの懸念を抱いていることが分かったという。中国側の計画は2024年12月に発表された。インド側では、中国が河川の支配権を武器化するのではないかという懸念が高まっている。これでも分かるように、河川では上流側に支配権があり、外交上の強力な武器として用いられる可能性が非常に高い。
現在では河川流域国が協議を行うしかないのが実情だが、イスラエルは海水から脱塩装置によって純水を取り出し、これにミネラル分を後から追加して飲料水としている。その比率は55%に及ぶそうである。水の乏しい国が、水の豊かな国になったと云われている。この方法が世界中に広まれば、海域に面している国家は水不足から逃れられることになるだろう。
未来世界では、水は最も重要な資源と考えられる(21.5.8「水文明崩壊の予兆」)。そのため、少なくとも国際河川については、連邦が権限を持つことになるだろう。細かい支流などの河川は、それが当該国を流れているならば、それは当該国に管理権があると考える。上記したような国際河川だけは、連邦の権限で、各国への配分が決められることになる。その運用の監視は、連邦軍が行うことになるだろう。こうして水を巡る争いは無くなることになる。ただ、水が絶対的に不足している国家があることから、連邦はそうした水不足の国に対して、可能な限り水を提供することになるだろう。それは恐らく、海水の脱塩処理によって得られた高価なものを、タンクローリーなどで運ぶことで為されると思われる。供給を受ける国は水代金の一部を負担することになる(21.3.18「受益者負担」)。だがその水価格は貧民にとっては高価なものであることに変わりはない。大局的に考えれば、水の少ない地球の地域には、人は住むべきではないのである(21.12.23「適者生存の原理」)。数百年掛けて、水不足の地域の人口を減らしていくのが最良の方法であろう。
(12.26起案・起筆・12.27終筆・掲載22:10・25.8.25追記)