【時事評論2024】
核兵器
2024-12-23
核兵器についてだけの項が無かったので、書くことにした(20.8.6「核兵器を巡る日本の立場」・21.1.23「核兵器禁止条約に対する日本政府の対応」・22.5.1「もしプーチンが核兵器を使えなかったら」・22.6.22「核兵器禁止条約の幻想」)。核兵器は人類が生み出した最終兵器であり、1938年の偉大な「核分裂現象の発見」からもたらされた。科学の善悪両面を端的に物語っている。
1930年代、中性子による原子核の分裂が連鎖的に行われれば、莫大なエネルギーが放出されると仮説が立てられていた。1938年には核分裂現象が発見され、1939年には連鎖反応が可能なことが示された。この時点で科学者は、この発見によってとてつもない兵器への道が示されたと思ったであろう。1939年9月に第二次世界大戦が勃発すると、科学者や軍人の間で核兵器開発の議論が活発になった。当時物理学で最先端をいっていたドイツは、軍部が中心になってヒトラーに核兵器開発を促したそうだが、ヒトラーは物理学をユダヤ人の科学として嫌ったために、この計画は進まなかった。ドイツのユダヤ人弾圧が深まり、アインシュタインを含めてユダヤ人科学者はアメリカなどに亡命した。そしてアメリカは、こうした亡命科学者によって最初の原爆を開発することになる。
アメリカは第二次世界大戦に1941年8月から途中参戦し、その年の12月に日本の真珠湾攻撃という電撃作戦を受けた。1942年6月にはマンハッタン計画(原爆開発)が始動し、1945年7月に完成して16日に人類最初の原爆実験が米国内で行われた。ドイツは5月5日に降伏していたので、最初の攻撃目標は日本に据えられた。8月6日に広島に投下、8月9日に長崎に投下され、日本は8月15日に降伏をした。米国は米国兵の甚大な損失から国を救ったと弁明したが、核兵器の最初の使用国として歴史に汚名を残した。
第二次世界大戦で使われた砲弾で最も威力が高かったのは、ドイツの80cm列車砲「シュベーレ・グスタフ」であった。この砲弾は、TNT火薬換算で約7トンの威力を持っていたと云われる。米国が開発したウラン型原爆(広島投下)とプルトニウム型原爆(長崎投下)は、ウラン型で876gが有効に連鎖反応したと考えられている。TNT火薬の威力に換算すると、広島原爆は16キロトンに相当する。長崎原爆は21キロトンとされている。広島原爆は砲弾の2300倍の威力であり、長崎原爆は3000倍の威力であった。1ヵ所に2300発の砲弾が撃ち込まれたと同じということになる。ウラン1gがTNT火薬18トンに相当したということになる。実際には広島原爆には50kgのウランが使われたとされ、大部分が連鎖反応を起こす前に飛散した。現代の核兵器はもっと効率の良いものになっているであろう。現代の核兵器はメガトン級であると云われ、ロシアの「サルマト」に搭載された核弾頭の威力は、太平洋戦争で広島に投下された原子爆弾の2000倍の威力があると評価されている。1基でメガトン級の核弾頭15発を装備できるため、1発でフランス全土を焦土にできるとロシアは主張している。マッハ20という極超音速のため、迎撃は不可能とされている。2023年9月1日、サルマト戦略ミサイルシステムが戦闘任務に就いたとロシアは発表したが、半分は脅しであると思われる。
核兵器はさまざまな形のものが開発され、戦場で砲弾の型で使用される「戦術核兵器」もある。米ソ間の核軍縮協定などでは射距離500km以下のものが戦術核兵器であると定義されており、必ずしも威力とは関係していない。大型の核弾頭でも前線の敵部隊に使用すれば戦術核兵器であり、逆に小型核弾頭でも相手国本土の都市などへの戦略爆撃に使用した際は戦略核兵器となる。海域で使われる核魚雷もあり、ロシアが開発している原子力核魚雷「ポセイドン」(100メガトン級:2015年から開発開始) は高さ500mの津波を作り出すことができるとされ、原潜で米沿岸に近づき、時限装置内蔵の核魚雷を沿岸に仕掛け、内陸500キロの範囲に被害を与えることを想定している。核地雷・核爆雷もあるという。ただ、破壊力が極めて大きいため、実際に実験は出来ていない。シミュレーション実験が行われているという。
「核実験禁止条約」には核保有国は批准していない。だが上記した理由のあって、近年は核実験を行ったのは北朝鮮くらいのものである。核兵器開発熱が高まった1900年代、米に続いて旧ソ連(現在のロシア)も1949年に原爆を開発し、さらに1953年に水爆を米に先んじて開発した。イギリス(1952)・フランス(1960)が核兵器を開発、中国(1964)・インド(1974)・イスラエル(1979?)・パキスタン(1998)・北朝鮮(2006)と続いた。こうした中、核兵器の拡散が世界的に脅威とされるようになり、1963年に国連で「核拡散防止条約」が採択されたが、当時の核保有国であった米・ソ・英・仏・中の5ヵ国の専権事項となった。1970年3月に発効しており、通称でNPT体制とも言われる。だが非保有国からの不満が募り、全面的に核兵器を禁止しようという運動が広がり、2017年に「核兵器禁止条約」が国連で採択された。2024年11月現在、98ヵ国が署名し、73ヵ国が批准している。だが肝心な核保有国は参加しておらず、核の傘の下にある同盟国も参加していない。日本は世界で唯一の被爆国でありながら、日米同盟で核の傘の下にあるため参加していない。
核兵器という技術は、いったん開発されてしまったら、もう無くすことはできないし、後戻りはできない。それを持つ国が軍事的にも外交的にも優位に立つことができるからである。ロシアがウクライナを侵略しながら、隣のNATOがそれを黙認しているのは、ロシアが核の先制使用を公言しているからである。北朝鮮は国民が飢餓に陥るほど疲弊しながらも、その軍事的優位性を誇るために核開発を強行している。今後も核兵器は増えることはあっても減ることはないであろう。過去には米ソ冷戦期に約7万発あった核兵器は、ソ連崩壊による冷戦後には各種条約と世界世論の結果、現在の1万2千発まで減った。だが世界的な政治ストレス・外交ストレスの高まりによって、現在は中国・北朝鮮が急速に保有量を増やしており、世界的にも増えつつある。9割を保有する米国とロシアによる核軍縮協定「新戦略兵器削減条約」(新START)は完全履行が危ぶまれる状態が続いている。ロシアが侵略するウクライナに向けて核弾頭を搭載できる新型の極超音速中距離弾道ミサイル「オレシニク」を発射するなど、運搬手段の高度化への懸念も強まっており、迎撃は難しくなっている。
米政策研究機関「軍備管理協会」によれば、核弾頭の国別保有数は、米国が5748発・ロシアが5580発・中国が500発・フランスが290発・英国が225発・インドとパキスタンがそれぞれ170発・イスラエルが90発、北朝鮮は50発と推定されている。中国は2030年までに核弾頭数を約1千発に増やすと宣言している。イランは直ちに保有する懸念がある。さらにロシアは同盟国のベラルーシに核兵器を持ち込み、オレシニクの発射権限を与えたため、核保有国は実質10ヵ国に増えており、もうじきイランが加わって11ヵ国となるだろう。
核戦争で実際にどの位の核兵器が使用されるのかは全く分かっていない。核兵器を保有していてもそれが倉庫にあれば、核戦争の瞬時性から考えれば役に立たないことになる。実戦配備しているもののうち、実際に何%が発射されるかは、相手の攻撃を受けることを察知した数十分以内の時間で決まるだろう。既に軍事衛星により、各国の地下核ミサイルサイトの位置は分かっており、その大部分が先に攻撃した国の核兵器で破壊されるだろう。確実に発射可能なのは、原潜が持つ核ミサイルだけであると思われる。原潜はその位置が探知できず、事前攻撃は不可能とされる。しかし本国の首都が消滅していた場合、原潜は発射するかどうかを単独で判断しなければならないかもしれない。恐らくそれは決行されるであろう。
核戦争による世界の被害もまた、想定を困難にしている。仮に主要国の主要都市全てが消滅した場合、数億人が亡くなる可能性があり、その後の核の冬があれば、さらに数十億人が亡くなるだろう。電磁波攻撃があれば、主要都市の通信は途絶し、自動車や鉄道が動かなくなることから、食料や物資の搬入が難しいだろう(23.1.4「日本が恐れるべきは電磁パルス攻撃」)。少なくとも数年は主要都市での文明が崩壊することは間違いないところであろう(2.27「文明の同時崩壊」)。
以上のように、核兵器は人類を存亡の危機に追いやる最終兵器である。それによって文明を失いかけた人類が、文明を復興させることができるかどうかは、その後の各国同士の通常戦、ないしは内戦があるかどうかで決まるだろう。内戦が起きた場合はそれは戦国時代の様相を呈することになり、十数年は決着することはないと思われる。正に生きるか死ぬかの泥沼戦となるだろう。
未来世界はその戦国時代が収束したころに、世界のどこかで世界政府を唱える人間が出てくることで始まる。その思想は世界連邦という形で最終的にまとまるだろうが、問題はその人間が率いる軍力が少なくともその国を、そして順次世界をまとめることが出来るかに掛かっている(23.7.8「国家と世界の安定統治は可能か?」・21.3.28「世界連邦の可能性」)。だが軍力だけで未来世界をまとめることはできない。世界の民が納得する思想がそこにはなければならない。それは恐らくノム思想しかないであろう(20.9.7「ノム思想とは?」)。もしノム思想がその時点で知られているならば、最終指導者はそれを躊躇なく選択するであろうし、そう願っている。そして世界連邦政府は世界中の国々に拡散したあらゆる武器と兵器を連邦軍に集約し、世界で唯一の軍力を持つことになる。そして核兵器はせいぜい10発ほどが連邦政府の管理下に置かれることになるだろう。世界中の核兵器は解体され、核物質は原子力発電のための平和利用に回されることになるだろう。残りは荒野の岩盤の下に埋められる。
(12.22起案・起筆・12.23終筆・掲載23:15・追記23:35)